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レベル100でリセットされる守護者! 勇者パーティを追放されたぼくは「みまもり」スキルで弱者を楽園に導く  作者: 石和¥


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怯える心と寄り添う思い

「カイエンさん、ケイマーさんのご遺体って、どういう状態です?」


 集落の側の水源近くに埋葬されたからには、そのままではないと思うけど、念のために確認しておく。


「火葬の後で、石灰を詰めた木箱に収めた。石を()ければ、すぐ出てくるはずじゃ」

「改葬するには助かります。疫病を出さないための配慮ですか」

「それもあるが、この辺りは岩ばかりで、ほとんど掘れんのでな。苦肉の策じゃ」


 ぼくらはカイエンさんの主導で、手分けしながら集落の撤去を開始していた。供えられていた大楯と、塚になっていた石を収納する。転移魔法陣が刻まれていた平たい岩もだ。ひと抱えほどあるそれは九十キログラム(二百パウ)以上はありそうだけれども、いまのところ“収納(ストレージ)”が容量超過(オーバーフロー)する感じはない。レベルが回復することで容量も拡大しているんだろう。


「爺ちゃん、建物の建材()は?」

「みんな置いてけ、森に行くなら木材には困らん。そもそも森から運んできたもんじゃしの」


 カイエンさんたちが長年ちょびっとずつ木材やら鉄くずやらを苦労して運んでここに生活拠点を築いたのは、森の魔物が強力すぎて到底暮らせないと判断したからだ。

 ネルの活躍で、それも覆った。それは、良いことではあるんだけど。


「……アイク」

「どうしたのネル、何か心配事でも?」


 どこか思いつめた顔のアーシュネルは、ぼくが尋ねると困ったような表情で首を振る。


「な、なんでもない。あたし、子供たちを手伝ってくるね」

「……ん? ああ、うん」


 幸か不幸かみんな荷物がほとんどないので、出発は簡単だった。崖までの移動は危険な魔物や獣はほとんど棲んでいないので、注意すべきは小さい子供が転んで怪我をすることくらい。途中の狭くて入り組んだ場所には、稀に巡回性(ながれ)のゴブリンが隠れていることがあるとかで、先頭は土地勘のあるカイエンさんと鼻が利く人狼少女イーフル。中間をファテル・ミルトン・トールの頼れる仔猫ちゃん部隊。そして殿軍(しんがり)に、ぼくとネルだ。


「点呼は各グループでお願いね」

「「「はい!」」」

「おう」

「わかったー」


 元いた集落住人二十七名と、孤児院を脱出してきたチビッ子と院長が二十二名。ぼくを入れて、合計はちょうど五十だ。それを、カイエンさん引率の“大人組”、ファテルたちが率いる“年長組”、ぼくとネルでサポートする“年少組”に分けた。人数は、二十一名、八名、十四名。

 大人組の男性には、杖代わりの棍棒を配布した。戦棍(メイス)とかではなく、木の棒だ。刺突武器を持って岩場を歩くと危ないしな。


「よーし、みんな明るいところまで行ったら、ご飯食べようねー?」

「「「わーい」」」


 小さな子供が相手のときは、意欲と気持ちを沈ませないように気を配る。逆に上げ過ぎても、はしゃいで力を浪費してしまう。限界を超えると魔力枯渇みたいにバタッと倒れるので要注意だ。


「アイク、もうすぐ暗くなり始める」

「そっか。明るいのは日に四時間(二刻)くらいだっけ」

「“深域の森”なら、もう少し明るさが残ると思う。それでも、たぶん六時間(三刻)はない」


 今日の移動は、崖の辺りまでかな。危ないので、降りるのは明日また明るくなってからだな。

 やがて、つまずきやすい岩場から平坦な地面に出た。しばらくは、淡々と足を運ぶだけの道だ。


「ね……ねえ、アイク。ひとつだけ……訊いて、いい?」


 ネルが、ぼくから目を逸らしたまま、いった。少し前に気になってた、なんだか思いつめた感じの顔だ。


「もちろん。なんでも訊いて」

「どうして、ちょっとだけ距離を取ろうとするの?」


 ビクッと、一瞬ぼくは足を止める。


「……もし、それが、あたしだけなら。それは、ちょっと悲しいかもしれないけど、しょうがないかなと思ったの。でもアイク、孤児院のみんなにも、あまり踏み込もうとしない……でしょ?」


 そうなのかな。そうなんだろうな。生まれてこの方、いちばん長い付き合いになるのは院長だけど。それほど深く親密な関係ではない。そうするのを、避けてたといわれれば、その通りだ。


「アイクが、好きとか嫌いとかでやってるんじゃないのは、なんとなく、わかる」

「ぼくは、怖いんだよ、きっと」


 話すつもりは、なかったのに。心の声が、ボソッと小さく漏れた。ネルは寂しげに笑って、ちょっと頷く。

 その穏やかな表情を見て、彼女に何か誤解されてるんじゃないかって、思ったけど違った。


「いつか自分(アイク)が、いなくなったら。守護者(アイク)の力を失った後のみんなが、生き延びられなくなるんじゃないかって、心配してるんだよね。だから、みんなが、あなたの力に依存状態(たよりきり)にならないようにって、深入りを避けてる」

「……うん」

「わかった。簡単」


 ネルは猫手メイスを両手で持ち、ふふっと楽しげに笑う。

 それは楽観的なのでも、短絡的なのでもない。迷いも悩みも不安も戸惑いも、全部抱えて。彼女は、それでも笑っていた。


「もっともっと、強くなればいいんだ。アイクが安心できるくらい。自分との距離なんて関係ないと思えるくらい。あたしは、強くなってみせるよ」

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