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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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⑰真莉亜の姉

 そして、やってきた休日。

 拓夢は、約束通り真莉亜の家へと遊びに来ていた。

 ルネッサンス形式の建物は、中世ヨーロッパのお城を連想させた。

 何百坪なの? 何千坪あるの? と叫びたくなるくらい大きなその邸宅は、他を圧倒するくらい豪華で威風堂々としていた。


「ここが真莉亜さんの家かぁ――」


 拓夢は高い天井を見上げながら呟いた。

 拓夢が案内されたのは、有栖川邸の客室だった。真莉亜はどうやら身支度を整えてる最中らしく、この部屋で待つようにと、使用人から言われたのだ。


 なので、拓夢は大人しくソファーに座っていたのだが。


「あらーっ、あなた。あなたが拓夢くんねーっ? そうなのねー?」


 イタリア製の分厚いドアが開けられ、ひょっこりと一人の女性が顔を出した。かなり綺麗な人だ。

 おそらく、真莉亜の身内か何かだろう。その気品あふれる佇まいは、どう見ても使用人には見えない。


「あ、は、はい。ぼ、ぼく、城岡拓夢と仰る……いうものです。ほ、本日はお日柄もよく、お足元の悪い中、つまらないものですが……」


 拓夢がつたない言葉で、少しでも上流階級っぽい挨拶をしようと苦戦していると……


「あらあらー。あらあらー」


 女性は、何やら困った様子で首を傾げて。


「ごめんなさいねー。あたくし、庶民の挨拶がよく分かりませんの。お詫びに、土地か建物でも差し上げましょうかー?」


「い、いえいえ。そんなのいりませんっ」


「お気に召しませんことー? 現金の方がよかったかしらー?」


「だからいりませんって!」


「一億でよろしいかしらー」


「高いよ!!」


 女性のあまりの天然ぶりに、思わずタメ口で突っ込んでしまう拓夢であった。

 まじまじと近くで見ると、どきっとしてしまうほど美しい女性だった。


 肩にかかるぐらいの髪を外側にカールした女性だ。髪の色は真莉亜と同じくブロンドで、清楚で可愛らしい真莉亜に、大人っぽさとエレガントさを追加したような印象だ。知的な雰囲気を漂わせる美女は、真莉亜の双子と言ってもおかしくないくらい、よく似ていたのだ。違うのは髪型と目の印象くらい。薔薇のような唇を艶やかに彩るリップ、大人の色香を漂わせる垂れ目がちな瞳を縁取るアイシャドウ。そして、真莉亜を遥かに凌駕する豊満たる爆乳。


 その全てが……並大抵の美しさではなかった。


「ところで、あなたはどちら様ですか? 真莉亜さんのご家族の方でしょうか」


 もう派手にツッコんでしまったので、堅苦しい言葉遣いは抜きにして、普通に尋ねる拓夢だった。というより、有栖川の人間は誰もがセレブすぎて、敬い出したら話も出来ないほどだ。


「あたくしの名は、有栖川麗奈(ありすがわれいな)


 と、目を細めて、


「そして――真莉亜の姉です」


 と。

 先ほどまでとは全く違う、妖艶かつ優雅な笑みを浮かべながら、麗奈は言った。

 


「あなたが真莉亜の婿様(むこさま)にふさわしいかどうか……見定めさせてもらいます」


 婿様と、麗奈は言った。

 

(婿様!?)


 拓夢がその言葉を理解する前に、麗奈はずいっと拓夢に顔を近づけて。


「あなた、『テンプテーション・スメル』の力を持ってるでしょー」


「なっ――」


 拓夢は、声を出せなかった。

 どうして。

 どうして麗奈は、「テンプテーション・スメル」のことを知っているのか?


「その様子だと、周りには秘密にしているみたいねー? まあ、妥当な判断だと思うのー。目的は何かしらー? やっぱりお金かしらー? それとも、日本転覆かしらー?」


「ち、ちがいます! 僕はそんなこと考えてません!」


 拓夢は即座に否定した。

 そもそも、テンプテーション・スメルの存在を知ったのさえごく最近だし、その存在に迷惑すらしているのだ。


「ふーん……」


 麗奈は豊かな胸の下で腕を組みながら、何かを考えているようだ。


「じゃあ、真莉亜との関係について教えてー? もう、結婚とか考えてるのー?」


「ちょ、ちょっと待ってください。別に結婚だなんて、僕はなにも――」


「でも、真莉亜はもうその気でいるわよー? 式場も色々見て回ってるようだしー。天井がガラスで出来た大聖堂、大理石であしらわれたウエディングロード、純金のチャペル……」


「い……いやいや。流石に気が早すぎ……」


「ちなみに全十五階建てみたいよー?」


「高いよ!」


 何十憶かかるんだよ……と拓夢は頭を抱えたくなった。


「洋風はおイヤなのー? 和風の方がお好きかしらー?」


「そういう問題じゃありません……」


 とうとう拓夢はツッコむ気さえ失せてしまった。さすが超セレブ。一般庶民とはお金に対する考え方が違う。


「じゃあ、真莉亜がおイヤなのかしらー? でも、真莉亜は有栖川の歴史でもまれにみる逸材よー? 海外の実業家や、小国の王様からプロポーズされたこともあったしー」


「それは……ダメです。困ります」


「あらあらー。真莉亜と結婚する気はないのに、真莉亜が他の殿方と結婚するのは困るのー?」


 麗奈は頭に「?」マークを浮かべながら、首を傾げた。


 拓夢としては、真莉亜が本当に好きだという人がいるなら、その人と結婚すればいいと思っている。それが自分だというなら、庶民特待生という役目を終えた後真剣に考えるつもりだ。


 しかし問題なのは、真莉亜が望んでいない相手と、無理やり結婚させられることだ。有栖川という家を守っていくため? 一族で決められたことだから? そんなことで結婚相手を決めるなんてバカげていると、拓夢は思っていた。


「――と。僕の考えはこういうことなんです」


「あらあらー」


 麗奈は分かったのか分かってないのか、曖昧(あいまい)な返事をする。


「じゃあ、あの子にクロスカントリーの対決を持ち掛けたのは、どういうことなのー?」


「その勝負を受ければ、真莉亜さんが婚約破棄をしてくれると言ったからです」


「その勝負以来、真莉亜がお食事の時もお稽古の時も、常に拓夢くんのお話をするようになったのよー?」


「え……」


「この間なんてー、聖ジュリアンヌ女学院の土地と運営権を買い取りたいなんて言い出してー。流石にそれは止めたのよねー。拓夢くんには黙っておくようにって言われてるんだけどー」


 さらっと妹の秘密を暴露する麗奈。


「あの、僕今聞かされちゃってるんですけど……」


「あ、いっけなーい。じゃあ、秘密にしておいてねー?」


 コテン☆ と頭を軽く小突く麗奈。

 先ほど感じた色気とか気品とかが、全て吹き飛ぶほどの天然具合だった。

 拓夢がそんなことを考えていると……


「秘密にしておいてくれたらぁー」


 ソファーから立ち上がって、拓夢との距離を詰める麗奈。


「いいこと……してあげる……」


「!?」


 拓夢は後ずさろうとするが、後ろは壁なので逃げようがなかった。

 すぐ目の前には、麗奈がいる。

 情熱的に光り輝く瞳が、拓夢を捉えていた。本当に、すぐ近くだ。大きな胸の谷間まで間近に迫るほどに。


「年上は……お嫌い……?」


 ふうっと顔に吐息を吐きかけられ、拓夢の心臓は最高潮に高鳴った。シクラメンのように真っ白な肌、薔薇のように真っ赤な唇、そして、可憐なスズランの香り……。

 そのどれもが、凶器となって拓夢を襲った。


「好きにして……いいのよ……?」


 ドクン! ドクン!!

 心臓の音がうるさかった。暑さで脳みそまで火傷しそうだった。

 拓夢の頭は警戒信号を発していた。これ以上近づけば、待っているのは死……


「ち、ちょっと待ってくださ……、いったぁぁぁぁぁぁっ!」


 拓夢は叫んだ。

 背中から、床に転げおちてしまったからだ。

 ちなみに痛いとは言ったがそれは反射のことで、有栖川家では超高級シルクのペルシャ絨毯(じゅうたん)を敷いている。痛いどころか心地いいくらいだった。


「あらあらー。残念ですわねー」


 彼女――麗奈はイタズラっぽく笑って言った。


「でも、やっぱりすごいわねー。学園では、女性からおモテになるのかしらー?」


「ち、ちがいます。別に、モテてなんか……」


「本当に――――?」


 じいっと美しい瞳に見つめられ、慌てて距離を取る。

 すると、麗奈もまたじりじりとにじり寄ってきた。

 そんな攻防をしばらく繰り広げた後、ついに根負けした拓夢は、


「分かりました! 白状します! 学園ではファンクラブが出来るくらいモテてます!! ――ていうか、何で顔を近づけてくるんですか!?」


「特に理由はないの―」


「ないんですか!!」


 ツッコむ気力も失せたと言いながら思い切りツッコむ拓夢であった。天然な真莉亜の姉だけあって、一筋縄ではいかない相手だ。


「ところで……他のご家族の方は?」


 拓夢はひとまず、一番気になっていることを尋ねた。

 すると、麗奈はニッコリ微笑んで、


「そうねー。紹介しなきゃだわー。紹介しますから、一緒に来てくれませんことー?」


「え、どこに……?」


「庭にー」


 麗奈はそれだけ言うと、立ち上がってドアまでスタスタと歩き始めた。


「…………」


「…………」


「……って! ちょっと待ってくださいよ!」


 危うく置いてかれそうになったので、慌てて拓夢は麗奈の後を追いかけた。


「ちょっと麗奈さん! どういうことですか? 庭に行って、何をするんですか? 真莉亜さんの他に、ご両親もいらっしゃるんですか?」


「えーっとねー、うーん、そういうわけでもないんだけどー」


 これでは話にならない。

 拓夢が俯きうっすらとため息をついてると、麗奈が少しだけ後ろを振り返りながら言った。


「あのー、拓夢さんー」


 拓夢が顔を上げると、麗奈は暖かな笑みを浮かべて、


「真莉亜のこと、よろしくお願いしますねー。あたくしは、応援してますからー」


「え……?」


「そういうわけで――れっつごーなのー」


 呆けた拓夢をよそに、麗奈は上機嫌で先を歩き出すのだった。

 

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