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愚者、愚かなものよ  作者: まっきよ
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愚者 騎士団長に立ち向かう 影

騎士団長を相手にしながらも、黒島は笑みを浮かべるが、内心焦っていた。


剣の腕では明らかに分が悪い。それは斬撃を放つ動作の美しさから相当の鍛錬を感じられた。


黒島は、少々剣道と柔道に覚えがある程度で、こうも全国大会に出場できるような猛者ではない。


同色化も、達人からすれば児戯みたいなもので

、はっきりいって飛ばしてくる斬撃の時点できつい。


表情で余裕をなくすと、相手はそれしかやらなくなる。斬撃を飛ばされ続けては勝てない。


黒島は、騎士団長が斬撃を飛ばすスキルを持ち、なおかつ鑑定のスキルくらいは持っているだろうと見当はつけたが、それだけでない場合対策のしようがない。


だから、黒島は一度きりの切り札を切ることにした。


黒島は、一直線に騎士団長に向かっていく。まだ距離はあるが、騎士団長はおそらく斬撃をしてくる。


それを見極めて黒島は横に全力で転がる。風を切る音がした。やはり斬撃だった。


しかし、距離にしてあと十五メートルというところで黒島は、手にしたナイフを騎士団長に投げつけた。


短い距離でコントロールがよかったのか、ナイフは騎士団長の牽制の役割を果たした。


しかし、ナイフ程度では騎士団長は揺るがない。そのまま、向かってきた黒島に袈裟懸けに切りかかる。


騎士団長の刃は吸い込まれるように黒島の体を切り裂いていく。


しかし、その前に黒島は、鑑定を唱えていた。自らが斬られることを想定しての突進。


案の定、斬られたと思われる黒島の姿はどこかに消え、騎士団長が咄嗟に後ろに剣を構える。


するとそこには無傷の黒島が、いや、指輪を失った黒島がナイフを構えていた。


黒島はそのナイフを騎士団長の急所ではなく、騎士団長の目に至近距離で投げた。


切りかかってくるならまだしも、予想外の攻撃に、騎士団長はその目から血を流している。


ここで初めてといってもいいほどに騎士団長の表情が変わった。怒れる表情をして黒島をにらむ。




「やってくれたな。この愚者とやら。捨て身覚悟で突っ込んでくるかと思いきや、鑑定までかけやがって。しかも斬っても生きてるなんてことは普通はさらさらないのだが。


だがしかし、お前らの教育係は本来私よりも少し弱いものが担当するはずだったのだが、これは直談判して私自らが鍛えてやることにしよう。


その前にお前は死ぬがな。


お前は勇者の名を語り、あまつさえもう一人の勇者が死んだところでこの街を出ていくとは怪しいにもほどがある。


もしや、勇者のことについて何か知っているのではあるまいな?同じ世界から来たという貴様ら、その前の感情の縺れであやつを殺したなんてこともあるやもしれぬな。


どのみちお前はここで私じきじきに殺させてもらう。覚悟しろ。」




そういうと、腰に差していた二本目の件を持ち、更に斬撃を浴びせてきた。


片目がつぶれているので、外れているのもあるがこのままでは黒島が以前窮地にいるのは変わらない。


騎士団長の着ている鎧は動きは鈍いが、それ以上に生半可な攻撃を防げそうだ。それもナイフのようなものであればなおさら刃こぼれがついて帰ってくるだろう。


同色化と目つぶしのおかげで何とか攻撃をしのげているが、なかなか付け入るスキが見つからない。


すると、避けてばかりの膠着状態で傷を負い、しびれを切らしたのか、騎士団長は鎧を脱ぎ始めた。


黒島は、これがチャンスといわんばかりに騎士団長に近づくと、なぜか動悸のようなもの、愚令に似たような震えを感じて後ろに向けて身をひねり回転しながら距離を取った。


すると、シュウゥーと何かが蒸発したような音がした。


前に向き直った黒島はさっきまで騎士団長に近づいていた距離およそ十五メートル、すなわち斬撃の間隔にある石畳の道が一部焼けたような状態になっていた。


黒島は、捨て身の鑑定で必ずどこかのタイミングでこうした合わせ技をしてくると事前に予測した。鑑定にはそれを裏付けるようなステータスがあった。




職業 魔法騎士 


騎士団長 サガ

体力 1200

攻撃力 1000

守備力 600

魔力 420

脚力 120


スキル 斬撃 炎熱付与 鑑定 気配察知 熱治 熱察知 熱耐性





武器庫に行く際に出会った兵士にはないステータス。おそらく人類の最高峰にも匹敵するのではないか。


冒険者のような独自の道を行くものとは違い、騎士として愚直に鍛えてきたのだろう。


そして、あからさまな隙に動じる自分を倒そうとしたのだろう。この世界に生きる歴戦の戦士。王様の護衛的存在。そこらの兵士とは格が違う。


斬撃に炎熱を付与し、地形を通じての炎熱効果。おそらく熱耐性を持っているからでここから場所を移さづしての長期戦をも有利にするつもりである。


いつのまにか、傷つけた左目は焼けたように黒くなっているが、熱治で傷をふさいだのだろう。これもまた長期戦をする体制を整えられたといえる。


そして、左目が機能していなかったにも関わらず、ある程度黒島の居場所を特定できていたのは二つの察知スキルによるものだろう。


つまりは、同色化はもとより、目つぶしも大した有効打とはならなかったのだ。


黒島は敵対したことを悔やみながらも騎士団長と攻防を続ける。


しかし、それも長くは続かず、ついに黒島の攻撃が宙を振り、その隙を存分に使った確実な振り下ろしが黒島に迫る。


黒島は一瞬死んだと思った。しかし、血が流れているような感覚もない。


攻撃すらかなわなかった黒島と騎士団長の前に一つの影があった。


それを見て、黒島は信じられないといった顔をした。


そこには、今でも鮮明に覚えているこの世界に来たときからして、最初の犠牲者、勇者といわれ名高き故人、初めて命を奪った相手である白島優希の姿があった。





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