肉の宴
「「おいひぃ……」」
「いっぱい食べてね。どんどん焼けるからね」
怪我を癒した亜人の集団二十七名がそれぞれに幸せそうな顔で肉を頬張っている。大盤振る舞いで大量に焼かれているのは、この集落を襲った人喰い鬼の肉だ。焚き火の周りに串焼きとして並べられ、じゅうじゅうと脂を染み出させながら香ばしい匂いを漂わせている。
美味いらしいと聞いてはいたが、食べたことはなかった。いままで倒した個体も、冒険者ギルドで売るだけだ。“収納”があるので解体の経験もない。
見た目は人型の魔物だから正直あんまりそそられる代物ではなかったけれども、付き合いで口にしてみたらこれが絶品。柔らかく繊細な肉質で、噛むたび風味豊かな肉汁が染み出す。拒絶するのは申し訳ないから、せめて臭み消しだけでもと香辛料を提供したのも大当たりだった。南部から輸入された混合スパイスが脂多めのオーク肉にとても良く合う。
「ありがとね、アイク。みんな、すっごく喜んでる」
「ああ、うん。オーク肉、こんなに美味しいんだね。知らなかった」
集落の女性陣は、ぼくが渡した小刀で大量のオーク肉を器用に切り分けてくれた。皮も骨も内臓も余すところなく使って、衣服や寝具や建材や保存食にするのだとか。そういやここのひとたちの半分以上は、獣や魔物の毛皮を身に着けている。
「「「おいひぃ……」」」
子供たちは、さっきから“おいひぃ”しかいわないようになっていた。最初は遠慮してたみたいだけど、山ほどある肉を全部食べたって良いんだと伝えると、涙目で感動しながらガツガツと詰め込み始めたのだ。
「オークなんて脅威でしかなかったから、小さな子たちも初めて食べるの。食料は、あるものを分け合うしかなかったし」
「そっか。アーシュ……ネルも食べてね。捌くのも焼くのも、もう大丈夫だから」
「うん。すごく美味しい。それに、塩と水も、こんなに」
塩は過去に落ちてきた冒険者集団の荷物から回収したものだけ。水なんて、あの沼の濁った水しかなかったらしいのだ。
水も塩も、“収納”のなかに死蔵分が山ほどある。幸か不幸か、携行食もだ。ボソボソして硬く、見た目も味も素焼きレンガにそっくりの代物。美味くはないけど日持ちがして腹持ちも良い。栄養価はあるようだし、非常用としては役に立つ。
贅沢に慣れた勇者パーティの連中は見向きもしなかったけどな。
「ねえ爺ちゃん、後でそこの燻製小屋に棚を足してくれる? 腐敗の早そうな肉は、みんな燻製にするから」
「おう、任しとけ。明るくなったら深域の森で、炉に焚べる枝を拾ってくるわい」
「あたしも付き合うよ。けどそれ、枝拾いのため……なわけないよね?」
「枝はついでじゃ。少しばかり多めに伐り出してこようと思っとる。ここも、ずいぶん所帯が大きくなったからのう。オークとまではいわんが、ゴブリン程度は入り込めんような囲いや丈夫な家を作るべきじゃろ」
カイエンさんと集落の大人たちは、アーシュネルも交えて話しながら、木を切り出して運ぶ計画を練っている。どうも往路も復路も大荷物になりそうな話だった。
その森というのは危ないところらしく、直接下まで降りるのはネルとカイエンさんだけ。大人たちは運搬のサポートに専念する方針のようだ。
「カイエンさん、その“深域の森”ってとこ、ぼくも行って良いですか? 収納があるんで、大物も持ち運べますよ。武器もあるし、木を切る道具も手斧と鉈くらいなら持ってます」
「そりゃ大助かりじゃ。ぜひ頼む」
「アイクが来てくれるなら、日程は半分で済むかも」
「半分って、まさか日帰りか? そりゃ無理じゃろ」
怪訝そうな顔のカイエンさんに、アーシュネルが傍に置いた猫手メイスを指して胸を張る。
「大丈夫。一時間くれたら、あそこのヌシを、あたしが倒してみせるから」
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