3話 交易をしてみよう。
翌日、貝殻を加工して作った装飾品を草木を編んで作った鞄に入れて、アマミと出会った場所へと向かうと既にアマミはその場所で待っていた。
「慢,到什么时候使之等候」
(遅い、いつまで待たせるのよ)
多分、遅いとか言っているんだろうな。
「मैं माफी चाहता हूं, मैं तुंहें एक अच्छी बात ले आया, तो मुझे माफ कर दो 」
(すまない、良い物を持って来たから機嫌を直してくれ)
言葉は通じないだろうが、表情や声の抑揚などで大体の情報は通じると思い謝罪の言葉を口にした。アマミも口で言う程怒ってはいなかったようで、おれの持って来た物に目を輝かせる。アマミは本当に表情が豊だ見ていても飽きないな。
「是什么没看着」
(何みてんのよ)
「नहीं, मैंने सोचा था कि तुम सुंदर थे 」
(いや、綺麗だなと思ってな)
「说着什么愚蠢的事,赶快交换交易品」
(なっ…… 何バカな事言っているのよ、さっさと交易品を交換するわよ)
やばっ、言葉が伝わらないと考えて思ったままを口にしてしまった。どうやら言いたい事が伝わったらしい。アマミは顔を真っ赤にして怒ったような口調で何かを言った。嫌われたんじゃ無いよな、無いと信じたい。
アマミが持って来たのは土で出来た器か? 土にしてはやけに固いが、まさか石をくり抜いたんじゃないだろうな。使い方は俺達が木をくり抜いて作る物と一緒だが、アマミが身振り手振りで伝える事を推測すると火にかけても大丈夫な様だ。
俺は持って来た装飾品の使い方を教えるべくアマミに身につけさせる。
肌が触れ合う程に近づくと不思議な香りがして、頭がどうにかなりそうだった。
押し倒したくなる衝動をぐっと堪えて首飾りを掛け距離を取った。
不自然に見えない様に手を顎に当て、全体像を眺めるフリをした。
「怎样? 相称?」
(どうかな? 似合うかしら?)
「हां, यह एक देवी की तरह है 」
(ああ、まるで地上に舞い降りた女神の様だ)
「嘿,我掌握着当然」
(まあ、私が見に付けているから当然よね)
相変わらず言葉は通じなかったが、まんざらではなさそうだ。
そんな会話をしているとアマミのお腹がくぅと可愛らしい音をたてた。
「这个,那个肚子的情形坏,是另外不是肚子饿的」
(こっ…… これはお腹の調子が悪いのよ。別にお腹がすいた訳じゃ無いんだからね)
ああ、昨日貝殻を見せたから食い物を持ってくると思ったのか、これは悪い事をした魚でも捕まえて食わせやろう。銛を持って来るのを忘れた俺はアマミに弓矢を借り海に飛び込んだ。そして岩場の隙間に潜んだ魚を突いて海面から顔を出すと、アマミは信じられない物を見た様な顔をしていた。
「是那样的大的鱼在海的」
(海にそんなに大きな魚が居たのね)
アマミは海に大きな魚が居るのを知らないのか?
陸から目視できる範囲だと川魚より小さい魚しか居ないからな。
お腹を空かせているアマミのために早い所調理してやろう。落ちていた石で魚の鱗を取って居ると、アマミは持ってきた器に水を汲み沸かし始めていた。俺達とアマミ達では魚の喰い方が違うのだろうか? 俺達は木に刺して焼くだけだったが、面白そうだったので調理はアマミにまかせよう。
調理をする必要の無くなった俺は、岩場で他に喰えそうな貝や蟹などを探して一緒に調理してもらおうと考えた。岩場には蟹の他にアワビなどが張り付いて居たので捕まえて見る。蛸も居たが墨を吐かれて逃げられてしまった。
「其他也是取的,说睡一起煮」
(他にも取って来たのね、いいわ一緒に煮てあげるわ)
アマミは器を指さしここに入れろと合図する。
「に?」
「煮る」
どうやらこの調理法は煮ると言うらしい。暫くすると出来上がった様なので、アマミの持って来た小振りの器で中を掬い食べて見ると、見た目はともかく味は凄く良かった。
「唉呀,海的鱼中々也能行」
(あら、海の魚も中々いけるわね)
「ओह, मैं हैरान हूं यह बहुत स्वादिष्ट है 」
(ああ、これ程旨いとは驚きだな)
今回の交流は俺にとって有益な物となった。貝の装飾品がアマミの部族が喜んでくれるなら南の島に住む親戚の部族に頼んで貝製品を量産するのも有りだな。アマミの持ってきた器は便利なのできっと皆喜ぶだろう。
――アマミ視点
山の神の神託を受けて南東の方角に向った所で会ったシネリは、不思議な雰囲気を持っていたわ。人が良さそうと言うか話し掛けやすかったのよ。少しばかり交流を持って見た所、彼は私達の知らない事を沢山しって居る様で、神託は半信半疑だったけど彼らはきっと私達に良い事をもたらしてくれると予感したわ。
「巫女様、あれほど一人歩きは止めて下さいと言ったのに、また一人で出歩いて何かが有ったらどうするのですか」
「爺やは心配性ね、私の狩りの腕は知ってるでしょ。熊が出ても仕留めて見せるわ」
「何故あの母親から、このようなお転婆娘が生まれてしまったのか」
「あ~ うるさい、それより爺やこれを見なさい」
シネリに貰った貝殻で作った装飾品を見せると、爺やは目を丸くして驚いていた。
艶の有る綺麗な貝殻は、今まで見たどんな石より美しく見る物を引き付ける物が有った。
「これは見たことも無い綺麗な石ですな、もしかしたら山に住む部族の毛皮と交換出来そうですな」
「噂に名高い、遥か北に有る黒曜石とも交換できるかもしれないわ」
「なんと、霧島に住む部族の村長が持っている物と同じ物が我々の集落に?」
「そうよ、シネリの部族は私達の知らない物をいっぱい知っているわ。きっと私達に繁栄をもたらしてくれるはずよ」
「それでは大々的にお礼をせねばなりませぬな、土器で良いならいくらでも作りましょう」
確かに今回シネリに貰った物と土器じゃ割に合わないわ、沢山の土器を運ぶのには人手が居るわね。本格的に交流するためにも何人か人を連れてシネリの集落に出向く必要が有りそうね。
――シネリ視点
俺はアマミに貰った土器で魚を煮て集落の人達に振舞って見た。
「コイツは色んな味が混じり合って旨いな」
「おい、ハマグリや浅利を入れると味が増したぞ」
「本当だ普通に焼くより旨いな」
「なあ、シネリこんな良い物を貰ったら今回持っていった装飾品じゃ足らないんじゃないか?」
確かに拾った物を加工したものだからな。この石を加工したと思われる物を作る労力を考えると割に合わないかもしれないな。
場所は鹿児島県指宿市を想定しています。遺跡を調べると種子島から太平洋側に有る大隅半島との交易ぽいのですが、特筆すべき特徴が無いので指宿市にしました。今は跡形も無くなっていますが池田湖の上に山が有った時代に山の神を信奉する集団がアマミの一族ですね。桜島の周辺に日本最古の村が有る事から火山信仰は有ったと思われます。
主な交易品は史実でも貝殻の加工品と土器だったようです。