㊳至れり尽くせりな昼休み
「は~い、拓夢くん、あ~~~~~~ん♪」
フォークに突き刺したミートボールを、拓夢に向かって差し出す桜。
パクッと拓夢は口にくわえる。
「……どう? おいしい?」
子犬のように瞳をウルウルさせながら尋ねてくる桜に、拓夢は今日だけで何百回言わされたか分からないセリフを繰り出す。
「……おいしいです」
「だよね~~♪ 愛情がたっぷり詰まってるもん♡♡♡♡」
お昼休み、学食にて。加々美桜は、拓夢に手作り弁当を食べさせていた。
昨日の日本史の授業にて、「武将の名前しりとりゲーム」で僅差の敗北(?)をしたので、拓夢に手作り弁当を食べさせるという罰(作戦)なのだ。
料理の腕に問題はない。保温カップに入った熱々の味噌汁、ミニトマト、ブロッコリー、ウインナー、コロッケ、ミートボール、そしてウナギを巻いたダシ巻卵など、前回とは違い、いたって普通のお弁当だった。おそらく、拓夢に「おいしい」と言ってもらえるよう、精一杯に努力を積み重ねてきたのだろう。元々桜はお嬢様で才女である。英才教育を施せば、短期間でこれくらいの上達を見せても不思議ではない。
そんなことを考えている時だった。
彼女が拓夢の口元に手を差し出してきたのは。
「あ~、拓夢くん、ご飯粒ついてるよ~~~~?」
――キャアアアアアアアアアアアアッッ!!
桜が拓夢の口元についていたお米を口にするのと同時に、学食内にいた女生徒から黄色い叫び声が響き渡る。
「うん♪ 我ながら美味しく炊けてる……って、拓夢くん? どうかした? わたし、何か変なことした?」
「い、いいえ……ありがとうございます」
あなたのせいですよ……とは言えずに、拓夢は首を横に振る。
「ねえねえ、今度はこれ! タコさんウインナーっ!」
桜は、上手に回転切りされたウインナーを箸でつかむと、拓夢の口元に寄せる。
「どう? 美味しい?」
「は……はい。おいしいです」
そう言うと桜がまた目をキラキラと光らせる。おいしいと言ってもらえることが、よほど嬉しいようだ。
「あ、ごめんね。喉乾いたよね。はい、お茶」
「あ、ありがとうございます……って、何してるんですか?」
喉の渇きに気づいてくれたことは嬉しかったが。
水筒のコップまで自分の口元に近づけてきたのには、何か意味があるのだろうか。
「いや、夫のお食事を食べさせてあげるのが、妻の役目かなって」
「いや、妻って……。僕達、まだ学生でしょう」
「ひ、ひどい……。あの夜、わたしにしてくれたこと、忘れたの?」
「だ、だから! そういう言い方止めてください!」
今度は別の意味で目を光らせる桜に根負けし、拓夢は大人しく水分補給をさせてもらうのだった。