プロローグ
あるところに、たいそう仲のいい姉弟がいました。
国内の貴族の中では「サルビア公爵家の仲良し姉弟」として有名だったので、貴婦人が集まるお茶会では二人の話が出ることがしばしばありました。
「サルビア公爵夫人、あなたの子供たちの話は聞いてるわよ。とても仲がいいんですってね。うらやましいわぁ」
「本当にね。私のとこなんて、同じ家にいたって会話すらしないのよ。」
「それはいいほうじゃなくって?私のところは喧嘩ばかりよ。目を合わせれば悪口しか言わない。ほんとに困ったものよ。サルビア公爵家のようだったらどんなによかったか」
同じテーブルの婦人たちは口々にサルビア公爵家を賞賛するが、夫人の表情は堅い。
「そうですわね。仲がいいのは私も良いと思っておりますわ。ただ…」
曖昧な笑顔を浮かべた後、口ごもる。
「あら、何か問題がおありで?」
「ええ。…皆様、あの子たちの年齢を覚えておいでですか?」
「ええと、上の子は私の下の子と同い年でしたわよね?今年20になったところかしら」
「下の子は私の上の子と同い年でしたわね。18でしょう?」
「はい。下の子は18になり、上の子はもう20になりますの。」
「そのどこが問題なのかしら?」
「まだ二人には婚約者すらいないんですの!」
瞬間、お茶会に集まった貴婦人たちの間に衝撃が走った。この世界の貴族の平均婚約年齢は14歳。爵位が上がるほどその年齢は低くなる。サルビア公爵家は「公爵」であるから爵位は最高位に近い。そんなサルビア公爵家の子供がどちらも18、かたや20も超えて婚約者すらいないということは、サルビア公爵家存続の危機を意味する。それがもたらすのは国内のパワーバランスの崩壊、つまり、国内戦争の危機だ。
「「「なんてこと!!」」」
そのお茶会に参加していた貴婦人たちは口をそろえて叫んだ。
焦ったように一人の夫人が聞く。
「どなたかと顔合わせはさせましたの?」
貴族の結婚は基本的に政略結婚だ。普通は親が選んだ相手と顔合わせという名のお見合いをして早いうちに決まる。
「ええ、何度も。その度に、上の子は『弟の方がいい男だわ』と言って、下の子は『姉さんの方がいい女だよ』と言って断るんですの!相手の方は憤慨して縁談をなかったことにされますし、もう私、どうしたらいいか…!」
もうだめかもしれない、と嘆くサルビア公爵夫人に近づく女が二人。
「サルビア公爵夫人、そのお話、詳しく聞いてもよろしいかしら?」
「少し考えがありますの」