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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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㉚ハードルを越えよう

 昼休み。憩いの時間を告げる鐘の音が響き渡る中。

 拓夢は、教室から廊下へと出た。

 隣の教室からも、ややお上品ながらざわざわと賑やかな声が聞こえてくる。

 これから向かおうとしているのは、食堂。 

 ちょうどお腹も減っているし、今日は一ヵ月に一度しかメニューに並ばないという幻のメニュー、「キャビアとフォアグラのフレンチセット」が解禁される。これは、是非とも行かねば。


「拓夢せんぱいっ!」


 廊下の向かい側から走ってくる人影。

 くるみだった。

 くるみはなぜか白の体操服、下は紺色のブルマを穿いていた。下は動きやすいスニーカーだ。


「やあ、くるみちゃん。どうしたの? そんな恰好して」


 体育の授業でも長引いたのだろうか。そんなことを思いながら拓夢が尋ねると、


「これから『くるみお嬢様化計画』に付き合ってほしいですっ!」


 バイン、と体操服から胸がはじき出されそうなほど大きく飛び跳ねながら、くるみは叫んだ。

 しかし、拓夢は、


「……え?」


「……はい?」


 思わず尋ね返すくるみ。拓夢にはすぐ合点がいった。


「あー、そういうことか」


 ブルマなんて穿いてるから何かと思いきや、秘密の特訓に付き合ってほしいとのことらしい。

 休み時間にまで自分を研鑽(けんさん)しようとする努力は賞賛ものだが。

 拓夢としては、フォアグラとトリュフをお腹いっぱい食べてみたかった。

 そんなことは口が裂けても言えないが。


「分かったよ。協力するけど……今度は、どんなことをするの?」


「あ、はいっ」


 体操服を着ていることから、今度はスポーツ系に挑戦するらしい。お嬢様のスポーツといえばダンス、テニス、スケート、乗馬、新体操といったところか。

 拓夢が思考を巡らせていると、くるみは大きな胸元の前で両こぶしをギュッと握りながら叫んだ。


「くるみ、跳び箱を飛べるようになりたいですっ!!」


「…………へ?」


 拓夢は、呆気に取られながらくるみの言葉を聞き返した。跳び箱って、あの小学校で飛ぶ跳び箱のこと? 8段までは飛べるけど10段まで飛べるようになりたいとか、そういうこと?


「跳び箱って……くるみちゃん、どれぐらい飛べるの?」


「飛べるわけないじゃないですかぁ。あんなミミックみたいな怖~い箱さんですよう? くるみには、2段までが限界なんですう」


 そっかー、と拓夢は笑顔で答えた。

 ちなみに2段は40cmほどで、小学2年生でも飛び越えられる高さだ。


「あ―……そうなんだ……」


「ふえ? どうしたんですかぁ?」


 どうしたのかと聞かれたので、拓夢は正直に答えることにした。


「ハッキリ言って、お嬢様化計画には無理があると思うよ? 跳び箱も飛べないんじゃ……」


 遠慮がちに、言葉を濁しながら。

 聖ジュリアンヌ女学院は、スポーツの名門校でもある。真莉亜を筆頭として、数多くの全国大会に出場し、その成績はトップクラス。毎年何人ものアスリートをプロとして輩出している――。


 それが問題なのではない。

 運動が苦手なお嬢様だっている。体育の授業で毎回クラスのお荷物になるような子も。

 そんな中で、くるみは断トツで運動音痴なのだ。

 それ自体は悪くはないが、くるみが目指すのは文武両道の、完璧なお嬢様だ。不可能とまでは言わないが、限りなく遠い道のりだ。


 だから拓夢はそれとなく、くるみに諦めるよう伝えることにしたのだが……


「それでもいいんです!」


「くるみちゃん?」


「だって、挑戦することに意義があるじゃないですか!」


 両手を体の前でギュッと握りしめて、くるみは叫んだ。


「…………」


 あまりにも予想とは違う、前向きなことを言われたので、拓夢はしばらく黙っていたのだが……


「……くるみちゃん。成長したね」


 感慨深そうにまぶたをこすりながら、拓夢は呟いた。


「そんなポジティブなことを言われると、諦めろだなんて言えないじゃないか。まったく、僕は自分が恥ずかしいよ」


 苦笑しながら言うと、くるみは「ははーん」とイタズラっぽい笑みを浮かべて、


「あー、さては先輩あれですねぇ?」


「な、なに?」


「くるみに惚れちゃいましたね?」


「なんでだよ!?」


 爆弾発言に思わず大声でツッコんでしまう。


「またまた~。隠さなくていいんですよぉ? くるみはこんなに可愛いから、好きになっちゃっても無理はないです♡♡♡♡」


「ちがうしっ!」


 拓夢が大声で否定すると、


「え……ちがうんですか……? 拓夢先輩、くるみのこと嫌いなんですか……」


「温度差!!!!」


 目を伏せ涙を浮かべるくるみに、思わずツッコむその合間に。


「庶民特待生さまが、女の子を泣かせていますわ……」


「やはり庶民は下劣ですわね。理事長に報告しましょうかしら」


 ひそひそと道行く女子から冷ややかな言葉が浴びせられる。


「ち、違うよ、みんな誤解だって! 今だって、くるみちゃんの特訓に付き合ってあげようと……」


「特訓……? 二人きりで……?」


「それでブルマを着せているのですね……」


「不潔ですわ!!」


「違うって!!!!」


 しかし、女子たちは皆拓夢に軽蔑の眼差しを向けていた。

 結局女子たちの誤解を解き、くるみを泣き止ませ、一緒に体育館に向かうことが出来たのは、それから数十分立ってのことだった……。

 

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