《2話》ジョンという男
ジョンとアイリー
『御来場の皆様、マシューです。』
マシュー博士が、壇上に上がり深々とお辞儀をした。
『やっと準備が整いましたっ』
そう言うと、マシューの後ろのカーテンが開かれ、黒色の鉄道があらわになった。
皆の歓声が上がる。
『荷物の方は、各部屋に積み込んでありますので、ご乗車頂いたら、各番号の部屋まで、お入りください。では、上手く行けば2ヶ月ほどの旅となりますが、心ゆくまでお楽しみくださいませ。』
マシューはそう言うと、また深々とおじきをした。
「お母様。」
ジョンと離れ、私は父と母の元へ向かった。
「楽しみね」
母は、ニコッと笑った。何度見ても落ち着く笑顔だった。
私達は列車に乗り込むと各自、部屋に向かった。
「ここね。」
私達はデイビス家は、3部屋用意されていて、大きなテーブルと人数分の椅子そして、ふろ場が着いた部屋と、ベットが3つと2つに別れている部屋だった。
父が、アシェルとアイリーを同じ寝室にさせようと言った。
それは、アシェルが自分のことを気にせずに楽しんで欲しかったからと、私の護衛のためでもあった。
父のエドワードは、小さい頃から武術を学んでいて、腕前は少し落ちたものの、まだまだ現役であった。
その部屋の配置は、皆も納得した。
リビングの椅子に腰を落ち着けると、室内放送が流れた。
『この度は、マシュー鉄道ご乗車頂き誠にありがとうございます。車掌の平田 登と申します。心ゆくまで旅をご堪能くださいませ。』
『早速、列車内の注意事項を申し上げます。
当列車内は、多数のお客様が生活しておられますので、了承ありでしたら行き来は可能ですが、無断で、ほかのお客様のブースには立ち寄り頂かないよう、よろしくお願いします。もしそのような事があった場合、速やかに緑のバッチをしている近くの従業員にお申し付けください。
また、列車中央には、レストランやBARなど、各娯楽施設を設けてありますので、ご自由にお使い下さいませ。
この列車は、月行き太陽付近経由で地球に戻ってくるルートとなっております。途中の月では、先住民であるダイル族の見学したいと思います。
他にも、ご意見ご質問等ございましたら、近くの従業員にお申し付けくださいませ。
では、良い旅を。』
列車はそれを合図に動き出したようだ。
汽笛が上がる。
ゆっくりと動き出す列車に、誰もが希望を抱いていた。
これから始まる災難など、知りもせずに……
────
列車は順調に進んでいた。
ゆっくりと空へすすみだす。
「凄いわっ」
クリスティは、窓の外を眺めはしゃいだ。
私も、満面の笑みを浮かべ外を眺めていた。
徐々に進んでいくと、大気圏を抜けた。
宇宙に、つくのは一瞬だった。
そこから、あまり代わり映えのない景色を眺めていると、
またアナウンスがなった。
『皆様、車掌の平田でございます。
現在無事宇宙にたどり着くことが成功致しました。
軌道に乗りましたのでここからは少々代わり映えのない景色となりますが、これから月まではしばらく掛かりますゆえ、各々ご自由におくつろぎくださいませ。』
「もう中央へ移動してもいい頃合いかな」
「ええ。あなたカジノがありますって」
テーブルに置かれていた、ガイドブックをステラは指さした。
「カジノとは……久しいな、アシェルいくか!」
「はい」
父とアシェルは意気揚々と部屋を出ていった。
少しすると、ステラが含みを持たせて言った
「ジョンくんとは、どうなの?」
「どうって?」
「ふふっ、あんなに好きだって騒いでたのに」
「そ、そんなことないわよ!」
「でも、より一層かっこよくなったわね」
「……それはそうだけど」
「お母さんは応援してるわよ」
「もう!そんなんじゃないったら!」
「ジョン?」
クリスティがそう言って
「ジョン」
と、ドアの方を指さした。
すると、ドアが開き、
「バレてたか」
と、ジョン本人が入ってきた
「さっき、そこでエドワード伯爵とすれ違ったのですよ」
「そうなんですか」
「ええ、中央の方に、カフェがありまして、宜しければいかがかなと」
「まぁ、私に言っているの?」
ステラは、いたずらっぽく笑った
「そんなっ、ステラ様は高貴な貴婦人だ。僕なんかがお茶するなんて、そんな愚弄なこと出来やしませんよ。」
ははっと、ジョンは笑う。
「アイリーは高貴ではないと?」
ステラは、そう言うとジョンは困った顔をした。
「もう、そんなにからかわないで頂けますか。
緊張を解してくださるのは、有難いですが、少し緊張していた方が紳士として正しい振る舞いができるかと」
「うんうん」
ステラは、私の方を見て行ってきなさいと言った
本当に勘違いも、いい迷惑だ。
「クリスティは私と、エステに行きましょう」
「なにそれ?」
「行けばわかるわ、貴婦人の嗜みよ」
「では後ほど」
ジョンと私は部屋をあとにした。
廊下をしばらく歩くと、ある男性とぶつかった。
「気をつけなさい」
私は、よろけてしまった。
すぐさまジョンが、手をかけてくれる。
小太りな男性はそのままフンっと、鼻を鳴らし中央から逆の方へ歩いていった。
「ちょっと、そちらの方。まずは謝るのが筋では?」
ジョンの青眼が、鋭く光った。
「はぁ?私のことを知らないのか?
アメリカのハーバート男爵であるぞ」
「それは失礼した。」
ジョンは、私の腕を持ち、「立てるかい?」と言った。
「おい、貴様こそ名乗らぬか。」
「本当に男爵かあんた。俺の顔がわかんねぇとは、お前の名前は覚えた、ハーバート。俺の大切な姫に手を出したこと。覚えておくんだな。」
「なんだとっ貴様っ」
「よく見ろっ」
ハーバート男爵は、ジョンを見た。そして、まさかと口をワナワナさせた。
「ジャック伯爵の……」
「そうだ。次期、伯爵となるジョンだ。」
「それはっ、大変ご無礼を致しました。申し訳ございませぬ。そちらのお嬢様も、私の不注意でぶつかってしまいました。本当に申し訳ございません。」
「注意事項すら目に通してないのか。たくっ」
ジョンは、そう言うと私の手を取りゆっくりと歩き始めた。
「ごめんね、手洗い口調は使いたくなかったんだけど、あのハーバート男爵って、いつも汚い手で小銭を稼いだりする人でね。父上も手をこまねいていたんだ。まさか向こうからぼろを出してくるとはね。」
私はそう言うジョンを少しだけ嫌悪感を抱いた。
「注意事項があったんだよ。そこに、各国男爵以上招待って書いてあったんだ。それすら気にしてないならもうアメリカには、いらない。」
私は苦笑いするしかなかった。
────
「あっ、おかえりなさい」
やっとジョンに解放され、部屋に戻るとアシェルしかいなかった
「あれ?他のみんなは?」
「いや、実はカジノでムキになってしまったエドワード様をお止めに……」
アシェルは、小さく笑った。
父の負けず嫌いは重々承知してる私は、容易に想像が着いた。
どうせ、次は勝つとか息巻いているのだろう。
「はぁ、私はジョンに振り回されっぱなしで、ゆっくり出来なかったわ」
「それはそれは……」
私はアシェルのそばに腰を落ち着かせた。
そして、傍にあったステレオで音楽を流した。
題名つけるの下手だなと怒られました