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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第1章 ようこそ庶民様! 聖ジュリアンヌ女学院へ!
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⑫全然ダメです~ノエルに初日の報告をした際のリアクション~

 そして拓夢とノエルは、テーブルを挟んで向かい合った。

 

 正直拓夢は、ノエルを苦手としていた。

 人形のように整った、無機質な容貌。長い脚を優雅に組み、サクランボのような唇で紅茶を飲む姿は、それだけで完成された絵画のような美しさがあるのだが。


 しかし、同時に自信もあった。なにしろ、この学園でもトップクラスのセレブである。加々美桜と親しくなれたのだ。クラスメートとはかなりの壁があるが。それでも、一人でも打ち解けて話せる相手が出来たのだ。


「……と、いうわけなんですよ。ノエルさん」


 以上のことを、かいつまんで拓夢は説明した。

 具体的にはまだ一人も友達を作れていないが、初日としては上出来だろう。しかも庶民特待生という特殊な立場、女性アレルギーのことも考慮に入れると、かなりの進歩と言っても差し支えない――となれば、ノエルとて一定の評価はくれるはずだ。


 そうなれば、このクールな銀髪メイドの笑う姿を、初めて見れるかもしれない。


 ノエルは、カップを音もなくソーサーに置いた。


 無言のまま茶葉を蒸らして、二杯目の紅茶をカップに注いだ。そして、サラサラなポニーテールが波打つほどの速度で顔を正面に向けると、絶対零度の表情でこう言い放った。


「全然ダメです」


 空気が凍り付くとは、このような事態を表現するのだろう。そこまでバッサリ切り捨てられるとは思いもしなかった拓夢は、しばらく固まっていた。


 しかし、当のノエルはどこ吹く風で、二杯目の紅茶を美味しそうに飲んでいる。白くか細い喉ぼとけが、一口含むごとにゆっくりと、ビー玉のように動く様は何とも色っぽくて……。


「って、そうじゃなくて! どうしてダメなんですか!?」


「……はぁ。いいですか? 拓夢様」


 ノエルは出来の悪い子供に諭すように、前置きを置きながらゆっくりと話し始めた。


「わが校に在籍する生徒数が何人なのか、覚えてらっしゃいますか?」


「し、知ってますよ。今現在、562人ですよね?」


「だからダメなんです」


 と、ノエルは拓夢の〝ダメな点〟を指摘した。


「拓夢様のクラスでの様子は、教師や生徒からの報告が複数上がってきています。

 授業中は一言も喋らず、休み時間はずっとトイレ。お昼休みにはどこかへ消えてしまうと。

 あなたは、全女子学生にとっての〝庶民特待生〟なのですよ? このままでは、全生徒と接触するのに、どれだけの年数をかけるおつもりですか?」


 表情を全く変えずに、同じトーンで淡々と説教をするノエル。しかも、言い方がねちっこい。二人きりの部屋で、美少女メイドから冷遇される。マゾの人間ならば悶えるシチュエーションだったが。


 あいにく拓夢は、普通の人間だった。


「拓夢様」


 名前を呼ばれて意識を戻すと、ジト目で睨むノエルの姿が。


「聞いていますか? これからは、休み時間中に寝ないでください……どうせ狸寝入りでしょう?」


「あ……す、すみません」


「お昼休みも、ちゃんと食堂を使うこと。はあ……ボッチ飯などというものが、本当にあるとは思いませんでしたよ」


「は、はい」


 と、次々と今日一日の行動を指摘され、拓夢は顔を真っ赤にして謝罪する。このままでは危険だ。ノエルは夢子の秘書。となれば、夢子からの評価も落ちることに……。


「……よろしいですか? 拓夢様」


「す、すみません」


「謝らなくてもいいんです」


 そう言われ、拓夢は驚愕した表情でノエルを見た。

 なぜかというと。あのノエルが笑っていたからだ。笑うというより、白い頬を少しだけほころばせて。目じりもわずかながら上げて、優しげな笑みを浮かべている。


「人間、最初から全て上手くいくものではありません。その為に私がいるのです。なので、一緒に頑張っていきましょう?」


 激励をかけてくれるノエルだが、拓夢の頭には入っていなかった。

 なんというか……疑惑が確信に変わったのだ。やはり前に一度、ノエルと会ったことがある。

 この青い瞳、白い肌、銀色の髪。うっすらとうろ覚えだが……確実に拓夢は、ノエルの姿にデジャヴを覚えていた。


「そう。昔、どこかで……」


 思わず口から漏らしたつぶやきに、ノエルは聞き返した。


「どうかされましたか?」


「な、なんでもありません!」


 拓夢は、内心の動揺を気取られないよう、首を振って答えた。その様子を、ノエルは関心なさそうに見ている。


 もし拓夢と接点があるのだとしたら、ここまで無関心なことがありえるだろうか?

 それとも、わざと気づいてないフリをしている?

 だとしても、当の拓夢も全てを思い出せないようでは、ここでそれを尋ねるのもどうかと思う。


「まあ、ということなので」


 拓夢が考え込んでいると、すっかり無表情に戻ったノエルが場を仕切り直す。

 そして……。


「拓夢様には、部活動に加入していただきます」


「は……?」


 ノエルの言葉に、拓夢はきょとんと聞き返した。

 聞き間違いではない。

 部活動に加入して「頂きます」と。ノエルはそう言ったのだ。

 

「あの……ノエルさん」


「なんでしょうか?」


「それ……拒否権とかって……ないんでしょうか?」


「ないです」


 拓夢の必死の問いかけを、バッサリとノエルは切り捨てた。


「庶民特待生は、何らかの部活、同好会、役員会などに所属しなけれればなりません。昨夜お渡しした契約書にも、しっかりと明記されております」


「ううっ!?」


 無表情で説明され、契約書のことまで持ち出されると痛い。

 普通の部活動くらいなら、拓夢も参加していいと思ってる。そう、普通の部活ならば、だ。

 しかし……しかし。猛烈に嫌な予感が、拓夢の全身を駆け巡っていた。


「あの……一応聞きますけど、どの部活に所属するか、僕に選ばせてくれるんですよね?」


「いいえ。私の独断で、既に決めておきました」


 無表情でノエルが、とんでもないことを言った。

 ノエルが言う部活……否、同好会は、『庶民同好会』というものだった。

 立ち上げたばかりなので、部活動の認可がすぐに下りなかったので、同好会という名目を取っているらしい。


 庶民同好会の活動は庶民観察ということになっている。実態はよく分からないが、少なくとも拓夢を中心にして、庶民の文化を研究しようという内容らしい。


「ということです。正式な部ではないので、入部届は必要ありませんよ」


「そ、そんな……勝手に。ひどいですよ……」


「ひどい? 何がです? 部活動の強制は契約書にあること。ぼっちを改善するために私が協力すること。全て、あなたが了承したことじゃないですか」


 ……拓夢は言葉に詰まった。それは間違ってはいない。やり方を少し考えてくれと言っているだけだ。


「せ、せめてどの部に所属するかは僕に決めさせてほしいんですけど」


「ダメです。既に部員は決まっています。しかも、どのお方も超絶セレブ揃いですよ? 怒らせたら、何をするか分かりませんねえ」


 そう脅され、「僕は嫌だ」の一言が喉に詰まる拓夢であった。


「そ、その部員の人たちって、何人いるんですか? どういう人たちなんですか?」


「ご安心ください。私が選抜した、学園の中でも容姿、人間性、財力、全てにおいてカーストトップに君臨する女生徒たちです」


 ノエルは真剣な顔で拓夢を見つめ、そう言った。


「人呼んで、学園の〝四天使〟」


 ノエルの言葉に、拓夢は呆然とした。

 四天使とはなんなのだろうか。漫画でよくある四天王的な立ち位置なのだろうか。


「四天使というのはですね」


 拓夢の疑問を読み取ったかのように、ノエルは四天使について説明する。


「新聞部が主催するこの学園の人気投票において、トップにおける四名の方たちです。頭脳明晰、容姿端麗、富豪資産家、品行方正、明朗快活と、人間的にも経済的にも優れたお嬢様方が、庶民同好会への入部を快諾してくださいました」


 ノエルはファイルから新聞を取り出して言った。そこには、四天使の見出しの記事が、確かに書かれていた。


「無理ですっ、そんな方たちを相手にするのは、間違いなく無理です!」


「なぜ……?」


「その方たちって、多分全員美人でしょう? 僕の体がもちません。ていうか、庶民は別に研究されるほど凄い存在ではありません! というより……ああ、もう! ツッコミが追い付かないですよ、もう!」


 起こった出来事とノエルのノリに、ついに拓夢の思考回路はショートを起こしてしまった。

 混乱する拓夢をよそに、ノエルは冷静に新聞をファイルにしまう。


「それでは、そろそろ行きましょうか。これから、庶民同好会の初日活動があるので」


「こ、これから!? って、ちょっと待ってくださいよーっ!」


 さらにとんでもないことを言い出すノエルを、必死に止める拓夢。

 しかし奮闘もむなしく、拓夢は部室へと連れ去られてしまうのであった。

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