愛すべき人々 ~裸の女~その1
私の勤めていた大阪営業所に、一人の女の子が入社して来た。
名前はピン子としておこう。 (に…似てる。)
お世辞にも美人とは言えないが、先輩として早く会社に馴染む様、
後輩のシゲと3人で飲みに連れて行くことにした。
シゲ: 「ひ~にぃさん、えらいご機嫌ですねぇ?」
私: 「わかるか?!」
シゲ: 「なんかええ事あったんですか?」
私: 「おお!ダービーとったでぇ!」
シゲ: 「テイオーの単勝買う、言うとったけど…1.6倍ですやん?」
私: 「50万突っ込んだんや!50万!」
ピン子: 「ご…50万ですかぁ?」
私: 「80万になって帰ってきたで!」
シゲ: 「ひ~にぃさん!一生ついて行きます!」
私: 「今日はわしのおごりや!…他のモンには内緒やで!コンドーさんには言うなよ!」
二人: 「は~い♪」
すし屋で軽く一杯やって腹ごしらえをした後、
当時の行き付けの、関テレの近くの店へ連れて行った。
ピン子: 「ひ~にぃさん、美味しかったですぅ♪」
シゲ: 「蒸しあなが最高でしたねぇ!」
私: 「せやろぉ!次はわしの行き付けの店へ行こか?」
シゲ: 「どんな店やろ?」
ピン子: 「ワクワクするぅ!」
私: 「ちょっと初心者にはきついかもしれへんけど、めっちゃおもろい店やで!」
何の初心者や…。
そこは男2人でやっている店で、女性客が多く必然的に男性客も多い。
マスターはショットバーだと言い張るが、盛り上がると女性客と野球拳などが始まり、
中には全て脱いで指一本で隠してご開帳した女の子もいるという伝説の店である。
私: 「まいどー!今日は会社の後輩連れてきたでぇ。3人やけど大丈夫?」
マスター: 「いらっしゃ~い!大丈夫、大丈夫!ひ~にぃ、中に入って!」
私: 「なんで9時過ぎやのにこんなに客多いねん!俺はカウンターの中か!」
マスター: 「ええがな、ええがな!お二人さんはこっちね!」
カウンターだけのその店は、12人も入るといっぱいになる。
9時過ぎだと言うのに、既に満員状態で盛り上がっている。
今日も波乱の予感が…。
カウンターに二人を座らせ、私は向かいのカウンターの中に…。
マスター: 「ようこそ、いらっしゃい!マスターのパトちゃんです♪」
二人: 「はじめまして♪」
私: 「マスター、後輩やからかわいがってや!」
二人: 「まかしとき!ひ~にぃ、いつものヘネシーでええ?」
私: 「うん。一本入れといて!」
シゲ: 「ヘッヘネシーっすか!」
私: 「とにかく、テイオーにかんぱーい!」
二人: 「かんぱーい!」
ヘネシーといっても私は何故か特別価格でボトルキープ3000円なのである。 (一般は20000円)
そのかわり、お客のリクエストに応えて歌を歌う事になっている。
ポンさん: 「ひ~にぃ!来とったんかいな!こっちおいでや!」
私: 「まいど!」
私: 「ちょっと挨拶してくるわ!」
二人: 「いってらしゃーい♪」
二人の相手をマスターにまかせて他の常連客の所をまわっていた。
シゲも『勝手にしやがれ』を熱唱している。
マスター: 「めっちゃおいしいカクテルがあるんやけど飲んでみる?」
シゲ: 「ほんまですか?ぜひ、いただきます♪」
マスター: 「ショットグラスやけど、一気飲みやで!」
シゲ: 「大丈夫ですよ!ひ~にぃさんに鍛えられてますから!」
ポンさん: 「ひ~にぃ、お前の後輩、例のヤツに挑戦しよるぞ!」
私: 「ええっ!…大丈夫かいな?」
このおいしいカクテルとは、通称『30分爆弾』と言い、
ロンリコとスピリタスをハーフ&ハーフにし、レモンを一絞りしたもので、
飲んだ者は30分後に椅子から落ちてしまう恐怖のカクテルである。 (アルコール度数88度ぐらい)
この店の客の登竜門である。
店内『いっき!いっき!』の大コール。
シゲ: 「シゲぴょん、一気、行きまーす!」
「ごきゅっ!」
シゲ: 「うっはぁぁぁぁぁぁ!!! 喉が…焼け…る…。」
マスター: 「大丈夫か?」
シゲ: 「だ…大丈夫っす!ちぇ…チェイサープリーズ!」
私: 「あ~あ。飲みよった…。」
ポンさん: 「ひ~にぃ、あいつ30分もつかのぅ?」
私: 「…どやろ?ちょっと見てきます。」
私: 「シゲ!大丈夫か?」
シゲ: 「大丈夫っす!」
ピン子: 「おいしかったぁ?」
シゲ: 「も…燃えてきた!マスター『TOKIO』入れて下さい!」
私: 「おぅ!歌え!歌え!」 (ちょっとでも発散した方がええ…。)
ピン子: 「きゃぁー!ずりぃぃぃ!」
シゲはかなりご機嫌になり、TOKIO(沢田研二 古ぅ…)で空を飛びだした…。
私: 「ポンさん、大丈夫そうですわ。」
ポンさん: 「いやいや、30分後が勝負やで。」 (何の勝負や?)
どたっ!…
きっちり30分後、シゲは椅子からすべり落ちた。
ピン子: 「シゲさん!大丈夫?」
私: 「大丈夫、大丈夫。ちょっと外の空気すわせて来るわ。」
シゲを連れて外に出る。
私: 「シゲ!お~い!生きてるか?」
シゲ: 「ぐふっ!き…気持ち悪いっす…。」
私: 「そこの公園のベンチで横になっとれ!」
すぐ近くの公園に連れて行き、店から持ってきた水を飲ませては吐かせた。
…30~40分たっただろうか。 ようやくシゲの意識がしっかりしてきた。
私: 「シゲ、どうや?」
シゲ: 「すんません。だいぶ、楽になりました。」
私: 「よっしゃ!ほんなら店に戻ろうや!ピン子の事忘れとった!」
シゲ:「せっかくの寿司、全部出てもうた…。」
たこ焼きをお土産に買って帰ろうと、たこ焼き屋に寄っていたその頃、
店では大変な事になっていた…。
長くなるので、次回へと続きます…。