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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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㉟私なりのやり方で。

 生徒総会が終わって、放課後の生徒会室にて。


「百合江さん、お疲れさまでした」


「もう、本当に疲れましたよ。あんなこと、二度とゴメンです」


 大げさに肩を落としながら、百合江はため息をついた。確かに疲れたような顔をしてはいるが、その表情には充実感もあった。


「僕のせい……ですよね。すみません。まさか、百合江さんにあそこまで言わせるなんて」


「い、いえ……。というか、思い返させないでください」


 百合江は顔を真っ赤にしながら俯いた。


 結局、百合江の『愛してる』発言は『人として……ですけど』という付け足しによって事なきを得た。全校生徒が集まる生徒総会の中で告白など、到底できるものではない。


 ――そう、できるはずが、ないのだ。


 百合江は諦めたように苦笑した。何かを受け入れたような笑みだ。


「あ、あの……忘れてください。今日のことは……」


 百合江らしくなく言葉を濁しながら、必死に話題を変えようとしたが、


「ダメですよ。百合江さんの気持ちに、しっかり答えないと」


 拓夢は逃がしてくれなかった。

 やっぱりあんなこと言うんじゃなかった、と百合江は後悔していた。

 やるとしても、もう少し段階を踏むべきだった。このままでは生徒会のメンバーはおろか、拓夢にまで迷惑がかかってしまう。


「そ、そんなことよりも。約束、忘れていないでしょうね? 生徒総会が終わったら。私の跡を継いで次の生徒会長になるって話。考えてくれましたか?」


 言った瞬間、さらなる後悔が襲う。おそらく自分は、一生異性に気持ちなんて伝えられないんだ。

 もし伝えられたとしても、鈍感な拓夢が気づいてくれるかは怪しい。


 拓夢は全力でしまった、という表情をして、


「そ、そうですよね! お返事しないと」


「失礼ですが、座ってもいいでしょうか? なんだか疲れてしまって」


「あ、はい。分かりました」


 百合江は拓夢の了承を得るとパイプ椅子に座った。

 途端にホッとする。拓夢を前にすると、緊張で足が震えるのだ。


「それじゃあ、早速返答についてですが」


 拓夢は息を一つつくと、


「ごめんなさい。僕には生徒会長は、無理です」


 深く、深く深く、頭を下げた。


「……拓夢さん」


 絶望したように、それでいてどこか納得したように目を細めながら、百合江は口を開いた。


「やっぱり……そうでしたか」


「すみません……僕にはどうしても、出来ないんです」


 拓夢は声も、視線も震えていた。


「でも……一応、理由を聞かせていただいてもいいですか? 例えば、私に何か問題があったとか」


「いいえ。これは……僕自身の問題なんです」


 拓夢は顔を上げて、百合江の目をまっすぐに見た。


「僕は、生徒会の皆さんのことが好きです。百合江さんも、静香さんも、ミカさんも、水月さんも。みんな僕に優しくしてくれました。でも……ダメなんです」


「生徒会長の大変さは、私が一番よく分かっています。庶民特待生として、庶民同好会との掛け持ちがキツいことも。ですが、それはやってみなければ分からないことじゃないですか? 例えば、ポイントとなるお仕事は貴方がして、残りのお仕事を各役員に振り分けるとかすれば――」

 

「……それじゃダメなんです。どうしても、甘えてしまうから」


 細くかよわい声で、しかしながら芯のある口調で拓夢は言った。


「僕……前の家では、義理の両親から虐待されていたんです。今では素直になりましたけど、聖薇も、表向きは僕を……。とにかく、辛い思い出しかなかったんです。この学園に来なかったら、きっと自ら死を選んでたかも……」


 凄惨(せいさん)な過去を噛みしめるように、拓夢はゆっくりと口を開いていく。


「だから……この学園の皆さんのことが好きです。庶民同好会の皆さんのことは、特に。僕に目をかけて、生徒会長を継いでほしいと言ってくれた、百合江さんのことも」


「でも……だったら、どうして……?」


「だからこそ、です。僕には百合江さんのように、他のことと他のことを両立させられないんです。例え出来たとしても、うまくやるのと全力でやるのは違うと思うから。そして僕の気持ちとしては……庶民同好会のメンバーとして、もっともっと皆さんと仲良くなりたいんです」


「拓夢さん……」


 百合江は、驚きながら拓夢を見ていた。初めて出会った時は、オドオドして不器用な男子という印象しかなかったのに。これだけみんなのことを思いやり、まっすぐな感情をぶつけられようとは。


「だから……ごめんなさい」


 再び頭を下げる拓夢を前に、百合江は優しく首を振った。


「……いいんですよ。最初から無理を申し上げるのはこちらですし。次の生徒会長は、普通に学内選挙で決めます」


「ありがとうございます。百合江さん」


 顔を上げる拓夢に、ニッコリと百合江は微笑んだ。


「私の任期はもう少しありますし、拓夢さんさえよければ、また生徒会室に遊びに来てください。もちろん、もし気が変わって生徒会長になりたいと思ったなら、私はいつでも推薦しますからね」


「はい。ただ……」


「?」


 気持ちのいい返事をしたと思いきや、言葉を濁す拓夢を、百合江は不思議そうに見ていた。

 拓夢は百合江の視線に気づいたのか、言いづらそうに口をゆっくりと開いた。


「さっきの、あの。告白の、件なんですけど……」


 拓夢の言葉に、思わず椅子から立ち上がった百合江は顔を真っ赤にし、両手をブンブン振りながら言った。


「あ、あああああれは。だからっ、そんなんじゃないんですっ……!」


 顔を紅潮させながらそう言われて、「あはは、僕の勘違いだったんですね」とは流石の拓夢も思わない。


「誤魔化さないでください。いくら鈍感な僕だって分かります。百合江さんは、真剣に僕に告白をしてくれたんですよね?」



「あ、あの。それは……」


 うろたえた百合江の口調はもつれていた。


 ――もしかして。もしかしたら……。


 心臓を握りつぶさんばかりに、期待で鼓動は高鳴っていた。それと同時に、言いようのない不安の嵐が吹き荒れる。


「も、もし仮にそうだとしたら……。あなたは私と、付き合っていただけるんですか……?」


 だから、「仮定の話」という逃げに回る。しかし、拓夢の方は逃げなかった。


「……ダメです。僕はこの学園の、庶民特待生ですから」


 ――やっぱり。百合江は気づかれないように拳を握りしめた。

 分かっていた。庶民特待生である拓夢と、生徒会長である自分が結ばれるなど、そんなことがあるはずないと。分かってはいたが、理屈よりも感情の方が波立つ。


「ですが、僕がこの学園を卒業したら。その時は庶民特待生じゃなくなるので、自由に恋愛が出来ます。その時にどうなるか分かりませんが、答えはその時ということでよければ――」


「……!」


 聞いた瞬間、崖の下にロープが垂らされたような安堵感が広がった。そうだ、拓夢が庶民特待生でさえなくなれば。

 自分もあと数か月でこの学園を去る。そうすれば、二人の恋を阻むものは、誰もいないではないか。


 元気を取り戻した百合江は、眼鏡のツルをくいっと持ち上げ、強がりの笑みを浮かべた。


「そ、そうですか! まあ、私としてもその頃には、他に素敵な恋人が出来ているかもしれませんけどねっ。他に選択肢もないですし、拓夢さんが恋人候補ということでいいですよ!」


「あ、もしご迷惑でしたら、僕は……」


「いいんです!! 拓夢さんで!!!!」


 またもや鈍感ムーブを発揮しようとした拓夢を、百合江は大声で制した。

 ただでさえ疲れているところに叫んでしまったので、軽い貧血を起こし、再び椅子にへたりこむ。


「よかったぁ……。私にも、まだチャンスがあるんだ……」


 絶対に聞かれないように、小声で呟く。すると拓夢は、


「どうしたんですか? 百合江さん、大丈夫ですかっ?」


 安堵して座り込む百合江を、体調不良と勘違いしたのだろう。必死に顔を覗き込んでいる。

 

(もう! 本当に鈍感な人なんだから……!)


 たまに拓夢の残酷な優しさには、どうしようもなく腹が立つ。

 しかし、それを上回るくらい愛しい。

 それにいつかは、口に出さなくても分かるくらい、拓夢に本当の気持ちを伝えてみせるから。


「……?」


 心配そうに見つめる拓夢の顔を、両手でそっと包み。


「……だからっ、覚悟していてくださいね? 鈍感さん……♡♡♡♡」


 ――最高の笑顔で、愛しい彼に口づけをした――

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