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第18話 目標をセンターに入れてグリッチ

「た、大変だ!」


覗きは成功し、しかも何やらちょっとやらしい雰囲気になっていたため、テンション上がっていたが、何やら良くないことが起きているらしい。


「どうやらそのようですね」


センバも俺と同意見のようだ。


女湯と男湯は間に1枚の壁がある。


脱衣場を経由して普通に正面から入るには時間がかかるし、壁を超えるのも骨が折れる。


では、この俺がデバッグおにいさんと呼ばれる所以を見せるべきだろう。


俺はカメラ共有バグをやめる。


「しかしどうするんです? デバッグおにいさん。この状況では、流石のあなたでも女湯にはそうそう行けないと思いますが」


センバはどうやら心配をしてくれているらしいな。


「安心しろ。俺には秘策がある」


「ほう、秘策ですか」


「そうだ。センバよ、この壁によりかかってくれ」


俺が促すと、センバはこうですか、と壁に寄りかかる。


「よし、そのまま…動くなよ」


動かれては、成功するものもしなくなるからな。


俺は壁ドンの姿勢で、手をつく。



「な、なにをするつもりですか」


「決まっているだろう。それはな…木の皿グリッチだ!」


勢いのままに、センバの身体に俺の身体を押し付ける。


「ぐはぁ! き、きさまなにをする!」


センバは慌てた様子で逃げようとする。


「こら暴れるな! ちゃんと入らないだろうが!」


「入ったら問題だろうが!」


く、この男、逃げようするせいで上手くいかない。


「あともう少しなんだ…ほら、先っぽが入った。このまま行くぞ、せーの!」


「や、やめろおおおお!」


瞬間、視界が開ける。


ついにきた。


「女湯、到着だな」


俺は壁のすりぬけに成功した。



「で、デバッグおにいさん! 助けてください〜! あは、あはははは!」


壁を抜けると、そこではアリ子が大爆笑していた。


いや、それだけではない。


「サキュ子、サキュ美、そしてエル子! 一体どうしたんだ!」


みな顔を赤く染め、恍惚とした表情で虚ろを眺めている。


「デバッグおにいさん、この源泉、少しおかしいんです!」


なるほど。


とりあえず水を抜いて調査せねばなるまい。



俺は腰に巻いていたタオルをエンチャントしていく。


「エンチャント、ファイア・オーバーロード!」


どうやら多重エンチャントバグはまだ機能するようだな。


そして出来上がった灼熱のタオルを、温泉に放り投げる。



すると、みるみるお湯が干上がっていく。


「大丈夫か! お前たち」


俺はみなに声をかける。


「あれ、わたくしは一体…」


エル子は虚ろな表情のまま、よろよろと起き上がる。


出るところは出て、くびれるところはくびれている。


流石エルフ、美形の種族なだけはあるな。


モデラーに敬意を表したい。



それに比べてアリ子は…成長性を感じるな!


「エル子よ。メッシュを詳しく調べたいが、それは後だ!」


俺はアイテムインベントリからタオルを新たに取り出し、エル子に投げつける。


「あ、ありがとうございます…」


エル子は頭を下げる。



サキュバス姉妹は起き上がらない。


というか、頭の上に星が出ている。


当分は起き上がれないであろう。


その2人にもタオルを投げつけ、隠すべきところを隠してやる。



「さあ、一体これはどういう要件なんだ、そこのスライム!」


湯が蒸発し、現れた桃色のぷるんとした液体に俺は問いただす。


「ぴ、ぴよっ! ぴーっ!(バレてしまってはやるしかない…! 魔王四天王が一人、実力は五本の指に入るスライム川田です! いざ尋常に!)」


何かぴいぴい鳴いてるな。


「よく分からんがくらえ!」


俺は地面に落ちた灼熱エンチャントタオルを握ると、それでスライムを包む。


「ぴ、ぴよよっ!(あ、あつい! 極悪非道ー!)」



俺はスライムを包んだまま、タオルをぶん回す。


「うおおおおおおお! これでもか! これでもか!」


ぴいぴい鳴るタオルを振り回し続けること三分、ついにスライムは消滅した。



それを感じた俺は、女湯にて全裸で勝ち誇った。



「魔王四天王、討ち取ったりー!」


タオルの中身は銀の鍵になっていた。






     *






ありえない。


ありえないありえないありえないありえないありえないありえない!


「ありえぬぁーーーい!…はぁ…はぁ…」


あの男を思い出す。


あの男、デバッグおにいさんだ。



「この私に身体を擦りつけた挙句、よりにもよってバグ嫌いの私を使ってグリッチを行うなど…!」


思わず怒りに身を任せ、魔王城の壁を殴ってしまう。


「ま、魔王パイセン…もうその辺にしといた方が…」


川田クンは独断で奇襲攻撃を仕掛けたのもあってか私の機嫌を伺うように、言葉を濁しながら私を制止しようとしてくれる。




「分かってはいるのです。ですが、この怒りはもはやどうしようもない…!」


どこかでストレスを発散しなければ、部下にハラスメントをかけるわるわる上司になってしまう。


そういう大人にだけはなるなと、おかんに言われて育ってきたというのに。



冷静になれ…落ち着くんだ、自分。


突如、部下の一人である瀬川クンが宮殿をかけてやってくる。


「た、大変です課長! 魔王討伐隊がすぐそこまで来てますよ! 数は2000を軽く超えてます! 魔王パイセン、もうここを捨てて逃げるしか」


なるほど、慌ててきた理由はそれですか。


憂さ晴らしには、丁度いいでしょう。


「ふ、心配など不要。我が魔の軍勢における最終兵器、暗黒破壊神龍ガイア、我が元へ」


私が声をかけると、闇からそれは現れる。


黒いもやが集まり、やがて人型に留まる。

次第に、黒より黒々とした、いかにもダークファンタジー系主人公といった風貌の少年が現れる。


「我、来タレリ」


少年はただ来たれりとだけ告げる。


「ガイア、お前は私と来なさい」


「御意」


言葉はもう要らない。


それだけで、彼は全てを理解する。



私とガイアは城の外へと飛び立つ。


上空から人々を見下ろす。


「私は百代目魔王にして災厄の権化、マオ・センバ! じゃなかった、マオ・ウパイ・セン! さあ、死にたい奴からかかってくるがいい!」


ガイアは身体を突き破るように、不気味に蠢き、ついには強靭で無敵で最強そうな超巨大ドラゴンへと変貌を遂げる。


「グオオォォオ……………ォォ」


その咆哮は、遥か彼方からこだまする。


まるで世界を一周して再び私の耳に届いているかのようだ。


「…行きますよ、ガイア」



───一分後、魔王城前は何もかもが塵へと帰り、見るも無惨な焦土と化したのであった。



「ガイアって、マジで誰…」


瀬川クンたちのそんなつぶやきが聞こえたような気がした。


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