8.迫る脅威
五大貴族の一つミストン家。
先々代の皇帝は、このミストン家の者だった。
前回は逃したが、今期こそは再び皇帝の座を手に入れると燃えている。
おそらく五家の中でもっとも過激なことをしているだろう。
特に現当主の息子であり、皇帝候補ラドラス・ミストンは、他の候補者を殺すために暗殺者を雇っていた。
赤猫を雇ったのも彼である。
「……やはり失敗したか」
赤猫に依頼を出してから一週間経過している。
何の連絡もないということは、失敗したということで間違いなさそうだな。
やれやれ、赤猫なんて呼ばれているが、所詮ただの畜生だったか。
多少期待していたのだがな。
ラドラスは落胆の声をもらす。
「ならば予定通り、次の暗殺者に依頼をかけるようしよう」
彼はまだ諦めていない。
これまで何度もブラムを殺そうとして失敗している。
今回の失敗も想定内ではあった。
翌日。
彼の屋敷に複数人の人影が入る。
体格は同じくらいの男性が七人、彼の部屋に集まった。
「よく来てくれた。君たちがセブンスだね? 噂はかねがね聞いているよ」
「はははっ、闇に生きる暗殺者としては、あまり派手な噂は広まってほしくありませんが……まあ素直に賞賛として受け取っておきましょう」
リーダーの男が一歩前に立ち、残りの六人が後ろに列を作っている。
「で? 依頼内容は?」
「この男を殺してほしい」
赤猫のときと同じ流れで、暗殺の依頼をかけていく。
「皇帝候補ですか。中々でかいターゲットですね」
「ああ、それも難航していてね? 先日も赤猫を雇ったが失敗したばかりだ」
「あの赤猫が?」
暗殺者の界隈でも、赤猫の名は有名だった。
驚きざわつき出す。
「失敗ってことは、赤猫は死んだんですか?」
「さぁな。これまで送った暗殺者は全員消息不明だよ」
「……なるほど。思った以上にやばい相手らしい」
「だから君たちに頼んでいるのだ。報酬は期待してくれたまえ」
提示された額を確認して、リーダーはニヤリと笑う。
「ならさっそく動きますよ。最初は屋敷の偵察からですね」
「ああ、頼むぞ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ストローク家別宅。
ブラムが暮らしている屋敷の周辺には、他に家は建っていない。
小さな林に囲まれていて、広い敷地にポツリと一軒だけ屋敷が建っている。
「ここか」
「ええ。前情報だと、使用人はほぼいないって話でしたね」
「ああ」
貴族の屋敷に使用人がいないなどにわかに信じられなかったが、実際に見てわかった。
大きな屋敷に、明かりがついているのは二部屋だけ。
どうやら本当らしい。
「警備もいないな」
「ああ、不用心すぎる……本当に赤猫は失敗したのか?」
「ボス!」
「どうした?」
メンバーの一人が何かを見つけ、新しく明かりがついた部屋を指さす。
「あれ見てくださいよ」
「……なるほどな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミストン家本宅。
ラドラスは執務室で一人作業をしていた。
トントントン――
扉をノックする音が聞こえる。
「こんな時間に……誰だ?」
「入りますよ」
聞きなれていない男の声にびくっとするラドラス。
現れたのはセブンスのリーダーだった。
「君か、驚かせないでくれ」
「すいませんね」
「何しに来たんだ?」
「いえ実は、耳に入れておきたい情報があるんですよ」
「ほう……」
ラドラスは机の上で腕を組む。
「何だね?」
「生きてましたよ」
「ん?」
「赤猫です。ターゲットの屋敷に姿を見つけました」
それを聞いたラドラスは目を丸くして驚く。
「そうか……まだ依頼を継続しているのか。ならば一度――」
「いやそれがですね? どうにも状況が違うみたいなんですよ」
「どういう意味だ?」
リーダーの男はニヤリと笑い、続けて見たことを説明する。
「俺たちもそう思ったんですが、あいつメイド服なんて着て甲斐甲斐しく家事とかしていたんですよ」
「メイド? 潜入したということではないのか?」
「いやいや。あいつの暗殺スタイルは知ってるんですが、潜入するにしたって長すぎる。これは予想ですが、赤猫は暗殺に失敗したでしょう。そのまま捕まって、良いように使われているだけだと思いますね」
他の六人は、まだ屋敷を見張っている。
彼女を見つけてしばらく観察していた彼らだったが、普通の使用人らしく働いている彼女を見て、哀れに思い笑っていた。
そしてラドラスも……
「ふっ、ふふ……そうか。動物らしく飼い慣らされたというわけか。滑稽な話だな」
「ええ、で、どうします?」
「決まっているだろう? 私の情報を知っていて、ターゲットに屈服している暗殺者など生かしておくほうがリスクだ」
「じゃあ……先に?」
「うむ。赤猫を始末してくれ」
冷たい口調でラドラスが命令する。
セブンスのリーダーは不敵な笑みを浮かべ、くるりと背を向ける。
「報酬、足してくださいよ」
「ああ、わかっているとも」
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