㉘その武将の名は
「――それでは、次の質問だ。安土桃山時代から江戸時代初期にかけての武将で、伊達氏家臣・浜田景隆の長男といえば?」
教室中を見渡す、十神のクイズに対し、
「先生! それは北川宣勝です!」
拓夢が立ち上がり、手を挙げながら叫んだ。それに対し桜は、
「いいえティーチャー! 正解は、津軽為信ですっ! そうですよねッッ!!」
まるで対抗するように立ち上がって叫ぶ。まるで、早押しのクイズ大会のようだ。
「「「お二人共っ、何て勉強熱心なんでしょう~~~~っ! 素敵ですわぁあああああああ!」」」
クラスメイトからは、黄色い歓声が上がる。
「そうだな。いまのは、城岡の方が正解だ」
十神は拓夢に向けて笑顔を見せ、
「加々美の方は、少し惜しかったな。北川宣勝といえば、豊臣秀頼の家臣だ。しかし、間違うことをいとわずどんどん挙手していく姿勢は、わたしとしてはとても好ましく思えるぞ」
と、すかさず桜にもフォローを入れる。
「あ、はい……ありがとうございます」
隠れてゲームをしている罪悪感からか、拓夢がバツの悪そうに礼を述べると、
「ティーチャー、次は頑張りますねッッ!!」
――と、桜も元気よく返事をする。
そしてばらまかれる周囲の拍手に、拓夢は圧倒される。
(こ、これでバレないのが不思議だ……)
拓夢は不安に駆られた。
十神は実はしりとりをしていることに気づいて、後で怒ろうとわざと泳がせているのではないかと――。
「風魔小太郎!」
「よし、正解だ」
拓夢の不安をよそに、着々と正解を重ねていく桜であった。
拓夢は緊張した面持ちで、視線だけを彼女に向けた。
すると桜は一瞬だけにこりと笑みを向けると、すぐさま静かな表情に戻って黒板を見つめた。
「…………そろそろ残り時間も少なくなってきたな」
十神が板書中のチョークを置きながら言った。そして、こちら側に向き直る。
「では、最後に問題を出そう。『人は石垣』、『人は城』の名言でお馴染みの、戦国時代に越後国など北陸地方を支配した武将の名は?」
十神はもったいぶった口調で生徒達の顔を見渡すと、
「よし! 最後は庶民特待生である、城岡拓夢に答えてもらおうか!」
と、ハキハキとした口調で自分を指名してきた。
(まずい! これは……まずいだろ……っ!)
まさか、教師の方から当ててくるとは思わなかった。答えは『上杉謙信』。当然、『ん』がついてしまうので、言ったら自分の負けである。しかし、これだけ明らかなヒントを出されてるのに違う武将を言ったら、流石に疑われる。
(答えない……って選択肢は、流石にないよな)
ドキドキしながら拓夢は、チラリと壁掛け時計を見た。
時刻は、ちょうど授業が終わる五分ほど前。
ここで流れを無視して、上杉景勝など他の武将を上げれば自分の勝ちである。しかし、それでは遊んでいたことがバレて、十神に怒られてしまう可能性がある。
(どうする――? どうする!)
悩みに悩む拓夢の横で。
……彼女は既に行動を起こしていた。
桜は立ち上がり、手を挙げ、大きな声で、こう叫んだのであった。
「ティーチャー! それは、上杉謙信ですッッ!!!!」