⑯作業分担と効率化
――ということで、拓夢と百合江は、二人で校舎の掃除をすることになったのであった。
「二人で一つのことをしていては効率が悪いので、作業分担しましょうか。私がゴミを集めていきますから、城岡さんはその後ろをモップがけしていただけますか?」
「はい、分かりました」
モップを片手に、拓夢は返事をする。
「それにしても……ここの廊下広いから、かなり時間かかりそうですね」
「はい。ですから、喋ってる間にも手を動かしましょう」
拓夢に背を向けながら、百合江はホウキでゴミを掃いていく。
四天使の中でも、一番素っ気ない態度である。
しかし、百合江はコミュニケーション自体を拒絶しているわけではない。
ただ単に、真面目すぎるだけなのだ。
後は、人見知りというのもあるかもしれない。
いずれにしても、拓夢は百合江に親近感を感じ始めていた。
「冷条院さんって、いつもこんな朝早くから掃除をしているんですか?」
試しに声をかけてみると、意外にフランクな言葉が返ってきた。
「ええ……毎朝というわけではありませんけど。暇があったら、必ず」
「でも、大変じゃないですか?」
「大変だなんてことは……。私は生徒会長ですし、生徒の皆さんが、朝気持ちよく登校してもらえるなら、それで満足です」
「それならいいんですけど……」
心配無用、と言われると、それ以上かける言葉は見つからなくなる。
「あの、城岡さん」
今度は、百合江の方から声をかけてきた。
「なんですか?」
「どうして、掃除を手伝いたいなんて言い出したんですか?」
「どうしてってこともないですけど。どうせヒマでしたし。冷条院さんが1人で掃除してるのを見て、何だか手伝いたい気持ちになっちゃって」
「……わ、私のため、ということですか?」
「……? ええ、そうですけど……」
背を向けてるので分からないが、百合江はどうやら動揺しているようだ。
「冷条院さん、どうかしましたか?」
「……ハッ。私としたことが。手が止まっていましたね。すみません!」
別にそんなつもりで言ったわけではないのだが、百合江はホウキがけするスピードを速めた。
しかし、掃除してる間にも、チラチラと拓夢に視線を向けていた。
そして、目が合うと慌てて後ろを向く。
少しは打ち解けたと思ったのは、拓夢の勘違いだったか。
「冷条院さんって、一年生からずっと生徒会にいるでそうね? いやー、すごいなあ」
「べ、別に凄くなんてありません! あまり持ち上げないでください!」
こんな感じで、会話もすぐに打ち切られる。
だんだん気まずい雰囲気になってきたことを察したのか、百合江は突然口を開いた。
「城岡さん」
「はい」
拓夢が立ち止まると、百合絵は振り返って、
「……やはり、お喋りしながらやっては効率が悪いと思うので、城岡さんは下の階を担当していただけますか? 私はこのまま上から掃除していくので、途中で合流することにしましょう」
そう早口でまくし立てる百合江の顔は、心なしか赤く染まって見えたのであった。