追放聖女と闇の契り〜妹にすべてを奪われた偽聖女。今更謝っても遅いです~ (コミカライズ)
私は公爵の長女ユリア、10歳の魔力判定で聖女である光の魔法を持つとわかり、神殿に引き取られました。
私の父は、私が幼い時からある女性と浮気をしておりまして、それに母が心を痛めていたのは知っていました。母が心労のため私が五歳の時亡くなり、すぐ父が再婚した相手はその浮気相手、連れ子としてきた妹は……私と半年違いなだけの妹で、母が存命の時から父が浮気をして出来た子であると噂されていました。
それは噂ではないことは明白でした。妹は父とよく似ていたからです。氷の貴公子といわれた銀髪に水色の瞳を持った父は見かけだけはとてもよく女性にもてました。妹もとてもきれいな子でした。
私は亡き母に似て、普通より少し上だけの容姿。
継母と父は妹ばかりかわいがり、私は捨て置かれました。妹のものをとったと叱られましたが、妹がなくしてしまったものを、私が盗ったと嘘をつくのです。継母は私を折檻しました。だからあの家から外に出られてほっとしました。
そして5年後、聖女の力を持つ貴族令嬢は百年に一人、聖女が婚姻を許されたのは王家であったので、私は王太子殿下の婚約者になったのです。
妹がかなり悔しがったと聞きました。
もう関係はありません。やっと幸せになれると思ったのです。
神殿でも聖女とあがめられましたが、誰も私とかかわろうとしませんでした。聖女と話すなんて恐れ多いということみたいです。
王太子殿下は言葉少なく、私と初めて会ったときもあまり言葉を交わしてはくれませんでした。
でも私はこの人に尽くして頑張って幸せになろうと思ったのです。
しかし……。
「ユリア・イフェール。お前は聖女ではない、判定間違いだ! お前の妹であるエミリアが聖女であると判定された。そしてお前はエミリアをいじめてよくその私物を盗んだそうだな! その罪によりお前を断罪し、辺境送りにする!」
私はなぜか聖女ではないと王太子殿下にいわれ、婚約を破棄されたのです。
聖女であるという光の判定は絶対です。でも神官長様が間違いだといったそうです。妹が光で私が風であると……。
「あら偽聖女様、私の大切なものをよく盗んでお父様やお母さまに怒られていたあなたが聖女なんておかしいとおもっていたのよ。私が聖女なのよ!」
妹がふふんと笑います。私は王太子殿下の横でにやりと笑うその姿を見て、お姉さまが私のものを盗ったのよと両親に告げ口する幼いころのことを思い出しました。
私は泥棒なんかではありません!
弁解しようとも、王太子殿下は出て行け! と衛兵に私を引き渡し、そして私は王宮を放り出されました。
神殿に行ってみても、偽聖女と追い出されました……。
私は光の癒しの魔法を使えたはずでした。でも呪文を唱えても発動しません。
どうしたことかと……思いましたが、殿下にそういえば指輪をプレゼントされて魔力を感じましたが、守護の魔法だといわれて納得したことを思い出しました。
ああ、この文様は魔封じだと思いいたりました。
神殿、殿下、妹がぐるになったのだと悟りましたが、もう遅い。
私は雨の中、王都を歩き、行き倒れになりかけたとき、ある人に助けられたのです。
「聖女ねえ」
「もう聖女ではありませんが」
「ふーん、まあいいや、あんなところで倒れてたら変な奴に奴隷に売られるかもしれないし、俺が拾ってやってよかったな、あんた運がいいぜ」
私を拾ってくれたのは騎士見習いだという若き青年、まだ18でこの国の騎士団に入ろうとやってきたばかりといいます。
「そうだな、あんたそいつらが憎いか?」
「……憎しみを感じないといったら嘘になりますわね」
にやりと青年が笑います。名前はカイン・キース・ラディティス、この国では少し珍しい響きの名前でした。
聖女様といったら光魔法で国を助けるっていうのにひどいことするなあと彼は私の頭を優しくなでてくれます。
「なら、そうだな……悪魔に魂を売り渡すってのなら」
「え?」
「それくらいの覚悟があるのなら、復讐を手伝ってやってもいいぜ」
黒髪を掻き揚げながら彼は笑います。黒い目が一瞬だけ赤く光り、私はあれ? と思ってその目を見ました。
でも色はその瞬間、黒く戻っていました。
彼の泊まる宿屋に連れてきてくれましたが、やはり男女が一つの部屋でというのは……でも助けてくれなければ多分あのまま奴隷にされるか、下手をしたら……。
「……そうだな、あんたの憎しみはとてもきれいだ。光が闇を知るってのはいいもんだな、あんたの復讐に力を貸してやるよ」
「どうして会ったばかりなのに?」
「俺は光と闇を知るものが好きなんだよな。まあ多分あんた俺の昔の知り合いに似てるってのもある。栗色の髪と瞳をした魔法使いで、貴族に嫁いだけど光の資質があったんだ」
「そうなのですか」
カインはにやりと笑って、いいところで俺にあってよかったぜと私の手を握ります。
私はその瞬間、黒い魔力を感じ、彼の目が赤く光るのを見ます。でも私はもうあの人たちが憎く、復讐することに頭がいっぱいで、悪魔でもなんでもすがる気持ちでいっぱいでした。
そして彼の話に耳を私は傾けることにしたのです。
「魔族が、魔族が、光の聖女様! 助けてください!」
「知らないわよ、殿下、宝石などは持ち出しましたわ、早く早く逃げましょう!」
「逃げるなんてすげえ根性をした聖女様だなあ」
あれから数年、私とカインは契約をし、そして私は光の魔法を再び使えるように魔封じを解かれ、彼の力となることにしたのです。
「偽聖女が、魔王とともにやってきたぞ、殺せ殺せ!」
私は偽聖女と言われた途端、にやりと笑って見せます。
偽聖女である私が光の魔法を使ってカインたちを癒しているをみて、恐れるようにこちらを見ます。
私はカインの味方をすることにしたのです。
人間の町を旅して、人というものを知り、そして人というものをどうするか考えていたカインは私という存在を知り、人に復讐するのなら手伝ってやろうと思ったといっていました。
人に交じり、冒険者として旅をしていた彼は、昔聖女に恋をして、しかし彼女の愛を得られることができず、その彼女に似た私に力を貸してやろうと思ったとのことですが。
多分、その聖女は私の先祖なのでしょう、私の母方の先祖に聖女がいたということは聞いていましたから。
「どうするユリア?」
「そうですわね、聖女様と王太子は生け捕り、あとは好きなようにしてくださいカイン」
「ああわかった」
正体を隠さず、赤い目を輝かせ、カインは黒い魔法を放ち、剣で人々を倒していきます。
こう簡単に侵攻できるとはと笑うカイン……魔王。
私が手引きをしたというのもありますが、かなりこの国は腐っているようでした。
カインの魔力と、彼の配下たちにやられるばかり、逃げ出していく貴族たち。
「……さあ、偽聖女が来ました。あなたたちをどうするかよろしければ決めさせていただきますわ」
私が笑うと、二人が恐れるように身を引きます。
どうしましょうかね、と思っていると、王太子が私に向かってへらへらと笑いかけてきました。
「悪かったユリア、な? 私はこの女に騙されていただけなんだ、君が聖女だ、認定を取り消したのは間違いだった。なあ許してくれユリア」
「ひどいですわレオン様、あんな平凡な顔の女なんか妃になんてしたくないと話をもちかけてきたのは、あなたじゃないですか、お姉さま、許してください。私はだまされ……」
なんと醜い、命乞いを始める二人を見て、私は醜いと顔をゆがめました。
ええ、どうして妹といつか分かり合えるなんて馬鹿なことを考え、王太子殿下をいつか愛せるなんて馬鹿なことを考えていたのでしょうか。
「こいつらをどうするつもりだユリア?」
「……そうですわね、その心根と同じような姿にしてあげてから……永遠に憎しみあえるように魔の谷にでも二人を追放してあげましょう」
「あそこなら永遠に罵り合えそうだな」
「ええそうですわね」
私はカインに寄り添い、命だけは助けてあげますと二人に笑いかけました。
ええ、そうですわ、私は偽聖女、魔王に与する女、ならその道を行きましょう。命は助けてあげます。でもあなたたちが私に与えた悲しみと憎しみは永遠に消えることはない。
「契約により私の魂はあなたのものですわカイン」
「ああ、その死後もお前は俺のものだ」
私はカインの唇に口づけました。それは血の匂いがしました。
母を裏切った父と、その浮気相手の継母、私を放逐した神殿の人たち、復讐するべき相手はまだまだいます。
ええ偽聖女は魔王とともに……復讐をするのですわ。
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