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第7話 エルフの森と延暦寺は似ている(どちらもよく燃えるため)

「おやおや、やっとお目覚めですか」


私はリスポーンした直後の部下、ヴァンパイア加藤に問う。


「ん?…あぁここは…」


プレイヤーキャラクター、通称PCはリスポーンに3時間かかる。


もっとも、プレイヤーからすれば、死んでからすぐにスポーンしたように感じるので、3時間経った感じはしないのだが。


「どうでしたか加藤クン。デバッグおにいさんが魔界に来たと聞いて貴方を派遣したのですが…」


「あぁ、魔王パイセン。あいつはとんでもない強さだったぜ。炎のパンツを纏った不審者だった…それよりも…うぅ、恐ろしい…」


パンツ?

不審者?


はてさて、今頃彼は何をしているやら。



「そうですか。では、次の手を打ちましょう。大久保クン、こちらへ」


私がそう言うと、毛並みが輝く白いユニコーンが眼前に現れる。


「この美しい俺様に、何かようですか」


「ええ。貴方にデバッグおにいさんのキルを命じます。注文をつけるとすれば…そうですね、できるだけリスキルもして、心を折ること」


そういうと、一角獣の白馬はニヤリと笑う。


「お易い御用ですね。この美しい俺様の前にひざまづかせてくれましょう」


一角獣は魔王城を飛び出していく。



「さて、高みの見物と洒落こみますかね」


魔王となった私は、ただこうして座していれば良い。


時に部下に仕事を任せ、業績を上げさせてやるのもできる上司の立ち回りというものだ。






     *




「新しいバグを見つけたよ!」


俺は被りものを着けながら叫ぶ。


酒場のひと席を陣取っていた俺を、関係ない客が見つめる。

見世物ではないぞ。


「またなんか始めましたよこの人は…」


アリ子がやれやれという視線を俺に送ってくる。


なんだその目は。


「ホント、アンタといると飽きないわね」


サキュ子のそれは皮肉だろう。


いいもん。別に俺も面白がってもらおうとしてやってるわけじゃないもん。


職業病なだけだもん…



「それで、どんなグリッチなんですか」


そうそう、そういうので良いんだよサキュ美。おねえちゃんとは大違いだな。



「まず牛の被りものの魔石を使って頭に被ります」


「馬ですね」


「馬…」


「馬ですよ、それ」


野暮なツッコミは勘弁してくれ。


「…馬の被りものを被ります」


周囲の視線が俺に集まる。


「そしてクイックアイテムに馬の被りものともう1つ好きなアイテムを置いて…今回はこの金貨でいいか…それで…クイックアイテムから馬頭石を押した直後に切り替えて金貨を…」


みな、唾を飲む。


「連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打!」


すると、じゃらじゃらと馬の口から滝のように金貨が現れる。


「あああ! お金がこんなに! すごいです!」


「これだけあれば何もしないで何日暮らせるのかしら…」


「悠々自適な生活…」


みながそれぞれの感想を述べる。


お金を前にしたセリフには、性格が出るな。


「とまあこんな感じだ。クイックメニューに登録できるアイテムならなんでも増やせそうだな。名付けて馬頭石バグだな」


デバッグコンプリート。


俺は完璧な作業に一人心の中でガッツポーズをした。






     *






その男を見たのは、これが2度目だった。


1度目は街中で白い脚竜を探しているとか言っていた。


白い脚竜は高値で取引される希少個体なため、その時わたくしも捕獲しようと思い探したが見つからなかった。



まさかわたくしのホームグラウンドであるこの酒場にかの男がいるとは。


さらに酒場の竜舎に目をやると、白い脚竜が停められているではないか。



状況から察するに、どうやらあの男か、その仲間が手懐けたらしい。


この酒場に来たのは住む場所がないからで、ここ数日はこの酒場で夜を明かしている。



故郷の森が国策で燃やされ、こちらに来てからは毎日昼から酒、酒、酒。



ああ、今日も酒が美味い。



…。


… …。



男が突如、馬の被りものを被る。


すると、金貨が次々と滝のように降っているではないか。



一瞬手品か? と思ったが、あのみすぼらしい服を来た男が手品のためにあれだけの大金を持っているはずがないだろう。


導き出される結論───物体の増殖だ。


有り得ないが、これが現実なのだ。


金はいい。


金があればなんでもできる。


それこそ無限に酒とおつまみを繰り返せるのだ。



金といえば国策で森を焼き払うと発表された時、現地住民であるわたくし達には莫大な補助金が下りることになったが、『これでは足りない』と村人総出でボイコット式吊り上げ交渉術をして、わざわざ遠くの地方に住むスノーエルフまでもやって来てあたかも現地住民のように振りまい、吊り上げ交渉に加担して金をむしり取っていたっけか。


さすがエルフ汚い。


わたくしもエルフだけど。



そういうわけで今は全くこれっぽっちも金に困ってはいないが、金が手に入るなら率先して行動するべきだろう。



彼を利用すれば一攫千金。


それに1度やってみたかったエリクサー割り。


噂には聞いていたけれど、どれほど美味いのだろう。


わたくしってウッドエルフだし、美人だし、儚いオーラ出てるし、か弱そうだし、病弱感ある。いける。


「あの〜、すみません…」




     ◆




「あの〜、すみません…」


自分のことを美人で儚い系でか弱い病弱系と思ってそうなウッドエルフが話しかけてくる。


なんというかこう、全体的にうさんくさい。


「ん? どうしたそこの女」


「以前お会いしましたわね。わたくしはウッドエルフのエリンと申しますわ。少し相談ごとがありまして…」


女はやれ困ったと言わんばかりに眉を落とし、目を細めてくねくねと病弱さと妖艶さを両立したしぐさをしてみせる。


計算高いなこいつ。



だが、あえて話は聞くだけ聞いてやろう。


暇だしな。


「まあ座ってくれよ。か弱い女の子を立たせてる訳にも行かないからな」


「ええ、ではおかまいなく…」


彼女はそういうと、俺とジゼルの間に割って入るように座る。


これで俺たちは、円形の机に対して、俺から時計回りで順にアリ子、サキュ子、サキュ美、エル子という配置になった。


ちなみにエル子というのはエルフだからエル子。


あとエリンとも掛かってる、後付けだけど。


「へえ、デバッグおにいさんにもこんな美人なお知り合いがいたんですね!」


「街中でたまたますれ違っただけだけどな」


その話を聞いたエル子は指を口元に持っていき、うふふとうすら寒い笑みを浮かべる。


「わたくしは故郷、エルフの森が焼かれてから住むところもなく、各地を転々としているのです。そして貴方様は結構お金を持ってると見ました…ですから、その…」


幸薄エルフは俺の手を握り、胸を強調するかのように俺に寄り、耳元で囁く。


「えい」


とりあえず俺は胸を揉んだ。



「え?」


瞬間。俺の服は飛び散り、エル子は固まる。


「うん?」


また俺なんかやっちゃったか?


ついつい俺も固まる。


「きゃあああああ!」


エル子は叫び喚く。



「おおおおおおおおお!」



あまりの大音量ぶりに、思わず俺も叫んでしまう。


「何事だ!」


街の衛兵が酒場に乱入する。


「へんたいです! へんたいがでたんです!」


エル子は赤面しつつ、俺の方を指差す。


「何を言うか! 俺はただモデラーに敬意を払っただけだ!」


俺はパンイチで正論を繰り出す。


「何を言ってるかは知らんが、パンイチで女性の胸を触っている男が信じられるか! お前たち! あの男を抑えろ!」


衛兵たちがぞろぞろを俺を取り囲み、腕を抑える。


「く、俺が何をしたって言うんだ…俺が何をしたと言うんだー!」

「詳しくは署で聞くから、暴れないで」


なぜだ。


どうしてこうなった。


そういえば同じような展開あったな。


「自業自得ね」


「ですね…」


「月イチで手紙出しますから、デバッグおにいさん…!」


俺のパーティメンバーも止めてくれない。


それにアリ子、月イチって地味に少ないよなそれ。



く、みるみる酒場が遠ざかっていく。


「俺はやってない! 冤罪だ!」


誰か俺の話を聞け!


こうして、俺は衛兵待機所送りにされてしまった。


面白い!


自分なら高評価いれちゃうね…

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