何か景気のいい話、無い?
「なあ、何か景気のいい話ってないか?」
「景気のいい話?」
「そう、なんかさ、デフレだとか、消費税増税とか、店が潰れたとか、そんなんばっかりでさ。未来が明るくなるニュースとか無い?」
「あるにはあるけど」
「お? なになに?」
「東京オリンピックでテロでも起きれば、世界経済は低迷から脱却できるかも」
「いや! ちょ! いきなりテロとかって!」
「君が言い出したんだけど。デフレって日本だけの話じゃ無いんだ。大量生産で市場に物があふれ、需要と供給のバランスが崩れる。生産過剰がデフレの原因のひとつ。だから輸出の多い中国が退場すれば、世界経済は建て直せるという話がある。中国とアメリカがギスギスするのもそういうこと」
「貿易で揉めてるのはニュースで聞いたことあるけど」
「日本と韓国が退場すれば世界経済は活気を取り戻す、という話もある。だから東京オリンピックで爆弾テロでも起きて、国家間がギスギスして輸出大国の輸出を制限できれば、目先のデフレは解決する。それもあって日本と韓国の緊張が高まると、他所の国に都合が良かったりね」
「いやいや、それ、日本の景気は良くならないし」
「日本と韓国が犠牲になれば世界経済は景気が良くなるよ。マネーゲームは巨大なイス取りゲームでもあるんだから」
「そんな理由で日本と韓国はヤバくなってんの?」
「なんだか第二次世界大戦前に似てるよね。今の韓国がかつての日本で、今の日本はかつてのアメリカ。韓国を追い込んで、これで日本が韓国にハルノートでも突き付けたなら、韓国は日本に真珠湾攻撃みたいなことするのかな?」
「そんなことしたら戦争になっちまうだろ」
「なったらなったで、アメリカは日本に戦闘機とか防衛装備が輸出できる。中国とロシアが韓国に輸出を増やして利益を出せるかな? 戦争景気で景気は良くなるよ」
「日本と韓国以外はな。それ日本の景気は良くならないし」
「かつてベトナム戦争のいざなぎ景気で日本は稼いだわけで、今度は日本の番になるのかな?」
「そういうのじゃ無くて、日本の景気が良くなる話は無いのか?」
「日本の景気が良くなる話、ね。製造技術を売りにする日本で、日本の景気が良くなるというのは、日本製品が世界で人気が出て良く売れる、という話かな?」
「そうそう、そういうのがいい」
「片方の利益は片方の不利益だったりもするのだけど。日本の産業が活発に、というのもあるにはある」
「お、どんなの?」
「世界中でテロリストや武装勢力が活発になると、日本車は世界で売れるよ」
「またテロか! なんでだ!?」
「主に中東だけど、武装勢力に日本車って人気あるんだよね。日本の自動車は丈夫でいい、と大人気だ。テクニカルとして利用されてる」
「テクニカルって?」
「民間の軽車両の荷台に、重機関銃や無反動砲とか搭載した改造車両のこと。途上国の軍隊や武装集団が使ってる。日本製のピックアップトラックは戦闘改造車両としてよく使われているよ。『日本車 テクニカル』で調べるといろいろ出てくる」
「日本って、武器輸出は禁止だろ?」
「自動車は武器じゃないし。日本車メーカーもテロリストに販売はしていない、って言ってる」
「そうだよ。日本がそんなテロリストに支援したりとか、するわけ無い」
「だけど、間に入るディーラーや転売業者までどうにかできるわけじゃ無いから。それで中東の過激派組織ISが数百台ものトヨタ製四輪駆動車を使用していたりとかね。米政府がトヨタに対し、ISがどういう経路で車を入手しているのか説明するよう求めたりとかしたり。なんせ、ISが公開している映像で出てくる改造戦闘車両はトヨタのハイラックスとランドクルーザーばっかりだ」
「でもそれは、テロリストだけじゃ無くて、中東の普通の人達にも日本車が人気だからだろ? 現地で日本車が多く使われているから、結果的にテロリストにも入手しやすい、ってことなんじゃ? 日本の自動車メーカーがテロリスト支援なんてするわけ無いし」
「そんなことしてたら企業イメージが落ちるからね。中東ではもともと日本車人気が高く、ハイラックスは民間でも丈夫で長持ちと広まっている。だから交換部品も入手しやすいんだ。日本車を利用してるのはテロリストだけじゃ無い」
「そうだろそうだろ。日本は武器輸出三原則の平和国家なんだから」
「1987年のチャド内戦では、政府軍はトヨタ製ピックアップトラックに機関砲や対戦車ミサイルを搭載して運用して、かなりの戦果を挙げた。反政府側の組織もトヨタ製の車両を使用して、トヨタのロゴの入った自動車の荷台に搭載した兵器でバンバン撃ち合いしたわけだ。それでアメリカのタイム誌がこの内戦を『Toyota War』と呼んだりね」
「いやでも、それ、トヨタは悪く無いだろ。使ってる奴らがおかしいだけで。そんな使われ方をしてトヨタのせいにされたら、トヨタが可哀想じゃないか」
「君の言うことも正しい。だけど、世界の武装勢力に日本車が人気があるのも事実なんだ。テロリストが潤沢な資金を得れば、世界で日本車の売り上げも上がるんだ」
「金は天下の回りもの、かもしれないけどさ」
「日本はこれから輸出を増やすために、世界に武器を輸出しようとしてる。武器じゃなくて防衛装備と名称を変えてるから、武器輸出三原則には引っ掛からない、とね。こういうのも日本の製品が世界の武装勢力に人気があることが背景にある。世界中でドンパチが増えてくれると、日本は武器輸出も増えて景気は良くなる、ということになる」
「それは、本当に景気のいい話なのか?」
「景気の良さと国民の幸福度は比例しないよ。世界幸福度ランキングで見ると、2019年、経済大国1位のアメリカは19位。経済大国2位の中国は幸福度ランキングで93位だ」
「そのランキング、日本は?」
「日本は58位。GDPでは世界3位だけどね」
「その幸福度ランキングって、取ってるデータがおかしいんじゃないか?」
「その文句は国連に言って欲しいところだけど、じゃあ日本国内の幸福度ランキングでいってみようか。ブランド総合研究所が47都道府県の住民へのアンケートでわかった『都道府県幸福度ランキング』1位は宮崎県で2位は熊本県。東京都は下から3番目の45位」
「なんで東京都が低いんだ?」
「モノに恵まれ、交通の便も良く、年収の高い人が多いからって人は幸せでは無いということらしい。日本は世界3位の経済大国になって貧富の差は拡大。子供の7人に1人が貧しい日本。こども食堂が増えて、結婚する余裕も無いと少子高齢化に人口減少」
「いや、景気が良かった頃はそうじゃ無かったろうに」
「あの頃をもう一度、と景気を良くしようと頑張るほどに、日本は幸福度ランキングが落ちているんだけど。2016年は53位だったんだ」
「いや、でも、景気が良くなればみんな豊かで幸せになれるんじゃないか?」
「福島の原発事故でも、原発バブルで景気の良くなった業界があるよ。誰かが不幸になれば景気が良くなることもある。消費が増えれば景気が良くなる、というなら日本国内で麻薬や拳銃でも売ればいい。不幸になる人が増える代わりに、ビジネスとして活気づいて景気は良くなる」
「そういう違法で未来が暗くなるようなのはヤだ。ディストピアじゃないか」
「未来が明るいと信じられるのも幸福かな? それでアメリカでは資本主義プラス民主主義から社会主義プラス民主主義に変えていこう、という人達が増えている。中国でも経済的な豊かさの次は精神的な豊かさを求める政策に変わりつつある。文化大革命で破壊された寺や仏像の再建を政府が支援したりね」
「なんでそんなことに?」
「経済的な成功は必ずしも幸福とは限らない。さっき君の言った幸福度ランキングのデータの取り方と基準がおかしい、というのも一理ある。ちょっと北欧の国々に有利な統計の取り方なんじゃないか? という見方もあるわけだ」
「どういうことだ?」
「数字の取り方、その見方の違いということ。景気の良さと国民の幸福度は必ずしも比例はしない。例えば、国内の生産物で自国の国民が賄えるなら、輸出にも輸入にも頼らなくて済む。これでGDP、国内総生産の数字は低くなるけれど、GNH、国民総幸福量は高くなる。景気が良くなくとも幸福に暮らせることになる。逆に輸出入に頼らないとやっていけない国はGDPは高くなるが、GNHは低くなる。景気は良くともそこで暮らす人達は不幸だ」
「それが、日本の中で東京都が下から3番目に不幸な人達の住む街って理由なのか?」
「GDPを増やすなら、ボケた老人を騙して赤字になる証券を売りつけて、企業が倒産しないようにするのもひとつの方法だよ。不幸になる人を増やすことで国内総生産は増えるから」
「それ、オレオレ詐欺と変わらないだろ」
「ちなみに世界幸福度ランキングにおいて、日本は『平均健康寿命』では156カ国中2位なのに、『他者への寛大さ』においては92位なんだよね。情報弱者が騙されることも自己責任の範疇なんて言うのは、人に厳しいよね」
「なんだか、景気が悪い方が人は幸福みたいに思えてきた」
「景気に左右されずに生きていける手段が、幸福度に繋がるのかもね」
「じゃあ、これから日本が景気が良くなるとしたら、武器輸出で?」
「そうなるだろうね。そして東京オリンピックでテロでも起きれば、不幸になる人達は増えるだろう。代わりに景気は良くなるかもしれないね」