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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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⑳薔薇の決闘

 拓夢は、真莉亜の父親と向かい合う形でラウンドテーブルに座っていた。そしてその周りでは、真莉亜の親族たちが立食パーティをしながら、時折こちらに視線を送っている。


 拓夢の隣に座るのは、真莉亜だ。先ほどから緊張した面持ちで両親のことを見つめている。

 

「紅茶が入りましたわー」


 そう言って人数分のお茶を運んできたのは、真莉亜の姉――もとい、母の麗奈であった。

 こうして改めて見比べてみると、真莉亜が美しいのが当然なくらいよく似ていた。天然具合まで似なくてもよかったのに――と思ったのは内緒だ。


「あ、ありがとうございます……」


 自分の元へティーカップを置かれ、拓夢は上ずった声で礼を述べた。本当に、夢のような空間だ。中世の宴を思わせる豪華なガーデニングパーティ。庭に集められたゲストたちは皆エルフのように美しく、自分が場違いに思えて恥ずかしかった。


 紅茶を一口すすると、麗奈はカップを皿に置きながら言った。


「拓夢さん、本当にごめんなさいねー。でも姉だと言った方が、あなたも気楽にお話できたでしょー?」


「い、いえ……。とても驚きましたけど」


「あたくしも驚いてますのー。まさか本当に姉で誤魔化せるなんてー。姉妹に間違われることはよくあるけど、拓夢さんのようなお若い方にも通用するのねー♡ ねー、あなたー?」


 麗奈は甘えるような声で夫に話しかける。有栖川(ありすがわ)一鶴(いっかく)。財閥の親会社の経営を任されているため、有栖川財閥のトップと言っても差し支えない大人物だ。その一鶴は知的な雰囲気を崩さず、ゆっくりと冷静に口を開いた。


「城岡君。時間は有限である以上、単刀直入に話がしたい。娘とは、再三に渡り話をしてきた。私達が決めた婚約者との婚約を破棄したい。そして、新たな婚約者と婚約をしたいと。私としては、当の本人である男性と会って話がしたいと思った。よってこの場を設けたというわけだ」


 ――理路整然と話すが、パーティ会場にいる男女の人数は、少なく見積もっても50人はいるだろう。ならば本家から分家まで。有栖川の一族は全てこの会場に集められていることになる。それだけ、一鶴の持つ権力は大きいということだ。


「ご心配をおかけしたことは申し訳なく思っています。ですが、婚約は真莉亜さんが望んでいたわけじゃありません。僕は……真莉亜さんをどうしても助けたかったんです」


「拓夢さま……♡」


 真莉亜が、潤んだ瞳で拓夢を見る。瞳の中は、ハートでいっぱいになっていた。


「ふむ。望んでいない結婚か……。まず、そこから話をするべきだろうね」


 対照的に一鶴は、実業家らしい実に理知的な話し方をした。


「知っておいてほしいのは、私たち有栖川の人間は20歳頃になると、一族が決めた者と交際するしきたりがある。昔は強制していたようだがね。しかし今となっては、交際するしないは本人が最終的に決めることになっている。だから婚約者との結婚を決めた以上、真莉亜には何の不満もないものだと思っていた」


 まだ高校生なのに婚約者がいて、ハタチになったらすぐ結婚……。分かってはいたことだが、セレブ特有のルールに、拓夢は驚かされるばかりだった。


「誤解のないように言っておくが、私は君と真莉亜の婚約に反対しているわけではない。娘が決めたことだからね。しかし有栖川の人間になるのであれば、相応の力と資質も必要だと思っている。君の素性もよく分からないし、君がもし悪人だった場合、真莉亜をとても悲しませることになる。以上の理由から、君と真莉亜の交際を認めるのは、少し早計だと考えた」


 そこで一鶴は話を区切り、射貫くような目で拓夢を見た。やはり、大財閥の社長だ。穏やかな口調ではあるが、ハッキリ言って死ぬほど怖い。拓夢は緊張でダラダラと冷や汗をかいていた。


「単刀直入に伺おう。城岡君。――キミは、有栖川の未来を背負って立つ覚悟はあるのかね?」


「――っ!?」


 拓夢は言葉に詰まっていた。友達の家に遊びにきただけなのに、まるで圧迫面接をされているようだ。

 拓夢としては、今は誰とも付き合うつもりはない。庶民特待生という立場がある上に、女性アレルギーでもあるのだ。しかし、別に真莉亜を嫌っているわけではなくて、それは……。


「あ、あの……えっとですね……」


 拓夢が返答に窮していると、


「まーまー。およしなさいよー、あなたー。拓夢さんがお困りじゃない。それに、拓夢さんはまだ真莉亜のご学友でしょ? 結婚とかは、まだ早いわー」


「だが女性だけの学園に男性が一人だけというのは、やはりおかしい。何の間違いも起きない、という方が不自然だ」


「あらー。それに関しては、あたくしもお父さんに賛成だわー。拓夢さんったら、すっごくハンサムで、いい男なんですもの~♡」


 麗奈は嬉しそうに両手を組みながら、真莉亜に向かい合った。


「ねー? 真莉亜ちゃんも、拓夢さんのことが大好きなのよねー?」


 その言葉に、真莉亜は真剣な表情で頷くと、


「そうですわ。最初は、珍しい庶民の男子という認識でしかありませんでした。しかし、アーチェリー対決でわたくしを負かし、倒れたわたくしを抱きかかえてくれたこと。そして、乗馬対決で落馬したわたくしを、みずからのアレルギーも構わずに保健室まで運んでくださったこと。その他にも、拓夢さまはわたくしに沢山優しくしてくださいましたわ」


「優しくしてくれる男性ならば、城岡君の他にも沢山いるのではないかね? アーチェリーにしろ、乗馬にしろ、城岡君より優れている人物は山ほどいる。それでは、不満なのかね?」


「……ええ。わたくしには、拓夢さましかおりませんわ」


 父からの問いかけに、真莉亜はキッパリと言い切った。


「拓夢さまは、わたくしの……わたくしのために、」


「分かっている。真莉亜のことを思って、婚約を破棄させようとしたのだろう? しかし、それなら他の婚約者ではどうかね? 私が言いたいのは、城岡君ひとりに絞るようなことはせず、もっとゆっくり考えたらどうかということだ」


 優しく、まるで教師が教え子に言い聞かすような口調で、一鶴は真莉亜を諭す。しかし、真莉亜は怒ったように眉をひそめながら、


「ダメですわっ! 拓夢さまじゃないとダメなんです! わたくしにはもう……拓夢さましかおりませんっ!」


「真莉亜ちゃんは、拓夢さんと結婚したいのよねー?」


 麗奈の問いかけに、真莉亜はキッパリと頷いた。


「もちろんですわ。拓夢さまのお子を産み、育てるつもりです」


「ふむ。好きな人がいるということは、いずれそうなるだろうね。私としては反対はしないよ。だが、結婚というものを軽く考えてやしないかね? 恋は盲目というが、一時の感情だけで物を言うものではないよ」

 


 真莉亜を冷静に言い咎める一鶴に対し。


「あ――あの!」


 拓夢は覚悟を決めた表情で、口を開いた。


「今すぐ結婚とか、別にそういうことじゃないんです。僕にとって真莉亜さんは、同級生で、同じサークルに通う友だちで、だから……とにかく助けたくて……」


「真莉亜ちゃんと結婚する気はないのに婚約するなって言うのは、あたくしは疑問ですのー」


 間延びした口調に若干の糾弾を込めながら、麗奈が言う。


「違うんです! 僕、今まで友だちなんて一人もいなくて……。でも、庶民同好会に入って、真莉亜さんと出会って、毎日が本当に楽しくて……。だから、真莉亜さんにも笑っていてほしいんです。決して、婚約者との結婚を邪魔するとか、そんなつもりじゃ……」


「――そうかね」


 一鶴は重々しい口調で言った。そして、拓夢を真っすぐに見つめる。


「拓夢くんと言ったかな。正直、君の話は理解できない。なぜ真莉亜の結婚に反対するのかも」


「そうじゃないんです! 真莉亜さんが幸せになるなら僕も反対はしません! 僕が言いたいことは、そういうことじゃなくて――」


 拓夢は言葉に詰まった。真莉亜が誰と結婚しようとも、それは家族や親戚が決めたことだし、仕方ないことだと言える。友達から助けたいなんて言葉は、単なるエゴでしかない。それでも、拓夢は真莉亜の表情が少しでも曇るのがイヤなのだ。それがエゴだとしても。


「ごめんなさい、上手く言えなくて。でも真莉亜さんはご両親に遠慮して、あえて望んでいない結婚をしてるんです。なぜなら、真莉亜さんは凄く優しい人だから。でもそれだと、真莉亜さんの婚約を決めたご両親だって、きっと後悔すると思うんです」


「――それは、君の妄言ではないのかね?」


 一鶴は少し苛立ったように、険のある口調で言った。


「私達は、確かに真莉亜の婚約を自分たちで決めた。しかし、それはしっかりと時間をかけて、人格、経済力、生活力、容姿、家柄など、全てを統合して判断した結果で、一度は真莉亜もそれを受け入れた。君の方こそ、たかだか数か月程度の生活で、真莉亜の何が分かるというのかね」


 拓夢は一鶴の視線を正面から受け止めた。端正な表情に、わずかながら歪みがあった。


「失礼なことを言って本当にすみません。でも現に、真莉亜さんは婚約者との婚約を阻まれていますよね? 真莉亜さんはきっと、ご両親に迷惑をかけたくなくて、嫌われたくなくて、あえて婚約を受け入れただけなんだと思います」


「ふむ。それは一理あるね。要するに、我々がもっと親子のコミュニケーションを取っていれば、このような出来事は起きなかったと。しかし、私達が真莉亜を嫌うというのは?」


「真莉亜さんは、学校の勉強や庶民同好会の活動の他に、数多くの習い事をされていることは知っていますよね? 本当は、とっくに無理がきていたんです。アーチェリー対決や乗馬対決の時だって、本当は勝てたのに、疲労が溜まり過ぎて倒れて、危うく大ケガをするところだった! それはなぜか……? 真莉亜さんは、お父さんたちに嫌われたくないんです! だから、お父さんたちが望む『有栖川』を完璧に演じようと、無理していたんですっ!!」


「拓夢……さま」


 涙をポロポロと流しながら、絞り出す様に真莉亜は呟いた。

 そんな真莉亜に、優しく麗奈は声をかける。


「真莉亜ちゃん。すごくいいお友だちが出来たみたいねー? 真莉亜ちゃんが拓夢さんのこと、毎日楽しそうにお話してるから、どんなお方なのかなーって、ママずっと気になってたのー。だから、拓夢さんが凄くいい人で、よかったわー」


「……おかあ、さま……」


 麗奈の暖かな言葉に触れた真莉亜は、目元の涙を指でぬぐうと、


「お父さま、そういうことですわ。わたくしは、お父さまの望む自分を演じ続けてきました。でも、このことに関してだけは、譲れませんの。他のことだったら、何だって言うことを聞きますから、拓夢さまとの婚約を認めてくださいっ!」


 一鶴は、そんな真莉亜の様子を驚いた表情で見ていたが、やがてフッと表情を緩めると、


「真莉亜……分かったよ」


「……お父さ……「ただし」」


 明るい笑顔を見せようとした真莉亜を、一鶴は手で制する。そして、重い表情のまま拓夢に向き直り、


「……私と勝負したまえ」


「え?」


 拓夢は呆気に取られて声を漏らした。一鶴の言うことは、あまりにも突拍子がなかったからだ。


「ま、待ってください……勝負って、一体どういう……」


 拓夢がおろおろしながら聞き返すと、一鶴は勢いよく立ち上がって、


「言葉の通りだ! これ以上話していても埒があかない。君が本当に娘のことを想っているというのなら、行動で示したまえ!」


 一鶴は高らかに宣言した。麗奈は意味深に微笑み、真莉亜はただ成り行きを見守っていた。そんな中、従者が大きな箱を持って一鶴の元までやってきた。


「決着をつけよう。有栖川家に代々伝わる決闘法……『薔薇の決闘』で!」


「えええっ!?」


 拓夢は思わず叫び声を上げた。一鶴はそんな驚きなど気にも止めない様子で、


「もし私に勝てたら、真莉亜はもう自由の身だ。しかし君が負けたら、真莉亜のことは諦めてもらうよ。いいね?」


 そう言い残すと、一鶴は振り向きもせずに歩き出す。

 拓夢も、その後を追った。

 何が起こるのかは分からないが、真莉亜を救う手段があるのならば、一縷(いちる)の望みでも賭けてみたいと、そう思ったからだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この場合,拓夢が真莉亜に対する態度をハッキリすべきじゃないかな。 真莉亜は拓夢と結婚したいから政略結婚したくない、と明言してるのに、拓夢はそこまで考えてない、だけど政略結婚はやめてくれ、じ…
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