M−6:『……私の居場所』
10年前・・・
「ちっ・・・リベレイターめ、もう嗅ぎ付けて来たか」
眼鏡を掛けた男性はパソコンを操作しながら舌打ちする。
「・・・あなた」
ブロンドの髪を一つに束ねた女性はその男の傍にもたれ掛かる。
「もう時間がない!私は“これ”をミヤノに送る。お前はアキラを・・・」
男はパソコンのキーボードを叩き女性に言う。
女性は頷き部屋を出た。
「このデータをどうしてもあいつに・・・」
キーボードを叩いていると外から爆発音が響き渡った。
「くそ・・・」
男は外を気にせずキーボードを叩く。
そして、爆音は近づき屋敷の壁が破壊された。
壁の瓦礫は男の上に降った。
「ぐぁっ」
男は瓦礫に埋もれた。
眼鏡のレンズは割れ頭からは紅い血が額を伝い流れていた。
「・・・くっ」
男は最期の力を振り絞りキーボードを数回叩いた。
画面には『送信完了』という文字が映し出されていた。
男はそれを見てフッと笑い瞼を閉じた・・・
女性は少年を抱え走った。
少年は女性にしがみつく。
「大丈夫よ・・・大丈夫だから」
女性は少年のブラウンの髪を優しく撫でる。
「アキラ・・・」
女性は少年を抱え地下室のシェルターに向かった。
リベレイターのHEAはそれを見逃さず地下に向かう女性を追った。
女性は走り地下に着きシェルターの扉を開けた。
だが、その時追って来たHEAの槍が女性に向かって投げられた。
女性は少年を投げ入れ扉を閉めた。
「母さん・・・」
少年が扉の隙間から見えたのは黒い槍の朱く染まった尖端だった。それは少年の身体を貫いていた・・・
そして、その後ろには槍を投げた漆黒のHEAの姿が有った・・・それは朱い眼を光らし少年を見ているようだった・・・
扉は閉まるが少年は扉を叩いた。
「母さん!母さん!!」
少年は扉を叩き続ける。
シェルターは地下へと降りていく。
「うああああああああああああああああ・・・・・・!!!!」
少年の叫び声がシェルターの中を響き渡らせた・・・
「………イト……………」
誰かの声が聞こえる。
「……へ…ト……起……」
少女の声だろうか?
ヘイトは眼を開ける。そこにはミオの顔があった。
「・・・どうした?」
ヘイトはミオに問い掛け身体を起こす。
「……うなされてた…………」
ミオは立ち上がりコップを持ちそれに水を容れヘイトに渡した。
「・・・そうか」
ヘイトはコップを受け取りそれを飲む。
「………大丈夫…………?」
ミオは小首を傾げる。
「・・・あぁ」
ヘイトはコップを円テーブルに置きベットに座る。
「…………ん……………」
ミオはヘイトのベットの中に潜り、瞼を閉じた。
そして、スゥスゥという吐息を立て眠った。
「・・・子供だな」
ヘイトはミオの銀髪の前髪を撫で呟く。
「・・・そういえばもうミオと会ってから結構経つんだな・・・」
ヘイトは天井を見つめ、ミオとの出会いを思い出す・・・
* * *
5年前・・・
俺がヘイムダルのパイロットに決まったときだった。
俺に任務が与えられた。それは『生体兵器』の破壊の任務だった。
セツカさんは
「人のすることではない事を行っている奴らだ」
と言っていた。
俺には何の事だか分からなかったが地球に降りて活動を開始した。
援軍にゲルが数機いたが建物破壊ではなくデータの破壊なのであまり意味がなかった。
俺は建物に侵入し、目的のデータバンクに向かった。
中の構造はリンスの情報のお陰で迷う事はなかった。
時々、白衣を着た男性が通り掛かったが俺は背後に回り込みその男の後頭部を銃で撲り気絶させ、使われていなさそうな部屋にそいつを押し込んだ。
そして、目的地につくと俺はリンスの情報通りに扉のパスワードを押していく。
6桁の数字を俺は迷わず押していった。
そして、ピピッと音を立てて扉は開いた。
「・・・リンスの情報は本当に外さないな」
俺はリンスの情報に感謝しながらそこにあった、一台のパソコンに一枚のディスクを入れた。ウイルスだ。
作業は数分で終わった。
そして、部屋を出ようとした時・・・パンッという音が聞こえた。それと同時に俺の左肩に痛みが走った。左肩は朱く滲み血が零れ落ちていた。
(どういう事だ?何で俺が此処にいると分かったんだ?)
俺は壁に隠れながら銃を構え、覗きこむが人の影が無かった・・・
(何処だ・・・)
膠着時間が続く。
(くっ、こっちには時間が無い・・・後少しでHEAによる外からの攻撃が開始される)
俺は時間を考え壁から出て走った。そしてそれと同時にまた銃声が聞こえた。
俺はそれを気にせず走った。弾は俺の足、肩を掠める。俺は振り向き銃で牽制する。だが、それを躊躇ってしまった・・・
それは・・・そこにいたのはまだ幼い小さな少女だったからだ。
(な、何でこんな所に子供が?まさか、俺と同じで少年兵士なのか?)
俺は適当な部屋に入り身を隠した。少女の射撃が正確に俺に当たっていたからだ。身体中に痛みがはしる。俺は通信機でウィンロッドに通信を入れた。
『どうした?ボウズ』
「ハァ、ハァ、ヘイムダルを出撃させてくれ・・・ポイントは05地点だ」
『なっ?ヘイムダルはまだ・・・』
「頼んだぞ・・・」
俺は通信を切った。
そして立ち上がり部屋の明かりを付けた。
「!?なっ」
俺は回りの光景に驚いた。
セツカさんの『人のすることではない』と言う意味が此処で理解した。
そこは、カプセルの中に少年、少女がズラッと入っていた。
「・・・人体実験か・・・なら俺を襲って来たあの少女もまさか・・・」
俺は傷を止血しながら呟いた。
と、その時建物全体が揺れた。
「・・・始まったか」
どうやら外にいるゲル達の攻撃が開始されたようだ。ゲルには人は乗っておらず予めその時間に攻撃するようインプットされていた。
俺はそれを窓から覗きその光景を眺めた。
すると1機のゲリがゲルに攻撃を仕掛けて来た。
黒いゲリだった。黒いゲリは日本刀を奮いゲルを一刀両断する。
そして、次の敵へと向かいバーニアを蒸し接近した。
「・・・あの反応。恐らく此処の奴らの完成体といったところか・・・」
黒いゲリは次々に日本刀でゲルを切り伏せていく。
「まずいな・・・ゲルが全滅する」
と、その時1機のゲルが俺の要る部屋の壁を突き破って来た。
「・・・来たか」
ゲルは自動にコクピットハッチが開いた。
俺は迷わずそれに乗り込んだ。
シートに座りハッチを閉める。
そして、ディスプレイに掌を当てた。するとディスプレイに『MYTHOS-HEIMDALL』と映し出され回りに外の景色が映し出された。
それと同時にウィンロッドから通信が入って来た。
『ボウズ!お前の言われた通りにヘイムダルは送ったがまだフレームしか完成出来なかった・・・だから緊急にゲルの装甲を付けた。だが、性能はヘイムダルのそのままだ』
「・・・了解」
俺は通信を切りゲル装甲のヘイムダルを建物から抜き出した。
そして標的の黒いゲリの方を向かせる。
黒いゲリは調度最後のゲルを両断していた。
「ちっ、遅かったか」
俺は舌打ちしライフルを構えた。
向こうもそれに気付いたのか俺のほうを向いた。
俺はライフルを放った。
光りの粒子はゲリに向かっていく。
だが、ゲリはそれをステップさせ、回避させバーニアを使い俺に近づいて来た。
「まずい・・・奴の射程内に・・・」
「………死ね……………」
ゲリは日本刀を振り下ろす。
俺は咄嗟にサーベルを抜きそれを受け止めた。
ジジ・・・という音が鳴りながら鍔ぜり合う。
「・・・何だあの剣は!?粒子で焼き切れない?」
恐らく金属で出来ている思われる剣は粒子の熱で熔かされず形を保っていた。
「……リベレイター、敵……………」
ゲリはサーベルを弾き返しその隙を付きヘイムダルの腹部を蹴り飛ばした。
「・・・くっ」
俺は体制を立て直そうとしたがゲリはその時間を与えず浚に追撃を加えようとしていた。
「・・・チッ」
俺は持っていたライフルをゲリに向けて投げた。
ゲリはそれを斬りライフルは爆発した。
「……………………!?」
俺はその隙を付きサーベルを浚に抜きゲリに振り下ろした。
「………ぐっ………」
ゲリは日本刀でそれを受け止める。
(まったく、なんて反応を持っているんだ・・・普通の人間なら斬られてるぞ・・・)
俺はその反応速度に感服しながらも力を緩めずサーベルを振り下ろす。
サーベルは2本共日本刀の一点に集中させたのが良かったのか日本刀は熱に耐え切れず折れた。
そして勢いは削がれたもののそのままゲリを斬った。
「………うっ…………」
ゲリはコクピット回りをスパークさせながら地面に激突した。
そしてカメラアイの光りも機能を停止させたのかその光りは失った。
俺は倒れたゲリの斬られて隙間が出来た所をアップさせて覗いた。
「あれは・・・」
そこに座って気を失っていたパイロットは俺を撃った少女だった。
「・・・」
俺はそのゲリを抱えてこの地を離れた。
* * *
俺は少女を持ち帰り宇宙へと帰り艦『ヴォルヴァ』の医務室にいた。少女は頭を打ったらしく額から血が出ていたので医師のアンさんに手当をしてもらった。
「まったく、有り得ないわよ?敵兵を連れてくるなんて・・・まぁ、いいけどさ」
アンさんは呆れながら言った。
「じゃぁ私はセツカに報告しに行くから後は頼んだわ」
そう言ってアンさんは部屋を出ていってしまった。
アンさんが出て行き少しすると少女は目を覚ました。
「……ん……」
少女は頭を押さえゆっくりと身体を起こした。
「・・・目が覚めたか」
俺は椅子に座り少女を見る。
「………死んでない…………?」
それは誰に言っているのかは分からなかったが俺は
「お前は死んでない」
と、答えた。
すると少女は
「………なんで………?」
と、聞き返した。
「さぁな」
「………死にたい…今…辛いから…」
少女は単語を一つずつ呟く。それも消えてしまいそうな声で。
「じゃぁ、その命がいらないのなら俺の為に使え」
俺は彼女の力が必要だと感じた。彼女は俺に必要なのかもしれないと。
「……敵…なのに………?」
少女は首を傾げ呟く。
「・・・お前は俺に似ているんだ」
「……似ている……………?」
少女は浚に首を傾げる。
「俺もお前も一人だ。そして自分の要るべき場所を知らず今を生きている・・・」
「……居場所………私にも……無い……」
少女は少し俯いた。
「だから、無い者同士一緒に捜さないか?」
もしかすると俺はこの少女の事を好きになってしまったのかもしれない。最初に会った銀色の髪が幻想的で可憐な少女に。
「……名前……………」
少女は俺の顔を見つめ聞く。
「ヘイトだ。ヘイト・ディスター」
「……私…ミオ(30号)……」
「よろしくな」
俺はミオに握手を求める。
ミオは戸惑いながらも手を握り返してくれた。彼女の華奢な手からは温かい熱を持っていた。
(……私の居場所…見つける……必ず……)
ミオの生きる理由が出来た。
そして、俺には初めて守りたいモノが出来た・・・
戦場での闘いの中で俺とミオは出会った・・・
機体説明
(特殊兵装機体)
ゲリ・MURAMASA
型式番号 LGX−00
頭頂高 17.0m
本体重量 5.8t
全備重量 6.0t
ジェネレーター出力
1000kw
スラスター総推力
30000kg
センサー有効半径
3000m
武装
MURAMASA×1
説明
超近接戦専用として開発されたHEA。武装がMURAMASAという刀一本という心持たないがこの刀は粒子兵器に耐え切れる強度を持つ。
強度も十分、敵機を切り裂く刃を持っている。従来では叩き潰す事しか出来なかった実体剣だがこの刀は装甲を切り裂く力がある。
機体の性能は従来のゲリと、殆ど変わりない。だが機体重量が減ったおかげか回避能力は向上している。
機体のカラーはブラック。(おそらくミオのパーソナルカラーだと思われる)
まだまだ謎の多い機体で機体ナンバーでは『LIBERATOR』、『GENIUS』の二つの型式番号を持っている。