第10話 最強サキュバス娘サキュ子は結婚している!? 大学は? 彼氏は? 調べてみました!(魔界まとめ)
「うーん、必ずどこかにいると思うんですけどね…」
わたしたちは、虱潰しに全ての棟を探して回る作戦に出ましたが、ユニコーンを見つけられずにいました。
「日中は魔力が回復しないし、そろそろあたしは魔力切れちゃうから、あたしの探知魔法に頼らないで頂戴」
さすがに最大戦力であるサキュ子さんの燃料切れはまずいので、その判断は妥当でしょう。
「うーん、向こうから来てくれたらいいのですが、隠れているわけですし、そう上手くは行きませんよね…」
疲れからか、当たり前なことを呟いてしまう。
まあ、向こうから来てくれるに越したことはないのですが。
「お待たせしました…ンつくしく再登場…です」
どこからか声が響きます。
声の方向に目を凝らすと、監視塔の最も高いところにユニコーンが立ち、わたしたちを見下ろしていました。
「随分遅かったじゃない。あの傷だったら仕方ない。もしかして怖くて部屋の隅で震えていたのかしら」
おおサキュ子さん、煽りよる煽りよる。
「期待に添えず、残念ながらまだ足に痺れが残っていますし、表面の傷は癒えても中身はズタボロ。少し動けば筋繊維は断裂しますし、時折クラっときます」
「負けた時の予防線を張っているのかしら?」
「いいえ。だからこそ『ベストコンディション』だと、お伝えしたかったのです。今の俺様は強いです。むしろ貴方の心配をしていたんですよ」
「よく吠えたわね。その言葉、受け取ったわ」
「さて、前置きはこの程度にしておきましょうか…デゼル、今から貴方をンつくしいほど無惨な姿に変えてあげましょう」
「それはこっちのセリフよ」
「では、いざ尋常に───」
ユニコーン大久保が囁くように呟く。
刹那、空気が凍る。
時が止まったかのような、風の音だけが空を切る。
その状態がしばらく続くと、砦の監視塔の一部が先程の魔弾の衝撃で砕ける。
瓦礫は地面目掛けて落ちていく。
落ちていく。
落ちて───
「「勝負!」」
───両雄激突す。
先に仕掛けたのはサキュ子さんではなく、眼前のユニコーンでした。
蹄を地面に叩きつけると、大地が割れ、炎が吹き出す。
「そんな攻撃…!」
避けるまでもないと言わんばかりに、サキュ子さんは片足で地面を蹴りつけて衝撃を発することで、相殺します。
「なるほど、流石は魔界のトップスター…」
「お褒めにあずかり光栄だわ!」
続いてサキュ子さんが身体を捻り跳躍、続いてかかと落としを披露します。
「ふ。ンつくしい…」
それをユニコーンは角で受け流し、後ろを向いて後ろ足で蹴りを繰り出します。
「くっ、肉弾戦となると獣の身体は厄介ね」
それをサキュ子さんは一旦距離を取って避けます。
「さて、どちらの身体が先に音を上げるか、根比べと行きましょうか」
「へえ、いい度胸ね、このあたしに勝負を挑もうだなんて。いいわ、『分からせて』あげる!」
攻めて、引く。
引いては攻める。
両者一歩も譲らない体術戦が、続いていきます。
*
冷たい床の感触が全身を巡る。
石造り、冷たすぎるだろ。
何もゲームでここまで再現する必要ないだろ。
プレイヤーの気持ちになって欲しい。
「ええい! ここから出さんか! 俺はやってない!」
手枷で拘束された両手を運び、冷たい格子をガシャガシャゆさぶる。
デバッグおにいさんともあろうこの俺が、なんて失態を。
「…はぁ、誰かと思えば。まだ叫んでいたのか」
カンカンと、金属の鈍い音を鳴らしながら甲冑の衛兵が近寄ってくる。
「なぜ俺を閉じ込める! 俺かその胸、どちらかを出さんか!」
「貴方がそういう態度だからいつまでも出れないのだ、まったく」
呆れたと言わんばかりの顔をして。
こんな惨めな気持ちはいつぶりだろうか。
*
───ユニコーンとサキュ子さん、互いに譲らない肉弾戦による攻防が続きます。
「ンつくしくないことに、そろそろ俺様の体力が先に切れそうですね」
「そう、あたしはあと三日続けてもいいけど」
「どうやらその様子ではブラフではないようですね…」
ユニコーンの方は肩で呼吸をしていますが、サキュ子さんは一切息が上がっていません。
それに、サキュ子さんはユニコーンとの戦闘において一度も魔法を使っていませんが、ユニコーンは魔力を使って地割れ攻撃をしかけています。
恐らくその差で体力の消耗具合が違うのでしょう。
「そろそろ終いにしようかしら」
そう言うと、サキュ子さんの人差し指に魔力が集中します。
「なるほど、魔力を温存し、ここぞという場面で切り札として用いる…実にンつくしい戦術だ」
「どうやらあんたも、これまでのようね」
空気が張り詰めます。
どうやらここが正念場のようです。
「確かに俺様はもう避ける術を持ちません…しかし! それは貴方がそれを放てばの話! さあ、地面を見なさい」
「そんな一発逆転の可能性なんてあるわけないじゃない。もう終わり…はっ!」
サキュ子さんはひび割れた地面を見るや否や、固まります。
「ふふ、どうやらお気づきになったようですね…この無数の触手の海に!」
地面からは無数の触手が飛び出します。
しかし、どの触手も攻撃をしかけてくる素振りを見せません。
そう、どこからどう見てもサキュ子さんの相手ではないのです。
「…ふぅ」
サキュ子さんは大きく深呼吸をすると、魔法を1度キャンセルします。
不用意な魔法発動はしないで、ここぞの一撃に取っておく慎重派のサキュ子さんならではの判断なのでしょう。
「まずいですね…」
サキュ美さんが表情を崩さずにぽつりと呟きます。
「へ? どう見ても優勢じゃないですか」
「それがそうでもないんですよ…なぜならおねえちゃんは生粋の───」
サキュ子さんは前傾姿勢を取り、今にも相手に飛び込もうとしています。
「ドM、なのです」
サキュ子さんは触手の海に見事ダイブしていきました。
「あ、なんかきたぁ♡ あ、そこはちがっ…! あぁん!♡」
サキュ子さん、触手に揉まれながらお茶の間では流せないような声をあげてますね。
「フ、計算通り。この俺様の美しいユニコーン角占いによると貴方の性格は…マゾヒスト!」
それを見つめながら馬が高らかに笑ってますよ。
「触手には勝てなかったよ…」
サキュ子さんはそう言い残すと、親指を突き立てながら触手の海の奥深くまで潜っていくのでした。
「なんですかこれは…」
「仕方ないのです。おねえちゃんの部屋の薄い本は、触手系のばかりでしたので」
「ええ…」
正直ドン引きました。
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ぶ、ブクマください…




