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第28話 肉

───地下45Fにて


「次! 次ィ!」


俺たちは魔獣を次々と葬りながら突き進む!


そしてアリ子特製のサンドウィッチを複製して頬張る!



肉多めはやはり素晴らしい。


「まだまだ駆け抜けるぞお前たち!」


「はぁ…はぁ…なんとか頑張ります!」



アリ子は肩で呼吸しながら答える。



「まだまだよ…まだいけるわ!」


「そうです…はあ…はあ…」


サキュ姉妹も負けずと言った感じだ。



「わたくしは大丈夫ですわ。昔を思い出しますし」


エル子はいつもの涼しい顔をしたままだ。


よし、みんな大丈夫そうだな。


休憩も挟まなければ士気に関わるとは思っていたが、これで休んでいては逆効果だろう。


それに、この迷宮はまだ整備中らしい。


つまり、この先にはまだ魔王パイセンがいるかもしれないのだ。


ならば急がなければ。



それにしても、もし魔王パイセンがここにいるとしたら、何をしているんだろうか───






     *






───地下82F


「オーライ、オーライ。あ、すみませんここ工事中なので誘導員の指示に従って移動してくださいますようご協力お願いします」


瀬川クンの指示に従い、コボルト達は迂回していく。


手馴れた手つきから転職前は誘導員のバイトをしていただけはあるな、と関心せざるを得ない。



「ふう、ここまで来れば一安心、ですかね」


この安全第一ヘルメットとつるはしの姿も板についてきたところだが、終わりが見えてくる。


このダンジョンをB99Fまで建築すれば、それで迎え撃つ準備は整うのだ。


そしてB99Fにはとっておきのゲストを用意している。


その名も『暗黒破壊神龍ガイア』。



本来は数百人単位で挑戦する期間限定イベントの超大型レイドボスである。


だが、管理者権限で人型NPCへと属性を書き換え、我が魔王軍の軍門に下っている。



私は夢を見ていたのだ。


小学生の頃から、暗黒破壊神龍を携え、果てしない戦いの旅に出ることを。


『私の考えた最強の暗黒破壊神龍』には、流石のデバッグおにいさんでも叶うはずがあるまい。


もっとも、ここまで到達できる可能性の方がずっと低いわけだが。


「魔王パイセン、彼らはもう46層の攻略を始めたようですぜ」


グロテスクな見た目をした魔王四天王の一人、オチュー斉藤がまだかと出番を待ちわびている。


「そうですね、では貴方には約束通り、B50Fにてデバッグおにいさんの迎撃をお願いしましょう」



今回の大迷宮には四天王の残り3人全てを投入する。


決戦の時も近い。


万が一だが。


もし四天王が倒され、『暗黒破壊神龍ガイア』をも倒され私自ら手を下さなければならないことも視野に入れて置いた方がいいだろう。



あの男は常にできないことをやってのけてくるのだ。


だからこそ、今度こそあの男を完膚無きまでに高山箕犀叩きのめしてやるのだ。


「課長、何笑ってるんですか?」


笑ってる? この私が?



私は頬に手をあて、確かめる。


そう、確かに私は笑っていたのだ。



まさか、あの男がここまで辿り着くことを楽しみにしているのか…


だがまあ、不思議なことではない。


自分の作りあげたゲームに挑まれる感覚は、開発者として最高に昂るものなのだ。


さあ、ここまでこい。


来て、全てを終わらよう。






     *






───B50Fにて


「覚悟しろオチュー斉藤! あだだだだだ!」


「うおおおおあつあつあつあつ!」



ワンパターンながらも強力な火炎瓶連打戦法によりグロテスクな目玉やら触手やらのよくばりセットなビジュアルの魔王四天王、オチュー斉藤を追い詰める。


「今だアリ子! 畳み掛けるんだ!」


「はい! ですが…くっ、この触手のせいでなかなか近づけません!」


「グワワー!」


オチュー斉藤は触手を張り巡らせ、防壁のように使うため、なかなかに距離を詰められない。



だが、突然にその蔦のような触手はこま切れになる。


「今のレベルでは一度が限界…さあ、行ってくださいませ」


そうか、エル子の物理糸で切り刻んだのか。



「支援魔法属性付与:雷撃──展開。さあ、がんばって。アリ子おねえちゃん」


アリ子の剣がサキュ美の付与によって雷撃を纏う。



「みなさん、ありがとうございます! 行きます! やああ!」


シキナキの跳躍からの切り抜く一閃。



「ぐわあああ。おのれデバッグおにいさん! 許さんぞ〜! あとこれ鍵ね」


怨念のこもった断末魔を残し、オチュー斉藤とそのお供の雑魚モンスターは四散した。



「よし、一旦飯にするか!」



俺たち『スーパーデバッガーズ』は止まらない。


だが、時に空腹は大きな痛手となる。



ましてやここは不思議なダンジョンだ。


敗因のほとんどが空腹にあると思った方がいい。



俺はアイテムインベントリから鉄板を取り出す。


石を並べ、その中心にダンジョンで採取した燃えそうな素材を並べ、サキュ美の魔法で火をつけ、その上に鉄板を敷く。


「今日はバーベキューだ! 肉しかないが…」


すまんなみんな。



引きこもりだった俺には野菜の買い出しとかそういった気の利く立ち回りはできなかったんだ…


「いえいえ、エルフの森では毎日(めっちゃ不味い)木の実と(石みたいに硬い)パンと(グロテスクな )虫ばかりでしたし…それに比べれば幾分かマシかと」


この世界で過ごして分かったことがある。


それは、ゲーム世界だからか昆虫食が盛んではないことだ。



それなのに昆虫食を進まずに摂っていたとは、エルフ、不憫である。


「なるほどな…まあ、これからの飯も野性味溢れるものにはなるが」


この世界では大豆を調合することで即時に醤油を作ることが出来る。



金策のために大豆畑を持っているし、ついでに交易のために香辛料も大量に仕入れている我々にとって調味料は希少なものではない。


よって調味料はたくさんあるし、たくさん持ち込んだ。


ダンジョンで討伐した魔物を片っ端から捌き、鉄板に乗せ、豪快に焼き、味をつけていく。



BBQというより、漢メシとか、マカナイといった言葉がしっくりくる風貌だ。



「お、おいしいです! 虎の魔物のお肉、これほどにおいしいとは…」


それもそうだろう、この世界の旨さはモンスターの強さを示すランクと比例しているようだ。



このダンジョンは極めて凶悪な魔物がよく見られる。


そしてその分、飯がうまい。



「たまにはマヨがなくてもいけるわね、はいこれ」


「おいしいです、おねえちゃん」


サキュ子は無限にサキュ美の皿に肉を渡し続けている。



「ああ…今度わたくしの働くメイド喫茶『でぃーおにーみん』に来られる予定の皇帝陛下にもお食べになっていただきたかったですわね」


「えっ」


つい素っ頓狂な声が漏れる。


エル子お前…面白いところで働いてみたいとは言っていたが、一体何をしてきたのだ。


そうこうしているうちに、肉がどんどんなくなっていく。



「くっ、考え事は後だ。肉は全部俺のものだ。食べ尽くしてやる!」


俺は人間火力発電所だ。


ウォン!



「あー! それわたしが育ててたやつ〜!」


アリ子の顔が風船のように膨れる。


「すまん! すまん! 肉がうまい!」


辺りの肉は消えていく…。


残るはエル子の『シマ』のみだ。


「その肉! いただき!」


「デバッグおにいさんに取られた分、取り返します!」


「こんなにもかわいいサキュ美に食べさせた方が世界平和のためだわ!」



みな一斉にエル子の肉を狙う!



「あらあら、『精霊憑依』!」


突然、肉が宙を舞う。


いや、最高の焼き加減を保った肉が、宙に浮き、エル子の口へと運ばれるのだ。



さらに、俺たちの猛攻を肉が避けていく。


「ん〜、おいしい」


おのれエル子、精霊の見識を共有して未来予知にも匹敵する『精霊憑依』はチートにも程があるだろう。



結局、俺たちはエル子から肉を奪うことはできず、そのまま食事は終わった。


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