㉒閃光のフレッシュ
「城岡君、これで終わりだ!!」
長い手から繰り出される刃が、拓夢の目に映る。
「くっ!」
「――なにっ!?」
瞬間、拓夢は自らのサーブルで、一鶴の突きを跳ね返していた。渾身の突きをかわされ、一鶴には隙が生じていた。
「今だ!」
拓夢はその隙を逃さず、カウンターの突きを返そうとした。リポストと呼ばれる技術だ。一瞬にして入れ替わる攻防。初心者ならば、この時点で勝負は決まっているのだが。
「ふ。甘いな」
一鶴は余裕で拓夢の突きをサーブルで払っていた。
既に拓夢は汗だく。一方で一鶴は、汗ひとつかいていない。
拓夢が絶望感を感じていた、その時……
「フレッシュ……!」
呟きと共に一鶴の姿は消えた。
そして、瞬時に拓夢の元へと現れる。
一体、何が起こったのか。
フレッシュというのは、剣を前に突き出して突進する、フェンシングでは上級テクニックと呼ばれるものだ。
一気に間合いを詰めるボンナバンという動作によって、素人には相手が一瞬消えたように見えるという。
「終わりだ……」
左手側から、キラリと閃光が走った。切っ先に太陽の光が反射したのだ。瞬間、拓夢は左手で薔薇をガードした。ドシュッという音と共に、切っ先は拓夢の肘のあたりに当たり、バインと弾けた。
「おやおや。惜しかったな」
余裕を交えた呟きが、一鶴の口から漏れる。
拓夢は、苛立つどころかパニックに陥っていた。
このままでは、負ける。
反撃しろ。
反撃しろ反撃しろ反撃しろ。
無意識の内に、拓夢の体は動いていた。
「うわああああああああああああああああああああああああああっ!」
がむしゃらに突進する。
「ふんっ」
訳も分からず剣を振るう拓夢のファンデブを、一鶴は華麗なバラードではじき返していた。
拓夢にとっては、一つ一つが渾身の一撃だった。しかし一鶴は、余裕すら感じさせる動作で、拓夢の突きをいなしていく。
そんな攻防を、数合繰り返していた時だった。
「――――うっ!」
苦痛の声を漏らしたのは、一鶴だった。
薔薇を突き落としたのではない。滅茶苦茶に振り回したサーブルが、偶然一鶴の右肩に命中しただけだ。もちろん、正式なフェンシングではないので、ポイントは加算されないが。
しかしそれだけに、拓夢は混乱していた。
(なんで? どうして? こんなメチャクチャな攻撃が、何で当たるんだ? 僕でさえ避けられそうなのに――)
そこまで考えたところで、思考が途絶えた。いや、考えがまとまったのだ。気づいてしまったから、あることに
「勝てる……勝てるぞ!」
「ほう……」
気合の声を発する拓夢に対して、冷静にサーブルを構える一鶴。
しかし、拓夢にもう恐怖心はなかった。
なぜならば拓夢には、一鶴の持つ「弱点」に気づいてしまったのだから。