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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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⑮疲れて眠る君のために、今僕が出来ること

「ああーっ、また間違えちゃったっ!」


「大丈夫ですか?」


 叫ぶ拓夢に、百合江が気づかわしげに言った。

 時刻は夜の八時。授業が終わってから三時間近くも生徒会室に残り続けていたのだった。

 ページを間違えてのり付けしたり、ホチキスで止める個所が多かったり。単純作業であるが故のシンプルなミスが多発しているのが現状だ。


「ふわぁ……すび……ばぜん……」


 拓夢なんかはもうとっくに眠気など通り越して半分寝ている状態だった。

 試験勉強のかたわらにやっている百合江が、正直化け物だと思っていた。


「見せてください。どこを間違えたんですか?」


「すいません、お手をわずらわせて……」


「いいんですよ。間違えるくらい、誰にだってあります。それに、こっちは手伝って頂いている側ですから」


「あ……はい」


 百合江のその言葉に助けられて、


「えっと……ここなんですけど……」


 拓夢は恥ずかしい気持ちになりながらも、製本途中のパンフレットを差し出した。


「どれどれ」


 百合江は卓を回り込んで、拓夢の隣にやってきた。花のように甘く、優しい香りが伝わってきて。

 とびきりの美人が、横で手助けをしてくれる。


「あー、ここですか。配置だけ変えるとゴチャゴチャして逆に面倒なので、全部バラバラにしてから順番に綴じた方が分かりやすいですよ」


「ああそっか、ありがとうございます」


 拓夢は頭を下げた。ちなみに百合江は、何百冊と製本をしておきながら一度もミスをしていない。そのまま印刷会社に就職出来そうなほど、見事な腕前だった。


「コツとしては、面付けは最初のページと最後のページを基準にすることですね。2面付けするわけですから、表面と裏面でイメージすると、分かりやすいと思います」


「あ……」


 拓夢は思わず小さな声を漏らした。

 百合江が自分のパンフレットに手を伸ばした時、百合江の胸が偶然、拓夢の腕に触れたのである。思わずドキリとした。温かくて、柔らかくて、意外と大きくて……


「拓夢さん? どうかしましたか?」


「ぼ、僕、ちょっとお茶入れてきます!」


 顔を真っ赤にして「ひゃー」と叫びながら、拓夢は給湯室へと消えて行った。

 バタンという大きな音がすると、もう部屋に一人きりだ。

 近くにあったお茶っ葉を適当につかみ、お湯を二人分注いで静かに待つ。

 お茶が飲みたかったわけではない。百合江と体が触れ合ったことにドキドキしただけだ。


(百合江さん……どういうつもりなんだろう)


 拓夢は考えた。自分を生徒会長に勧めたり、桜と真莉亜の関係を聞いてきたり。最近の百合江は何かおかしい。


 自分は二年生、百合江は三年生。

 来年百合江はもう卒業だ。

 だからこそ、百合江とはなるべく多くの思い出を作っていきたいと思っていた。百合江さえよければ、だが。


(ああ……まだドキドキしてるよ。百合江さんは真面目に生徒会活動をしてるっていうのに。僕がこんなことでどうするんだ?)


 拓夢は鏡で自分の顔を見て、もう赤くなっていないことを確認し、茶碗をトレーに乗せ、再び百合江の元に戻る。


「百合江さ~ん。お待たせしまし――!?」


「くぅ~…………」


 拓夢は思わず目を見張った。

 机に突っ伏したまま、百合江は眠りこけてしまっていたからだ。

 前住んでた家では、聖薇とは部屋が別だったので、女の子の寝顔を見るのは、実はこれが初めてだ。


 睫毛(まつげ)がやたら長くて、肌は白く木目細かくて、ぷっくりとした唇は柔らかそうで……。普段のクールな姿からは想像がつかないほど、寝顔は幼く見えた。


 机の脚にパサリとかかる髪の毛はとてもサラサラで、今すぐシャンプーのCMに出れそうなくらいだった。髪を切るかどうかで悩んでいたけど、切るのがもったいなく思えてしまうくらい――


(は……! 何考えてるんだ、僕は。百合江さんはこんなに疲れるくらい頑張ったんだ。なら、今度は僕が頑張らないと!)


 拓夢はパンパン、と自分の顔を叩くと、椅子に座り直し、パンフレットと向かい合った。

 窓の外を見ると、もう夜もすっかり更けて、月明りが差し込んでいる。

 百合江は、拓夢が隣で作業していても全く起きる気配がない。

 身体を丸めたまま、すうすう眠っている。


 拓夢は、百合江の机に目をやる。パンフレットの横には無数のテキストやノート、問題集が置かれている。


(よっぽど疲れてたんだな……)


 起こさないように注意しながら作業に取り掛かる。まだかなりの量の冊子が残っていたが、構わず続けるつもりだった。


「ひっくしゅっ……」


 百合江が小さなくしゃみをした。

 暖かくなってきたとはいえ、まだ四月だ。夜も遅い。気温が大分下がってきたので、体が冷えたのだろう。


「おっと……風邪ひいたら、元も子もないもんな」


 拓夢は上着を脱ぐと、百合江の体にそっとかけてあげた。

 当然自分は寒くなるが、持ってきたお茶を飲んで何とか気持ちを奮い立たせる。


「さあ、頑張らないと……!」


 拓夢は気を取り直して、製本作業に戻った。

 すると、


「ん……」


 小さく百合江が声を漏らした。

 チラリと見たが、起きているわけではなさそうだった。


「……拓夢さんの、バカ……」


 恨めしそうな百合江の寝言が聞こえてくる。


「あはは……。夢の中でも僕、怒られてるよ」


 拓夢が苦笑していると、


「私の気持ちも……知らないで……」


「え?」


 拓夢は聞き返すが、当然百合江は眠っているので返事はない。

 起こして尋ねることも出来るが、もちろんそんなことはしない。

 拓夢は考えた。

 百合江の言う「私の気持ち」とは、一体何なのだろうか?


(僕……百合江さんからどう思われてるんだろう)


 暗い夜の(とばり)が降りる中、拓夢は静かに作業を続けるのであった。

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