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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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㉓最後の勝利者

「うおおおぉぉぉおおおおおおっ!」


 拓夢は攻撃した。マルシェ、ロンペ、ファンデブ、ボンナバン、ボンナリエール、全ての基本動作を合わせて。もちろん、一鶴のそれと比べれば天と地ほどの差があるはずなのだが――


「くっ……!」


 一鶴は焦りの声を漏らす。

 拓夢の猛攻に耐えかね、後方に下がる技術――ロンぺを使うほどに。

 拓夢の攻撃の、先ほどと何が違うのか。


 原因は、一鶴がフェンシング上級者ということにある。

 フェンシングというのは、「先に攻撃を仕掛けた方が有利」なスポーツである。サーブルの場合、頭部、両腕を含む上半身全てが有効範囲だ。

 ということは。


 一鶴は無意識の内に、有効面をガードしてしまうのである。

 もちろん、これは正式なフェンシングではなく「薔薇の決闘」なので、心臓に刺してある薔薇さえガードすれば問題ない。


 しかし、一鶴にはそれが出来ないのである。初心者の攻撃を受けることの屈辱か。それとも長年に渡り染みついた習慣か。どちらにせよ、防ぐ必要のない場所への攻撃を、相手はわざわざ庇ってくれるのだ。


 拓夢は脇腹を突こうとする。

 一鶴はバラードではじき返そうとする。

 すると拓夢は手首をひねって剣先をクルリと回転させ、今度は一鶴の心臓めがけてファンデブを繰り出す。


「ううっ!」


 短く叫ぶ一鶴。

 

「拓夢さま、すごいですわー!」


 はしゃぐ真莉亜。


「一鶴さんが、ここまで押されるなんて……」


 驚く麗奈。

 そして、胸に刺した薔薇がハラハラと舞って……


「まだだっ!」


 雄々しく叫ぶ一鶴。薔薇にサーブルが突き刺さる寸前、ボンナリエール……一気に後方に飛びのく技術によって、回避していたのだ。しかし、花びらは5,6枚ほど落ち、残る花びらは5枚ほど。花冠(かかん)が落ちるのも、時間の問題である。


(今のは惜しかった……)


 拓夢は興奮で頭がいっぱいだった。


(勝てる……勝てるぞ!!)


 それで――ついに真莉亜は自由の身となる。

 拓夢はもう迷うことなく、銀色の切っ先を真っすぐ一鶴に向けて構える。

 じりじりとにじみ寄り、1メートルほどの距離で立ち止まると、


「行くぞっ!」


 全身全霊の突きを仕掛けた。


(大丈夫、勝てる! いや、勝つんだ!!)


 自分を奮い立たせるように、心の中で叫ぶ。


「甘いな……!!」


 しかし一鶴は、流水のように無駄のない所作で拓夢の剣を払うと、逆にリポスト――カウンターの突きを放った。


「ぐうっ!」


 ガキン! という甲高い音がして、空気が裂け風が頬を叩きつける。

 本能的にバラードをし、逆にリポストによって一鶴に反撃しようとした時。


「――ふんっ!」


 そこに、一鶴の姿はなかった。


「え――――」


 もちろん、一鶴が突然姿を消したわけではない。


「!?」


 拓夢は驚いて振り返った。

 一鶴は拓夢をまたぐ形で大きくジャンプをし、自分の突きを緊急回避したのだ。

 確かに、フェイントよって自分のスタイルを惑わされてしまうならば、防御ではなく、攻撃を全てかわしてしまえばいい。


 しかしそれは、野獣のような動体視力と、運動神経がなければ成り立たないことだ。


「…………フッ」


 振り向いた拓夢は、一鶴とすぐに目が合った。

 一鶴は、すぐ目の前にいたのだ。

 しかし一鶴は、ピスト代わりにした花壇をすぐ背にしている。ピストから足を出すと負けになる。つまり、一鶴もまた背水の陣に立っているということだ。


「うおおおおぉぉああああああっ!!」


 二人は同時に、薔薇めがけて突きを繰り出した。


「――あっ」


 短く声を漏らしたのは、拓夢であった。実際には、声を上げる間も無かったのだが。

 拓夢の剣は、遥か虚空を刺していた。直後パリンという音と共に、胸に刺した薔薇のプレートが奪われる音がする。


「う、うう……」


 がっくりと、地面に膝をつく拓夢。

 拓夢は負けたのだ。

 悠然とたたずむ一鶴の剣先には、しっかりと拓夢が胸に刺していた薔薇が突き刺さっている。


(………………)


 激戦からの呆気ない幕切れに、ギャラリー達が息を呑む中、


「拓夢さまぁっ!」


 静まり返った広場に響き渡ったのは、真莉亜の叫び声だった。


「拓夢さま、拓夢さまっ」


 膝をつく拓夢に駆け寄ると、顔を覗き込んで、


「大丈夫ですの!?」


 心配そうに声をかける。

 しかし拓夢は、


「……真莉亜さん」


 呆然と名前を呼ぶだけであった。

 そのシャツを確認する。花弁も、花托も、花茎も。花を形作るものは何も残っていない。


「そんな……そんな」


 それを見た時、真莉亜は一気に瞳に涙を溜めた。


「いやぁあああああああああああああぁぁあああああっ!!」


 絹を裂くように悲痛な真莉亜の泣き叫ぶ声が、有栖川邸に木霊するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [気になる点] >一鶴はバラードではじき返そうとする。すると拓夢は手首をひねって剣先をクルリと回転させ、今度は一鶴の心臓めがけてファンデブを繰り出す ・・・・せ、専…
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