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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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⑯寝起きの君は、いつもよりとても可愛らしい

「……拓夢さん?」


「あ、おはようございます」


 眠そうな目をこすりながら起きる百合江に、拓夢は笑って挨拶した。百合江はすぐに状況を察したらしく、表情を引き締める。


「私は……寝てしまったようですね。しかも、助っ人の拓夢さんに仕事をさせるだなんて。自分が恥ずかしいです」


 暗く沈んだ声色で百合江は呟いた。自分を相当責めているのだろう。


「そんなことは……って言っても。百合江さんは気にしちゃうんですよね?」


「はい、当然です」


 百合江は長く鋭い眼を目いっぱいに見開いて。

 拓夢の横に置いてある書類の山に視線を移した。


「まさか……拓夢さんひとりで終わらせたんですか?」


「はい。といっても、結構時間かかっちゃったんですけどね」


 百合江の目の前には、キチンと製本された生徒総会のパンフレットが山積みになっていた。

 全校生徒に教職員を含め、千冊を超えるパンフレットの表紙には、「2022年度生徒総会」のタイトルと共に、聖ジュリを象徴する校章と、手を取り合う男女の絵が描かれていた。静香がデザインした表紙だが、女の絵は百合江に、男の絵は、なんとなく拓夢に似ている。


「ど、どうして起こしてくれなかったんですか? この量を一人で仕上げるのは、相当大変だったでしょうに」


「ええ、すごく大変でした」


 何ともなさそうな口調で、拓夢はにへら、と笑って言う。


「でも、百合江さん凄く疲れた様子だったから。起こすのは悪いかなって思って」


「で――ですが!」


 反論しようと百合江が立ち上がった瞬間、ハラリと肩から何かが落ちた。


「え?」


 驚いて百合江が床を見る。よく見ると、それは男子用のブレザーだった。拓夢が風邪をひかないようにと、自分にかけてくれたものだ。


「僕はそうしたいからそうしただけですよ。それとも、ご迷惑でしたか?」


「えっと、その……」


 百合江が困ってる表情を見て、拓夢はズルい質問をしたなと反省した。

 迷惑とか邪魔だとか、百合江はそんなことにこだわっているわけではない。

 なぜならば百合江は、とても優しい女の子だからだ。


「すみません……迷惑だと思っているわけじゃないんです。ですが、拓夢さんの貴重な時間を、無駄にしてしまいました」


「いいんですよ。元々ヒマでしたから」


「でも、勉強する時間とかあるでしょう?」


「う……それは、そう、ですね、はい」


 毎日帰ってから最低三時間は勉強しているという、百合江でしかしないような質問だ。

 学生としては当然のことなのだが、拓夢からすれば頭の痛くなるような考え方でしかない。


「わかりましたよ。お気持ちだけありがたく受け取っておきます。あと、勉強は明日から、必ずするようにしますね」


「ずいぶん素直なんですね」


「僕が留年とかしちゃうと、百合江さんが責任感じちゃうかもしれないんで」


 拓夢が頬をかきながら言ったその時だった。


「――ふふっ」


 その表情に、拓夢は目を見開いた。

 百合江が、笑ったのだ。

 いつもクールで厳格な表情ばかりしている百合江が、目じりを上げて、口元を緩ませながら。暖かで、優しい笑みを浮かべているのだ。


「拓夢さんは、本当に優しいですね。あなたを生徒会長に推薦(すいせん)した私の判断は、間違っていなかったと確信しましたよ」


「え、いや、そんな、僕はただほっとけなかっただけで……」


 拓夢が視線を泳がせながら、あたふたしていると。

 百合江は頬を赤く染めながら、拓夢を真っすぐ見つめて、


「そんな拓夢さんに、私はずっと、言いたかったことがあるんです」


「え、なんですか?」


「私は……拓夢さんのことが……」


 百合江の瞳が潤み、唇は震えている。とても緊張しているのだ。


「ずっと……前から…………」


 百合江の言葉は、そこで途切れた。

 足音が聞こえてくる――続いて、扉を開ける音。そして、まぶしい光が差し込んでくる。


「――あら? 冷条院さま? それに、城岡さまも?」


 懐中電灯を持ちながら中に入ってきたのは、見回り途中のメイドだった。


「あ……確か、上条さんでしたよね? どうしたんですか? 何か御用ですか?」


「どうかしたじゃないですよ。今何時だと思っているんですか? 十時ですよ? とっくに下校時刻は過ぎています」


 上条は呆れたように笑いながら言った。もうすぐ生徒総会が行われることはこのメイドも知っているのだろう。拓夢は、百合江に向けて言った。


「じゃあ、百合江さん。もう帰りましょうか」


「そうですね。先ほどのお話の続きは、また今度ということで」


「延長申請は出されてるはずだから大丈夫だとは思うんですけど、なるべく早めに帰ってくださいね? お嬢様に何かありましたら、取り返しがつきませんので」


 上条は心配そうに言った。拓夢は帰ると言っても校内の客室で寝泊まりしているし、百合江は迎えの車を用意しているので、問題になることはないのだが。


「でも、流石に疲れましたね。早く帰って寝たい……」


 拓夢がうーんと肩を伸ばしてあくびをしていると。

 帰宅の準備をする百合江に向かって、上条が話しかけた。


「お嬢様お嬢様っ。だいぶ残られていたようですけど、城岡さまと何か進展はあったんですかー?」


「いいえ……し損ねました」


「え?」


 不明瞭な百合江の呟きに拓夢が振り返るが、もう百合江は片づけを終えたところだった。


「拓夢さん、もう帰りましょう。今日は本当に、ありがとうございました」


「い、いえ」


 拓夢が答えると、百合江は深々と頭を下げ、上条を従えて生徒会室を後にした。

 拓夢も、その後に続く。


(百合江さん……いったい、何を言おうとしたんだろう?)


 その疑問だけが、拓夢の頭に残り続けるのだった。

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