バンカーパレスホテル
ぼくらは宮殿形態となった“宮龍”のなかに招き入れられた。小さな龍が光球のように瞬きながらふよふよと傍に浮いている。
「君は……パレスティリア、だよね?」
「そう、“ぱられるどー”」
ええと……平行化か。建物でありながらホストでもあると。親切だな。そして便利。
「ありがとう、パレスティリア。ぼくはアイク。あっちにいるのは、ぼくの育った孤児院の子たちと、この地底で知り合ったひとたちだよ」
「へえ、アイクは仲間がいっぱいだね」
仲間か。たしかに、いつの間にか、こんなにいっぱいになってた。ちょっと前に裏切られて、ひとりきりで地の底に落とされたばかりなのに。
隣にいるネルと目が合ったので、小さな龍に引き合わせる。
「この子は、ぼくの友達でアーシュネルだよ」
「よろしく、パレスティリア。あたしのことは、ネルって呼んでね」
「アイクと、ネル? ふたりとも、境界の住人だね」
スレショルド? 聞いたことのない言葉だ。ネルを見ても、首を傾げている。亜人っていう意味かな? 超古代遺産であるパレスティリアにとっては別の観点があるのかもしれないけど。
「ねえ……あなたも、パリィって呼んでいい?」
「うん。ありがとう、すっごく良い名前♪」
遅ればせながら自己紹介などした後、パリィの案内で館内を見せてもらう。
「その先に、お部屋あるから、好きに使ってー?」
「「「わああぁ……♪」」」
吹き抜けの玄関ホールから、二階と三階の回廊が見える。さすがに総勢五十人には手狭かと思ったけど、そんなことはない。城の内部は外見よりも遥かに広くて居心地の良い空間になっていた。
「お風呂は、一階の奥にあるよー」
「「「はーい」」」
「食堂は、一階の奥だよー」
「「「はーい」」」
子供たちのところにも別のパレスティリアが話し掛けている。ネルがぼくを見て、隣に浮いてる宮龍に尋ねる。
「パラレルドって、何体まで出せるの?」
「出そうと思ったら、いーっぱい」
それはすごい。けど、その前に大事なことを訊いておかなくては。
もしかしたら……というか、もしかしなくても、ぼくらが無事に生き延びられるかどうかは、パリィに掛かっているのだから。
「ねえ、ぼくらを助けてくれるのは、ありがたいと思ってる。けど、どうして助けてくれたの?」
「どうして、って? だって、ぼくを助けてくれたでしょ?」
「それは、そうだけど」
ぼくは、自分たちの事情を正直に話す。地上にあった王国で、ひどい暮らしを強いられてきたこと。みんな襲われたり使い捨てられたりで、その結果としてここにいること。
「王国は、“紅玉の魔珠”っていう、亜人を苦しめる力を持った石を手に入れたんだよ。これから地上は戦争になる。獣人の国と、ドワーフの国、エルフの国。王国は全部の国に攻め込んで、土地と人と財産を奪おうとしてる」
「せんそう? なんで?」
「元々は、自分たちのものだって思ってるから」
宮龍には、ぼくの説明がいまひとつ理解できないみたいだ。内容が難しいとかではなく、“どうしてそんなことをしなくてはいけないのか”、みたいなところで。
長い歴史のなかの“奪って奪い返して”という経緯は当人たちにとっては重要な問題かもしれないが、傍から見ると大勢が殺し合ってまで必要なことなのかとは思う。
「パリィは、その三つの国の王様と知り合いなんでしょう? 戦争になったら、助けに行ったりするの?」
「ううん。王様たち、強いから大丈夫だよ?」
ネルの質問は、あっさりと否定された。だとしたら、三国の王たちが、“ただの魔法人形みたいな感じ”だった宮龍をこんな“高機能特化人工生命体”に仕上げたのは何のためなんだろう。
「ぼくね、王様たちと、ひとつだけ約束したの。これだけは、どうしても守りなさいって」
「うん?」
「“仲間を見付けて、幸せになること”」
そういって、小さな龍は笑った。




