第44話 魔王四天王(マジ)
「デゼル、どうしても行くんだね」
「ええ、そこを退いて頂戴」
おねえちゃんはパパに強い口調で指図する。
アタシは、おねえちゃんをヴィルヘルミナに会わせたい。
そのためなら、パパですら乗り越えてみせる。
「僕はね、もう…疲れたんだよ」
パパの体躯は巨大な黒いものに変貌していき、背後には虫のような四枚羽根が広がっていく。
「ごめんね、パパ。あたしは行かなきゃならないから!」
おねえちゃんは指先に集めた魔弾をパパに飛ばす。
極大の魔弾。
忖度や躊躇といった言葉が一切介在しない遠慮皆無の超特大魔弾!
「残念だけれどデゼル、僕にその攻撃は届かないよ」
羽根の羽ばたき一つで、魔弾は消え失せる。
「…っ」
「諦めた方がいいよ。僕は強すぎる」
確かにその通りだ。
だが…。
「無理でも、無茶でも、やってみなくちゃ分からない! …空を、空を見なさい!」
空高くに巨大な月が浮かんでいるようだ。
おねえちゃんの得意技、高等幻術だ。
あの月を見たものは精神に異常をきたす。
その隙に行く寸法だろう。
「…僕に幻術は一切効かないよ。さて、僕からも攻撃を送ろうか。加減は難しいけど」
何も効かない。
それどころか、おねえちゃんと同じ手順で指先に小さな魔弾を作り上げる。
「…ふふ、ふふふ。あはははは。アレが幻術に見えるのかしら。違う、違うわ」
「なに…?」
アタシは空に浮かぶそれを再認識する。
違うのだ。
断じて違う。
幻術でも、幻でもない。
常識外れの魔弾だ。
気圧が膨張し、荒れ狂う暴風となり身体に吹きすさぶ。
「突き抜ける!」
おねえちゃんは鉄槌をパパへと振り下ろす。
「くぅ、魔弾で防げるか」
パパは指先に集めていた極小の魔弾をぶつける。
魔弾と魔弾が激突し、衝撃で城壁が崩れていく。
庭の草木はめくり上がり、塵へと帰る。
「やああ!」
「はああ!」
魔弾の鍔迫り合いはピークを迎える。
とうとうおねえちゃんの魔弾はパパの魔弾を飲み込んだ。
「そんな、まさか!」
「言ったでしょ。『無理でも、無茶でも、やってみなくちゃ分からない』って」
その勢いは恐ろしい速度でパパへと迫る。
パパはついにそれに飲み込まれていく。
「あが、ぐ!」
巨大な爆発がパパを中心に発せられる。
これではひとたまりもない…はずだった。
「嘘、でしょ…」
爆心地となったはずのパパは、なんてことないような顔をして立ちすくんでいたのだ。
「今のはすごいね。もっとも、僕には『効かなかった』みたいだけれど」
ノーダメージ。
パパは魔王城を背後に立ち塞がる。
だがしかし、可能性はまだこちらにある。
「おねえちゃん、アタシの手を握って」
「…やるのね」
アタシだ。
アタシがまだいる。
恐怖で震える指先を左手で抑え、メニューバーを操作する。
オプションの変更後、素早くエモートを整理して…。
大丈夫、手順は明確に覚えている。
後はボタンを押すだけだ。
深く深呼吸をする。
躊躇する時間はない、やるのだ。
「あ、あぎゃ! うあああああ!」
全身に電流が流れる。
苦しい。
今にも死んでしまいそうだ。
「ジゼル、それは…」
パパが呟く。
「見てわからないかしら。『初期化グリッチ』よ」
全てをまっさらにして、リロードする。
上手くいけば、以前のように戦えるかもしれない。
ここに来る前に、デバッグおにいさんから教えてもらった最終手段だ。
だがもし、手順を誤っていたり、自分を強く認識できなくなってしまえば、ステータス以外の記憶などの全てが初期化されてしまう。
だから、最終手段。
全身の回路を駆け巡る初期化の奔流に、ただ耐えることしかできない。
「ぐああああ!」
辛い。
痛い。
苦しい。
今にも消え入ってしまいそうな時だった。
「大丈夫、大丈夫だから。おねえちゃんがここにいるわよ」
おねえちゃんの抱擁は、とても落ち着く。
もう一度、深呼吸だ。
深く。
もっと深く。
もっと…!
瞬間、全身を燃え盛るような力が溢れ出すのを感じる。
成功だ。
「ありがとう、おねえちゃん。でもね、ここは大丈夫。後は任せて」
「…そう。じゃあここは頼んだわ」
おねえちゃんはアタシの意図を汲み取ってくれたようだ。
大きく羽ばたき、魔王城へと向かっていく。
「さっきのは一体…それとてどこへ行こうっていうのかな」
パパはそれを見て、羽ばたいて追いかけようとする。
「行かせない…!」
アタシは行く手を遮るように、雷撃で檻のようにして防ぐ。
やはり能力が戻っている。
いや、それどころか成長した分、はるかに強くなっている。
「どうやらジゼル、君を倒さないと僕は前に進めないみたいだね」
「アタシはパパを倒して、前に進む!」
全身を雷が迸る。
身体中の細胞が告げる。
ここでパパを止めるのだと。
絶対に行かせはしない。




