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第25話 手に入れた日常! ああ、こんな日がずっと続けばいいのに(フラグ)

俺は体調管理が得意だった。


デバッグおにいさんの朝は早かった。


朝五時に起床すると、まずは走り込み。


五時四十分に帰宅すると、特製スムージーとバナナを摂取していた。


六時から七時までゲームを嗜んだ後、三十分目を休め、在宅で依頼されたデバッグを行ってきた。


その後もう一度目を休め、仮眠を取り、鶏のささみを中心とした高タンパク低カロリーを徹底した食事を取り、作業現場に向かい、デバッグ作業をしていた。



この生活の根幹には、早寝早起きという生活リズムがあった。


だが、それはこの世界では破綻する。


「デバ…ん」


何者かに掛け布団を取られそうになるわ、騒がしいわ。

やはり、目覚まし時計がなければ起きた気にならないし、起きる気にもならない…!


「デバッグおにいさん!」


ついにとうとう掛け布団を取り上げられてしまう。


「さ、寒い…」


「もうとっくにお昼ですよ! 起きてください!」


ぼやけた目をこすると、そこには黒髪エプロンの少女、アリ子の姿があった。


「あともう1時間だけ…」


掛け布団を取り返そうと手を伸ばす。


「ダメですよ。そういう人は絶対に寝て一日を消費するんですから。わたしの姉もそういうタイプでしたから、分かりますよ」


自分の伸ばした手は掛け布団を握ることなく、アリ子によって歯ブラシを握らされていた。


「く…この人でなし。プロパティ」


自分はメニュー画面から時間を確認する。


「なんだ、まだ9時じゃないか」


「もう『9時』ですよ。今日は何の日か忘れちゃったんですか?」


アリ子が本当に悲しそうな顔をするので、歯を磨きながらまだ眠りたいと訴える頭を鞭打ってフル回転させる。


「えーと、今日は…」


そうだ、思い出した。

昨日のことが鮮明に思い出される。


俺は今日という日をかなり待ち望んでいた。

闘志が燃え上がる。


「アリ子、思い出したよ。すまなかったな。万全の準備をして行こう」


「はい!」


すまんなアリ子。

この失態は必ず取り戻す。


そしてありがとうアリ子。

俺が必ず辿り着かせてやる。


待っていろ、ダンジョン───






      *






───昨日の夕方ごろ───


「もう二度とやらないわこんなクソゲー」


「着地が甘いですね、おねえちゃん」


サキュ姉妹はリビングで昼からずっと『エクパ』を繰り広げている。

声を聞く限り戦績はサキュ美が圧勝って感じだな。


「…もう一戦だけ!」

「もう、仕方ないですね」


出ましたよ、泣きのもう一戦。

これが昼から続いて今に至るわけだ。


そんな訳で姉妹水入らずの時間を邪魔したくはないし、かと言って特にすることもないのに家を後にしてはなんだか負けたような気がするので、自室に籠りひたすらデバッグ作業を繰り返していた。



ふとギルドハウスの窓から外を見る。


外には活気が溢れていて、街頭の灯りに照らされてそれぞれの人生が映し出される。



少し中世ヨーロッパにしてはやり過ぎた感はあるが、それでもNPCの表情をみればこれが間違いだとは思えないな。


ヘルプを見る限り、NPCもほとんど人間のようなものらしいしな。



それにしても、女性4人と同居生活になるとはな。


アリ子のご飯はおいしいし、エル子は正攻法における最高の稼ぎ頭だし、サキュ姉妹な…まあ、うん。


とにかく充実した日々を過ごしている。


馬頭石バグによる金貨増殖が修正された今、自分も金策にせいを出さなくては。



今は自分の部屋には、知力を補正するインテリアの本棚や本で満たされていて、机に座りメニューウィンドウを使いデバッグ作業をしている。



こちらに来る前のデバッグの日々を思い出す光景であった。


だが、ここではアリ子に甘えてしまって自己管理能力がずさんになってきている。



これではいけない。


やることはたくさんあるのだ、しっかりしないか、自分。



そんなことを考えていると、こんこんとドアがノックされる音が聞こえる。


「デバッグおにいさーん、夕食ができましたよ」


アリ子の声が扉越しに聞こえる。


「ああ、今向か…」


扉を開けようとした時、立ちくらみがする。


そうか、体調管理がずさんなせいで、身体にがたがきてたんだな。



「え、ちょ…」


俺はそのままアリ子にもたれ掛かるようにして倒れ込んでしまった。


「…っ」


ああ、なんて失態だろう。


ここ数日で分かったことだが、NPCだって物事を考えるし、嫌な気持ちにもなる。


コンピューターゲームによくあるこう来たらこう返す、ではなく、こう来たらよく聞いて、見て、感じて、考えたうえでこう返す。


だからこうしてアリ子の胸を借りてしまうのはよくないのだ。


俺は気持ち悪がられる前に離れなくては、そう思い離れようとする。


だが、それは物理的に防がれる。


「…最近少し根を詰め過ぎなのでは? たまには休んでもいいんですよ」


アリ子は俺を抱いて離さない。


そしてそのまま優しく、子をあやす母親のように頭を撫でる。



「な、なにを───」


「いいんです、今日くらいは。わたしを…いや、ここの土地を開拓して、人が住むようになって、エル子さんもサキュ子さんもサキュ美さんも、みんなをここまで立ち止まらずに連れてきたのですから」


誰かに褒めて欲しいわけではなかった。


デバッグ作業は常に孤独だったから、誰かに認めてもらう機会はほぼなかった。


だからそんな感情は忘れていた。


突然のアリ子の行動に、涙が溢れそうになる。



「…」


それ以上は何も答えなかった。


いや、答えられなかった。


何かしたらその涙が溢れてしまいそうだったから。



そうか、俺は誰かに認められたかったのか。


…情けないな。



「───今日のことは二人だけの内緒ですよ? さ、みんな待ってますから、ご飯にしましょう?」


しばらくして離すと、それだけ言って階段の先に消えてしまった。



「ああ、ありがとうな」


やはりアリ子には適わないな、と再確認させられたな。






     *






「で、エル子さんはそれでどうしたのです?」


サラダに手を出しながら、アリ子はエル子に尋ねる。


「そこでわたくしはこう言ったのです。膝に矢を受けてしまってな…と」


アリ子はそれに頬に手を当てておどけた様子で答える。


「…結構シャレになってないわねそれ」


サキュ子はそれを聞いて表情を崩さずマヨネーズをパンにかけている。


「…んぐ」


サキュ美は会話に入らずちまちまと冷製スープを飲んでいる。


「あはは、おかしい! なんですか。エル子さん、前々から思ってましたけど、とても面白い人ですよね。吟遊詩人目指してたりしてたんですか?」


「アリ子さんにしかウケないのでボケは当分封印しますわ…」


「えぇ…」


アリ子は本気で残念そうな表情をしている。



ギルドの待合室は、夕方以降は俺たちのギルド『スーパーデバッガーズ』の食堂と化す。


いつもうまい飯を作ってくれるアリ子には頭が上がらないな。



俺たちがそんなこんなで談話をしていると、入口の方からピンク色のスライムがそーっと入ってくる。


「ぴっ! ぴよよ! ぴーっ!(魔王四天王の川田です! 今日は伝言を持ってきたので、この手紙を受け取ってください! あとごはんご一緒していいですか!?)」


びよーんと伸びた触手の先に手紙がある。


俺はそれを受け取った。


「またお前か。いいぞそこの席座って。どれどれ…」


俺は手紙を開ける。






『デバッグおにいさん 


木の葉が色づき、肌寒くなってきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。魔王パイセンでございます。


閑話休題、貴様をぶち転がすためのダンジョンの整備が近々完了する旨をお伝えすべく、手紙を送った次第でございます。


動きやすい服装の上、お越しくださいませ。 


魔王パイセン』





なるほど、よく分かった。


「つまり挑戦状だな!」


俺はこの手紙の内容をみなに伝える。


「なるほど、それでいつ行くんです?」


そのアリ子の質問には、俺が答えねばなるまい。


「明日だ」


「へ?」


顔にへ? と書いてあるが、そんなことは知らん。


「明日じゃい!」


「それはちょっと急すぎじゃないですか?」


「いいや、そうでもないさ。やつらはまだ整備中らしいし、向こうの準備が整う前に詰めた方がいいだろう」


「なるほど!」


納得してくれたようで何よりだ。


「わたし、一度ダンジョンに行ってみたかったんですよね。冒険って感じするじゃないですか。明日が楽しみです!」


「というわけで決戦は明日だ。みな万全の準備をして挑んで欲しい」


みな真剣な顔でうなづいてくれる。


戦いが俺を呼んでいる。



「ぴーっ! ぴよよよよっ!(このハンバーグ、うますぎる…! 美少女の手垢とかも混ざってるのかなとか考えたら…ごはんがすすむ!)」


あとであのスライムも倒しておかないとな。


面白い! と思われましたら、ブクマ高評価お願いします!

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