第43話 しっかり過去と向き合ってこ その2
目の前には玉座がある。
そこには凛として母が座している。
懐かしさがこみ上げるが、これは映像記録なのだ。
声をかけても何にもなるまい。
「ヴィルヘルミナよ、頭をあげなさい」
「はい、魔王。魔王マルガレーテ様」
正面で膝をついているのはヴィルヘルミナだ。
ヴィルヘルミナはよく遊んでいた頃よりも少し大きくなっている。
思えば、あたし達が拉致監禁された事件のあの日からヴィルヘルミナとはすっかり遊ばなくなった。
いや、会わなくなったが正しいだろうか。
「ヴィルヘルミナ、ごめんなさいね。魔王は力の衰退が始まる前に、次の魔王を育てなければならないのだから」
「なにも魔王様、気に病むことはありません。余は御身が思われている以上に冷酷でありますから」
「それは助かるわ。デゼルは力を失った。ジゼルは…彼女は魔王にしては優しすぎる。あなたしか頼れないのだから、気に病んでいたのよ」
「気が晴れたようで、なによりでございます」
頭をあげたヴィルヘルミナは、真っ直ぐママを見据える。
「では、始めてしまいましょう。貴方を苛む独房での調教とは、今日でお別れなのだから、笑いなさい」
「…はい」
ヴィルヘルミナはナイフ状の黒い物質、イージスを形成する。
「魔王の力は人を孤独にする。精進なさい」
「…はい。最後に一つだけ、よろしいでしょうか」
「許可するわ」
ヴィルヘルミナはママへと近寄っていく。
ナイフを手に、少しずつ、それでも確実に。
「…母のいない余を、母のように優しく育ててくれたこと、力の使い方を教えてくれたこと、眠れない日には寄り添ってくれたこと…そして、愛してくれたこと。とても、とても嬉しかったのです」
「…」
ママは笑う。
ヴィルヘルミナの独白を、目を瞑って笑顔で聞き入れる。
「余は…。ヴィルヘルミナは…! 魔王様のことを、お母様のようだと思っておりました」
ナイフを突き立て、眼前に迫るヴィルヘルミナの頭を、ママは優しく撫であげる。
「ええ、愛しい我が子。どうか振り向かないで」
「ヴィルヘルミナは、おかあさまのことが、大好きでした」
それを聞き届けると、ママは満面の笑みを咲かせる。
その刹那、ナイフが胸を貫く。
「破壊…する…う、うう…うあああああ!」
「…ダメじゃない、何度も刺さないとって教えたのに。その程度じゃ魔王は死んではくれないわ」
母の口から血が頬を伝い、指先まで流れていく。
「…でも!」
「これから先は、さらなる過酷が待ち受けているわ。…かはっ。さあ、乗り越えなさい。乗り越えるのよ」
その言葉を聞き届け、ヴィルヘルミナは何度も何度もナイフを突き立てる。
「あ、ああ。あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
何度も血飛沫があがり、玉座の間を血糊が覆い尽くした。
そして何度目か分からないほどに刺しこんだ後には、ついに母は動かなくなった。
あたしは、頭が真っ白になっていた。
目の前の光景は、信じられないものだった。
親友のヴィルヘルミナは、血塗れでナイフを握りしめたまま、動かなくなった母をじっと見つめている。
大きく肩で呼吸をする。
ヴィルヘルミナはずっと立ち尽くした。
「…あ、あは。あはははははは…」
彼女は力なく笑う。
ママの骸を玉座から引き摺り降ろすと、赤く染った玉座へと腰を下ろす。
「ははは、はははははははは」
気味が悪い。
ニヤリと彼女は笑う。
「あははははは! …破壊…する…。このヴィルヘルミナ、魔王として必ずや世界を滅ぼして見せましょう。約束ですよ、おかあさま」
狂ったように、笑う。
劈くような笑いが部屋をこだまする。
何なのだ、これは一体。
何も理解が追いつかない。
辺りが白くなっていく。
笑いだけが聞こえる。
白く、白く───
「───おかえり、ジゼル、デゼル」
気がつくと、辺りは見慣れた実家の庭だった。
サキュ美
種族:サキュバス
ジョブ:▪▪▪▪▪
LV.75
HP:1
MP:error!
魔力:1
力:error!
知力:1
防御力:error!
魅力:error!
素早さ:error!
運:0
特殊技能:蝙蝠の翼、error!、error!、error!、error!▪▪▪▪▪▪▪
種族特性:▪▪▪、error!、error!、▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪、▪▪▪▪




