㊿桜の言うイイところとは
夕日も大分傾きかけた頃。
ようやく桜と拓夢は目的のアトラクションへと着いた。
黄昏時の風は少し冷たく、あれだけ沢山いた人も、多少はまばらになっていた。
「はー…………」
結構な距離を走った――というより、ムリヤリ桜に引っ張ってこられたのだが、拓夢は荒くなった息を整え呼吸を楽にした。
「拓夢くん、いよいよだよ~」
感慨深げな雰囲気で、桜はスタッフの指示に従ってそのアトラクションへと乗り込もうとした。
拓夢もすぐ後から続く。
あれだけ大急ぎで桜が向かおうとした、「イイとこ」とは――。
「……ここでしたか」
そこは、この遊園地のシンボル、観覧車だった。
小高い丘の上にあるこの巨大な観覧車は、地上120メートルの高さまで上昇し、南側を見れば海が見える。頂上まで近づけば、水平線の遥か彼方まで見通せる、この遊園地の目玉的なアトラクションだった。
ガラス張りの扉が開けられる。
拓夢と桜は、フカフカの座席に座った。
その様子を見届けたスタッフが、スライドしてドアを閉める。
密室の箱の中には、拓夢と桜が二人っきり。
「は、はは……。なんか、緊張しますね……」
拓夢は桜に話しかける。さっきのプリクラとは違って、やけに大人しい。というより、ソワソワして落ち着かない様子だ。
「うん……」
小さく声を上げただけで、桜は見向きもしない。
代わりに先ほどからチラチラと、スマホを見ている。どうやら、時間を気にしているようだが。何かこれから予定でも入っているのだろうか。
拓夢はチラリと外を見た。
少しだけ、きしむ音が聞こえると、ゴンドラが動き出した。
「お、始まるようですよ」
拓夢の言葉と共に、観覧車は地を離れ、空中に浮かび出した。
ゆっくりと、空の散歩が始まる。
「おおーっ、凄い。いきなり良い景色ですよ、桜さん」
テンション高く、窓の外の景色に身を乗り出す拓夢。
だからなのだろうか。
「ん……がんばらないと。ここで、勝負を決めるんだ……」
ボソボソと、桜の呟く声は、拓夢には聞こえていなかった。




