第20話 人は横格を繰り返す
聞いた話によると、アリ子は暗くて狭いところが好きらしい。
だがここは…
「無いだろ…」
横! 横! とよく分からない奇声が飛び交う。
ここは地下ゲームセンター。
暗くて狭いポジションだ。
「うお! 危ない!」
なんと突然、灰皿のようなものが頬を掠めて飛んできたのだ。
それをかわして、一度落ち着きを取り戻す。
お、あちらの台では決着が着いたな。
突然、負けた人が筐体をぶん殴り、大きな音が響く。
なんという治安の悪さ。
「デバッグおにいさん、さすがにここにはアリ子さんはいないでしょう」
そう思うじゃん。
そこの筐体にいるんだよなぁ…
「あー! 横! 横! 相方半覚割らないと! なーにやってんの! あーもう落ち分ありませんよ!」
何か絶叫してるアリ子が、そこにはいた。
正直いて欲しくなかった…
「おいおい嬢ちゃん堪忍してや! 相方に文句垂れる前に、自分のプレイ見直せタコっちゅー話や!」
横に座っていたリザードマンの男が大声をあげている。
…いやまて、リザードマンだって?
「あ、おおきにデバッグおにいはん。儲かってまっか?」
「ぼ、ぼちぼちでんがなまんがな」
どうやら俺の名を知っているようだ。
「あ! デバッグおにいさん、どこいってたんですか?」
アリ子が割って入る。
「そりゃこっちのセリフだ。一体どうしてゲーセンに…」
しかし、それに答えたのはとなりのリザードマンだった。
「嬢ちゃん、暗くて狭いアットホームな落ち着く空間を求めてたからな、ワイが呼んだんや!」
「あとじめじめしてていい感じですよ」
そんながれきの下の虫みたいな!
しかし、リザードマンのような魔物が普通来れるような場所ではない。
つまりこいつは…
「ワイは魔王四天王の一人、リザード安田や。魔王四天王の五本指に入る男や」
どいつもこいつも五本指に入ってるなと思いながら、聞き流す。
「なるほど、もう倒していいか?」
俺はエンチャントの準備を進める。
「いやいやいやちょいまちおにいはん。たまには文化人らしく、ゲームで白黒決めへんか?」
なるほど、確かに。
たまには違うアプローチも悪くないかもしれない。
「いいだろう、受けて立つ!」
「あんた良い奴やな。ただ今のままではワイにメリットがない。せやな、ワイが勝ったらそこの嬢ちゃん1ヶ月シゴいてええか?」
そう言いながら、リザード安田はアリ子を指さす。
「え、ええ?」
アリ子は困惑顔を浮かべる。
「あんたはんはアレや、チャージしながら移動出来んのは論外や! ワイが鍛えなおしちゃるわ!」
「た、確かに一理あるかもしれない…」
アリ子も納得したようなので、続ける。
「いいだろう、それで対戦種目はどうする」
「そんなんこの『エクストリームパーティー』、略してエクパに決まっとるやろ!」
そう言いながら、リザード安田は先程まで座っていた台を指さす。
なるほどな。
エクパは二対二で行うチームアクション対戦ゲームだ。
特徴はなんと言ってもそのゲームシステムにある。
やられたキャラクターは数秒後に復活できるが、そのチームのうち二回目にやられたキャラクターは大きく体力を落とした状態で復活させられる。
その弱ったキャラが倒されると、そのチームの敗北となるのだ。
このシステムのおかげでシンプルながらも奥が深いゲームに仕上がっている。
しかし、エクパをこの世界で遊べるとは。
ゲームセンターの遊べる筐体は管理AIに一任していた。
まさか会社が同じだからとはいえ、ゲーム内で遊べるとはな…
「いいだろう、だがこちらは初心者しかいない。一ヶ月は欲しいところだが…一週間後でどうだ?」
「かまへんかまへん。まあいくらかけてもワイに勝てるわけないっちゅー話やけどな」
そう言い放ち、にやりと嫌な笑みを浮かべるリザード安田。
ついに本性を表したか、安田め!
この勝負、負けられない!
「んじゃ、おおきに。一週間後、楽しみにしとるわ」
リザード安田は悠々自適に階段を昇り、去っていった。
しかし困ったな。
アリ子は別として、サキュ子もサキュ美もエル子もやったことなさそうだもんな。
この中で向いてそうなのは…エル子だろうか。
そんなことを考えていると、袖を引っ張られていることに気がつく。
「デバッグおにいさん…一回遊んでみたい」
まあ、興味を持つお年頃だよな。
だがサキュ美の小柄な体躯では、アーケード筐体のボタンは押しにくいだろう。
そう考えた俺は、一緒にプレイすることにする。
「え、サキュ美さん、できるんですか? ちょっと練習した方が」
アリ子が注意を促す。
「アリ子、対面」
なんと、サキュ美はいうものさん付けをやめ、対戦相手としてアリ子をご指名したのだ。
そんなに引っかかったのか、さっきの一言…
だが、このゲームは2対2だ。
俺はどうするか。
「デバッグおにいさんは…私の相方」
サキュ美のご指名とあれば、そっちにつくしかないだろう。
「よーし、やりますか!」
誰かアリ子の相方に来てくれる人を待つ。
それほど待たずして、名も知らない相方が席につく。
「んーマチあり!」
めちゃくちゃキャラの濃い人がやってきた。
「つかぬことをお聞きしますが、あなたは?」
アリ子が複雑な表情をしながら彼に聞く。
「どーも、コンチャス! ゴリタカです!」
「ご、ゴリタカさん、よろしくお願いします!」
向こうのチームの顔合わせも済んだようだな。
では、行くぞ!
俺はゲームを始めると、まず最初に気がついたことがある。
「キャラセレクトがないな」
このゲームでは、まず始めに操作するキャラを決定する。
だが、そういったメニューは存在しない。
おかしいな、実は一瞬よそ見をしていて、その時に適当にキャラを押してしまったのだろうか。
だとしたら気をしっかり持たなければ、俺。
画面にはマッチング中の文字が映し出され、ロードが始まる。
さあ、やるぞ!
何を隠そう、俺は結構エクパをやりこんでいる。
中学の時から長い付き合いのゲームなのだ、そんじょそこらの一般に負けるはずが…
その時、筐体が激しく光る。
「うお! 眩しいぞ!」
あまりの眩しさに、目を瞑る。
「───っ。なんだったんだ一体…な!」
眼前に広がったのはなんと、見慣れたエクパのステージだった。




