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庶民特待生となった僕は、名門学園に通う美少女達から愛されまくる!  作者: 寝坊助
第3章 うずまく陰謀! 拓夢出生の秘密!
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⑭管鮑之交

 夜も遅くなり、帰宅した静香とミカ(ミカに関しては頭から煙が出ていたくらいなので、よっぽど限界だったのだろう)。その後の生徒会室には拓夢と百合江が残っていて、パンフレットの製本作りを続けていた。


「拓夢さん、大丈夫ですか?」


 手伝わせたことに罪悪感があるのか、百合江が気づかわしげに尋ねてくる。


「ま、まあ、なんとか」


「お疲れでしょう? 無理しなくてもいいのに」


「いや、さすがにそういうわけには……」


「ですよね。まだこんなに残ってますもの」


 百合江の視線は、テーブルの上に山積みにされた冊子へと向けられた。

 タブレットで作成した表紙やページをパンフレットにするだけの作業なのだが、全校生徒+職員分も作成しないといけないので、なかなかの大仕事なのだが。


 ふと百合江は、手を止め拓夢の顔をじっと見た。


「どうしました? 百合江さん?」


「……あの。例のお話。ちゃんと考えてくれてますか? 私の後を継いで、生徒会長になってくれるお話」


「ああ。考えてますけどすぐに返答は……。今バタバタしてますし、もう少し落ち着いてからでもいいですか?」


「分かっています。では、今日は生徒会長になるメリットやデメリットについて、いくつかお話しておきたいと思います」


 美しい顔を凛々しく引き締めた百合江の表情は、年齢よりもはるかに大人びて見えた。

 そして百合江は語った。生徒会長になることの最大のメリット。それは、一流大学への進学点だと。理事会から推薦状さえもらえれば――世界中の有名大学へほぼ無条件で入れるようなもの。さらに、資格取得の補助金などが多くもらえる。内申点も、その他の生徒とは比べ物にならないと。


「さらに学内においては、各運営委員会の方針に対して、教職員と同等か、それ以上の権限を持っていますね」


「す、すさまじい権力を持ってるんですね……」


「そんなものに、私は何の興味もありませんけどね。ただ周りから恐れられるだけで――」


 言いかけて、ハッと百合江は口をつぐんだ。

 恐れられている? 一体どういうことですか――っと、拓夢が尋ねようとした、その時だった。


「一つ、質問していいですか?」


 先に百合江が口を開いた。


「拓夢さんは、ご自分の立場についてどうお考えですか? 昨日までは普通の学校に通っていたのに、突然、名門学園の特待生に選ばれた。つまり、ある日を境に、自分の生活や人生が激変したことに。後悔など……したことは、ありませんか?」


「いや、それはないですね」


 色々思うことはあるが、それだけはハッキリ言えた。

 拓夢には実の両親がいなく、義理の両親からは虐待されていた。

 それが名門女学園に拾われ、特待生として色んな特典を受け、チヤホヤされている。


 確かに、生活は大きく変わったと言えるだろう。

 ただ、百合江が言うような「人生が激変する」といったことではない気がする。

 それは、つまり……


「つまり、周りに大切な人がいてくれる、っていうのが、一番大事なんじゃないかって思うんです。当たり前のことですけど。でも、その当り前が当たり前じゃなくなってしまうことこそ、僕は怖い……」


「庶民特待生になったことで、前の水準より、はるかにレベルの高い生活が出来るようになったとは思えませんか? それこそ、当り前を大きく超えていると」


「ええ……そうですね。だからこそ、僕は僕でいたいんです。庶民特待生であることに、しがみつきたくはない」


「そうですか。私も……同意見です」


「百合江さんも?」


「…………はい」


 百合江は、短くそれだけを答えた。何か理由があっての沈黙だと察し、拓夢もそれ以上は何も聞かなかった。

 その後はページをすり合わせたり、紙を切る音などが室内に響き渡っていたが。

 ふと百合江が、口を開く。


「……あの。突然ですが拓夢さんは、髪の短い女子について、どう思われますか?」


「僕はいいと思いますよ。どんな髪型でも、その人が好きな髪型ならいいんじゃないですかね?」


「そう……ですか」


「百合江さんは、髪を短くしようと思ってるんですか?」


 百合江は困ったように「はい」と答えた。


「すみません。仕事に関係のない話をしてしまって。ただ、髪を切ろうかどうかで悩んでるってだけのお話でした」


「そっか……。でも、似合うと思いますよ」


「に、にあいますかね?」


「はい。すっごく似合うと思います」


 拓夢は、髪を切った百合江の姿を想像して言った。サラサラで、艶やかなロングストレート……ショートにしても、十分可愛いはずだ。


「そう、ですか……。私のイメージとはちょっと違いましたね。男の方は、髪の長い方が女性らしいと好んでるイメージでしたから」


 拓夢はふと思い出した。

 

 ――コ、コンタクト……私には、無理かも。

 ――……だって、私には似合わないし。

 ――……城岡さんも、そう思ってるんですね?


 以前、メガネをかけようかどうかで迷っていた時。百合江が言った言葉だ。拓夢は単純に、イメチェン方法で悩んでいるだけなのかと思っていたが。


 百合江は、神妙な顔で言った。


「私は、女性らしくありたいんです」


「女性らしく……? どういうことですか?」


 サラサラな髪の毛、キリリとした二重まぶた、高い鼻筋、スラリとした体形。女性らしくないどころか、全てがS級の美少女にしか見えない。


「いえ、すみません。また妙なことを言いました」


「あまり言いたくないことですか」


「はい……」


 百合江はうつむきながら答えた。製本用のテープを握りしめたまま固まる。


「じゃあ、別のことなら聞いてもいいですか?」


「内容にもよりますけど……」


 テープでカットされた冊子を止め合わせながら、百合江は答える。


「僕のこと、どう思ってるんですか?」


 余ったはくり紙を切ろうとする百合江の手が、ぴたっと止まった。ギリシャ彫刻のような整った顔に、わずかな歪みが生じる。


「前に、庶民同好会に入部したのは、庶民特待生である僕の素行を調査するためだって言ってましたよね? だから今現在の、百合江さんからの僕の評価を知りたいんです」


 拓夢が話し終えると、百合江は顔にかかる前髪を払いのけながら答えた。


「正直に言うと、よく分かりません。まだ出会って一ヵ月ちょいですから」


「そうですよね……」


 拓夢はそう答えるが、その一ヵ月の間で、大分仲良くなれたと思っていたので、その返答はハッキリ言ってショックだった。


「すみません。『分からない』は逃げですよね。私なりの言葉で言うなら……『管鮑之交(かんぽうのまじわり)』ですかね」


「かんぽうの、まじわり……?」


「利害関係や立場を超えて、信頼をはぐくむ仲という意味です」


「それが、僕と百合江さんだと……?」


「ええ。少なくとも私は、そう思っています」


「……!」


 百合江の言葉に、拓夢はドキッとした。

 それはつまり、親友と言ってもいいほどの信頼を……


「私はあなたの質問に答えました。なので、あなたも私の質問に答えてくれますか?」


 百合江が言った。


「ああ、はい。答えられることなら」


 拓夢は答えたが、気づいていなかった。

 いや、気づきようもないだろう。深緑色の長い前髪と、メガネの奥に隠された瞳が、涙で潤んでいることなどには。


「あなたは、加々美さんや有栖川さんから告白されたそうですね……そして、その答えを保留にしていると。一体、どっちを選ぶ気なんですか?」


「ええ? 一体なにを――」


 聞くんですか、とは言えなかった。

 見上げた百合江の表情が、あまりにも真剣すぎて。

 彼女がどういうつもりで桜と真莉亜の関係を聞いてくるのかは分からない。だが、相応の覚悟を持って尋ねていることだけは、間違いないのだ。


 だから、拓夢も真剣に答えた。


「今はまだ、誰とも付き合うつもりはありません」


「それは、本心からのお言葉ですか?」


「はい」


「信じて……いいんですね?」


 今度は答える代わりに、しっかりと頷いてみせた。


「わかりました……。ちなみにこの質問をした意味は、あなたが庶民特待生のルールである『恋愛禁止』を破っていないかどうかの確認です。それ以上の意味はありませんので、誤解はしないでくださいね」


「ああ、はい……」


 拓夢は頷くが、先ほどの真剣な表情。

 ただ単に規則違反の確認だけとは、到底思えないが。

 しかし、百合江がそれ以上話したくないのなら、無理強いもまた出来なくて。


「それじゃあ、作業に戻りましょうか」


「ええ。時間を費やして、すみませんでした」


 百合江はそう言うと、また製本の作業を続けた。

 それは、心中にある動揺を隠そうとしているようにも見えた。

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