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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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㉔私が誰より一番!!!!

「決着……ということで、異論はないだろうね?」


 真莉亜の父である一鶴が、サーブルの汚れをハンカチで落としながら言った。空気が重たい。麗奈はずっと黙っているし、真莉亜に至っては拓夢の胸の中で泣き続けている。そして、拓夢といえば女性アレルギー発症中で、ずっとガタガタと震えている始末だ。


「君の健闘は認めるよ。しかし、勝ったのは私だ。約束通り、これで真莉亜の婚約は私達に任せてもらうよ?」


 一鶴がそう告げた時、集められたパーティゲストの中から、一つの人影が現れた。


「……一鶴よ。それは違うぞ」


 その人物は一鶴に苦言を呈した。パーティ会場に現れたのは、先ほど拓夢と話していた老人だった。一鶴は、その老人の顔を見ると、表情を凍り付かせた。


「力で何でも手に入るものではあるまい。それに、お前は負けておる」


「えええっ!?」


 一鶴は声を張り上げる。紳士的な態度を崩さない一鶴が、初めて見せる慌てようだ。


「どういうことですか、お父君様(・・・・)……」


 一鶴は、その老人に対してそう呼んだ。拓夢も、一鶴に負けないぐらい驚く。

 庭師だと思っていたこの作業着を着た老人は、一鶴の父――つまり、真莉亜の祖父なのだ。

 有栖川清張(ありすがわせいちょう)。前有栖川グループの社長にして、後継者を一鶴に指名して引退。現在は会長職を務める傍ら、悠々自適な隠居生活を送っているという。本家である真莉亜の祖父なので、一族の中で一番の権力者というわけだ。


「私の負けとは、どういうことですか。私は見事、この剣に城岡君の薔薇を突き刺しました」


「……彼は勝っていたよ。勝てる勝負を、あえて捨てたのじゃ。この子たちのためにな」


 お爺さんは落ち着いた声で「その子たち」を指さした。

 ピスト代わりに配置されていた、花壇に咲いた花たちだ。


「……この子たち? とは……?」


 一鶴が、(いぶか)しげにお爺さんに尋ねる。


「そう。大切な、我が子じゃよ」


 そう言って杖を突きながら歩き、花弁をそっと撫でる。片や、一鶴は神妙な面持ちで、


「……お父君様。ご説明頂けますでしょうか」


「ほっほっほ。よかろう」


 一鶴の言葉に、お爺さんは笑って頷いた。有栖川邸の草花は全て自分が面倒を見てること。拓夢がガーデニングの手伝いを自ら買って出てくれて嬉しかったこと、など。


「分かるか? 一鶴よ。拓夢君は、お前より先に刺そうと思えば刺せた。しかし、そうすればお前は後ろの花壇にぶつかりケガをしてしまう。もちろん、花達も傷つくことになる。拓夢君は、それを避けたのじゃ。勝てる勝負を捨て、救える命を救った……この子の、何たる優しいことか」


 お爺さんがそう言うと、真莉亜と麗奈が一鶴の前に歩み出て、


「そ、そうですわ! 拓夢さまは、いつだって優しいんです! わたくしだけにではなくて、誰に対しても!」


「あたくしもそう思いますの。もう、拓夢さんを認めてさしあげてもよろしいのではなくって? あなた」


「三人とも、気持ちは分かるがね。しかし、勝負は勝負だよ」


 ところが、意外にも一鶴はその意見に対して反論した。


「こうしていれば、ああしていれば、が通るほど、人生は甘くない。真莉亜。それは君にも言えることなんだぞ?」


 毅然とした口調で、一鶴は真莉亜に苦言を呈した。


「確かに、城岡君は魅力的な男性だ。優しいし勇気もあって、いざという時の決断力もある。しかし、人の心は移ろいやすいものだ。呆気ないほど、簡単にな。あるいは、有栖川が死に物狂いで築いてきた歴史に、泥を塗るかもしれない。真莉亜、そのことについてはどう考えるのかね?」


「お父さまのおっしゃること、よく分かりますわ」


 対して真莉亜は断固とした口調で断言する。


「お父さまたちが決めてくださった婚約を破棄したことは謝りますわ。ですが、わたくしは拓夢さまのことが好き。愛していますの。拓夢さまのことが好きな自分も好きですわ。だからこそ、わたくしは拓夢さまのことを支え、手伝いたいと思っております。心から」


 そう言うと、お爺さんや麗奈に視線を向けて、


「決して、有栖川の顔に泥を塗るようなことはいたしませんわ。拓夢さまが教えてくださったのです。努力を結果が裏切るようなことはしないと。いつだって他人のために頑張れる拓夢さまは、他のどんな婚約者よりも、わたくしに大切なことを教えてくれる気がいたしますわ。何より、拓夢さまの前だと、自然に笑えるのです。有栖川の娘としてではなく、一人の女の子として。ですから……」


 真莉亜は地面に膝をつき、三つ指を置きながら頭を垂れる。


「拓夢さまとの婚約を認めてください。お願いいたします」


「真莉亜……」


 そんな真莉亜を、感慨深そうに見下ろす一鶴と麗奈。


「……一鶴、麗奈よ。どうじゃろう。子供の純粋な愛を踏みにじるのは、親としてあるまじき行為だと思わんかね?」


 お爺さんは、荘厳な口調で二人に問いかけた。そして、ふわりと雰囲気を和らげながら、拓夢に向き直る。


「……拓夢君。実はのう。君のことはもう調べておるんじゃ。可哀相にな。幼くして両親を亡くすとは。そして、義理の両親に育てられ、君は酷い虐待を受けた。そんな君が、真莉亜を本当に幸せに出来るのじゃろうか?」


 お爺さんは、真っすぐに視線をぶつけながら、拓夢に問いかけた。拓夢はその圧倒される貫禄にひるみつつも、その目を見返しながら答えた。


「正直言って、分かりません……。いえ、自信ないのかも。僕には、至らない点が多すぎます。でも、真莉亜さんを笑顔にしたいって気持ちは、誰にも負けない自信があります。それだけは……誰にも負けません」


 ハッキリとそう答える拓夢に、お爺さんは相好を崩しながら、


「ほっほっほ。言うのう。ワシらを前にしながら、誰よりも真莉亜を笑顔に出来るとな? しかし、おそらく真実じゃろうな」


 白ヒゲを撫で、嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「じゃがのう……その逆。つまり真莉亜を泣かせるようなことがあれば、ワシらも許しはせん。分かっておるのじゃろうな?」


「……はい。結構です」


「ほっほっほ。そうかそうか」


 好々爺然(こうこうやぜん)とした態度を崩すことなく、お爺さんは一鶴にチラリと視線を向けると、


「一鶴よ。どうじゃ? まだ不満かのう?」


「……お父君様も、お人が悪い」


 一鶴は、してやられたという風に苦笑した。先ほどまでのビジネス風の笑いではない。優しい笑顔だ。


「……お父さま」


「真莉亜。知らず知らずのうちに、君はこんなにも成長していたんだね」


 一鶴は真莉亜の前にしゃがむと、その肩にポン、と手を置きながら、


「もう何も止めないし口も出さない。君の思うとおりにしなさい。困ったことがあったら、僕らも出来る限りのことをするよ」


「おとう、さま……」


 安心して涙腺が緩んだのか、真莉亜はポロポロと大粒の涙を流す。


「たくむさま……こんなわたくしですが、お嫁に貰っていただけますか?」


 真莉亜は反則級なほど美しい表情を涙に濡らしながら、拓夢に乞う。拓夢は、ボリボリと頬を指でかきながら、


「えーっと……考えるだけですよ? それでよければ」


「拓夢さまああああああああああああああああああああっ!!」


 拓夢の胸の飛び込んで……いや、逆に自らの胸にかかえる形で、真莉亜は拓夢の顔を両手の中にうずめた。


「結婚式場を、今から見て回りましょうか! 子供は何人がいいかしら? お洋服と、ベビーカーも買わないと!」


「……ひ、ひえ。し、死ぬ……」


 ぴったりと自分の顔に密着する柔軟な女体に、拓夢の女性アレルギーは強く反応した。


「真莉亜ったらズルいですのー。あたくしにとっても息子になるのですから、ぎゅーさせてー」


 麗奈はそんな苦痛の叫びなど知らないと言った風に、拓夢の右腕に自らの胸を絡ませる。


「やっぱり拓夢くんは可愛いですのー♡ これからはあたくしのこと、『お母さん』って呼んでいいですのー」


 麗奈はウットリと抱きしめる腕に力をこめる。

 すると、


「ズルいでしゅわー! 拓夢おにーしゃまは、ぁたくしにとっても叔父になるのでしゅから、ぁたくしも抱っこさせてくだまち!」


「そうよ! 真莉亜ちゃんだけなんてあんまりよ! あたしにも抱かせて!」


 幼女、叔母と。次々に騒ぎ出す、パーティ広場に集められた有栖川の一族たち。

 

 え……?


 薄れゆく意識の中で、拓夢は思った。

 まさかこの人たち、全員とハグすんの??????

 拓夢が面食らっていると、


「あらあらー。拓夢さん、これは大変ですのー」


「拓夢さまっ、他の女性にデレデレしたらダメですわっ!」


 麗奈と真莉亜、双方が顔を覗き込む。


「真莉亜ー。どうやら、あなたのライバルは多いみたいよー? あたくしも含めてねー。大丈夫なのー?」


 麗奈はフワフワな笑顔を浮かべながら、イタズラっぽく尋ねた。

 すると、


「大丈夫……ですわっ」


 真莉亜は、拓夢の頬を両手でつかんだ。

 美しき顔が、アップで近づいてくる。


「わたくしが誰よりも……拓夢さまを、愛しておりますもの♡♡」


 薄くルージュを引いて、艶やかに濡れた唇。滑らかな柔らかさと暖かさをもった、真っ赤な舌が、拓夢に向かって突き出され――


 ――きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 有栖川邸に、今日一番の黄色い悲鳴が響き渡る。

 そして、


「……真莉亜。若い男女なのだから接吻(せっぷん)の一つや二つに文句を言う気はないが、皆の目もあるし、拓夢君にはアレルギーもある。ゆえに、そろそろ離してあげることを推薦(すいせん)するよ」


 どこまでも合理的で冷静な一鶴の言葉を聞くと共に、拓夢は安心して気を失うのであった……。

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