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High-End-Arm  作者: 紅雫
11/11

M・FINAL:『“改めて”はじめまして』

−BH19年−

ある部屋からテレビの音が聞こえる。

『・・・リベレイターが滅び早くも2年の月日が流れました。我々地球国家は二度とあのような出来事が起こらぬよう日々・・・』

若い女性の声がテレビから聞こえる。

部屋の壁にもたれ掛かる一人の男がいた。

男は顔に狐のような仮面をつけ表情隠している。

「テレビを見ないでほったらかしにするのは感心しませんよ?」

一人の少女が部屋に入って来て男に注意をする。そして

「テレビオフ」と呟きテレビの電源を切った。少女の長い漆黒の髪が靡く。

「・・・」

男は何も答えず少女に歩みより少女が入って来た扉を開ける。

「相変わらず無言なんですね?まぁ、良いですけど?」

少女はデスクまで歩きパソコンの電源を入れた。

「・・・行ってくる」

男はその一言を言った後部屋を出ていった。

「・・・まったく、折角拾った命なのにまた戦うのね・・・」

少女、スズカはため息を吐き呆れながらキーボードを打つ・・・




−BH17年−


ヘイトはミオの横に座りミオの額に巻かれている包帯を摩る。

「ミオ・・・」

ヘイトはミオの前髪を撫で瞳を閉じ立ち上がる。

「行ってくる・・・」

そう言い部屋を出ていった・・・

「ジン・・・?」

部屋を出て直ぐそこにジンが待っていた。

ジンは何も言わずヘイトの頬を殴った。

「・・・ッ!」

「ヘイト・・・お前、分かっているのか?」

ジンはヘイトの胸倉を掴む。

「・・・何を?」

ジンはさらにヘイトの頬を殴る。

ヘイトはその勢いで壁にぶつかる。

「ミオはな、お前の自分勝手の行いで怪我をしたんだ!!」

「・・・」

(わかっている・・・分かっているさ)

ヘイトは壁にもたれながらジンを見る。

「お前個人の事であの娘を巻き込んだんだ!!」

「・・・」

「お前は今私怨で動いていないだろ?もう一度考えろ!!」

ジンは叫びヘイトの横を通り過ぎその場を後にした。

「・・・クッ!」

ヘイトは壁を殴り俯く。

「わかっている・・・分かっているんだ・・・俺の憎しみは後にし、冷静に判断すれば対処出来た事なんだ・・・なのに、なのに俺は・・・」

ヘイトは壁にもたれながらHEAデッキへと足を引きずるように歩き出した。



「ジン?何処に行ってたの?持ち場を離れないで!」

セツカは今入って来たジンに注意する。

「あぁ、ちょっとミオの様子をな?」

ジンはそう言い操縦舵の椅子に座り舵を握った。

「で?ミオの様子は?」

セツカは問う。やはり彼女も気になったからだ。

「アンの話しによるとまぁ出血が多かったらしいが命に別状はないようだ・・・だが、HEAに乗る事は出来ないらしい」

「そう・・・戦力はヘイムダルと、ヨルズのみか・・・」

セツカはディスプレイを見ながら呟く。

「で?そっちは?敵さんの状況は?」

「今のところは問題は無いわ・・・リンスが外で待機してくれてるから」

「そう・・・」

「ヘイムダル!!独断でカタパルトデッキに移動しました!!」

ジンが言う瞬間ユウキの声がジンの声を遮った。

「なに!?」

ジンは振り返りユウキを見た。

「直ぐに止めさせなさい!!」

セツカはユウキに命令する。

「駄目です!すでにコントロールがヘイムダルに移行しています!ハッチが開放されます!」

ユウキが言った後、ヘイムダルが発進した。

「あのバカッ!!私怨で動くなとあれほど言ったじゃねぇか!!」

ジンは半分呆れながら言う。

「リンス!彼を止めて!」

セツカはヨルズに通信を開く。

「駄目・・・」

リンスは小さく呟く。

「ヘイトさんは、彼を止めてはいけない・・・そんな気がするから・・・」

「そんな意味が分からない事を・・・」

「彼の好きにやらせましょう?それより私達はラグナレクを」

ヨルズはすでに高粒子砲装備に兵装を変えていた。

「・・・しかし」

「彼なら大丈夫です・・・必ず・・・」

リンスはもう見えない飛び去った彼を見つめていた。



「決着を着ける!!貴様とッ!!」

ヘイムダルはサーベルを腰部から抜きオーディンに切り掛かった。

「ハンッ!」

オーディンは槍、グングニルを抜き鍔ぜり合う。

バチチッ!!と閃光が走りお互いの機体を包む。

「もう誰も止められはしないんだよ?誰もなァ!!」

オーディンはヘイムダルのサーベルを弾き粒子の刃を発生させた脚でヘイムダルを蹴る。

ヘイムダルはシールドを構えそれを受け止める。

そして後退し、ライフルに持ち替えオーディンに放つ。

オーディンはそれを避け、マニピュレーター粒子砲を撃つ。ヘイムダルは避け、避け切れない粒子をシールドで受け止めた。

「ラグナレクは間もなく放たれる!!そして人は一瞬で死に絶える!!一瞬になァ!!」

「そんな事、お前の思い通りなどになってたまるか!!」

ヘイトは叫びヘイムダルのサーベルを抜き切り掛かる。

だがそれは空を切る。

「ハッ!ありゃぁ、俺がやっているんじゃねぇよ!」

オーディンはマニピュレーター粒子砲を撃つ。

それはヘイムダルのライトレッグに命中し、ヘイムダルのライトレッグは爆発した。

「なに!?」

ヘイムダルは体制を立て直す。

「あれは俺のクライアントが考えた事だ!俺には関係ねぇんだよ!」

オーディンはグングニルを構え、ヘイムダルに切り掛かった・・・


 * * *


(な、に?この息が詰まる感じは?)

ミオはゆっくりと眼を開ける。

「此処は?」

ミオは身体を起こし辺りを見渡す。

「……ッ!」

突然の痛みで額の包帯を押さえた。

「ミオ!!眼が覚めたの?」

医師のアンがそれに気付きミオの肩を支えた。

「行かなきゃ……」

「え?」

ミオは立ち上がりフラフラと歩き出した。

「ちょっとミオ!待ちなさい!」

アンが急ぎミオの肩を掴み止める。

ミオはその手を払いのけ部屋の扉を開ける。

「アンさん、ごめんなさい………」

ミオはアンの腹部を殴り気絶させた。

そして部屋を出て扉にロックをかけた。

「急がなければ……」

ミオはそのままHEAデッキに向かった。

幸い向かっている途中誰とも会わなかったがHEAデッキにいたウィンロッドと会ってしまった。

「ミオ!?お前大丈夫なのか!?」

ミオの事について知らないウィンロッドはミオが命に別状は無くても安静にしなければならない事を知らない。

「えぇ、もう大丈夫です……それよりノートの状態は?」

「応急処置は一様済んだからな・・・直ぐにも出せるぞ!」

「そうですか……」

ミオはノートのコクピットを開けシステムを起動させる。

「ウィンさん、離れて下さい出します……」

ミオはノートのコクピットハッチを閉めウィンロッドに言った。

「ユグドラシル安定領域に到達……システムオールグリーン」

ミオはカタパルトデッキに向かわず後部デッキに移動する。

「おい!ミオ!!お前怪我が酷いんじゃないか!!」

ウィンロッドはやっとミオの怪我の事をユウキに聞きノートを止める。

「離れて下さい!ハッチを壊して出ます…」

ノートはライフルを放ち後部ハッチを破壊した。

後部ハッチの穴からは空気が抜けていく。ノートはその穴を潜り宇宙へと飛び出した。

「どわわわ!!」

ウィンロッドは直ぐに破壊された後部ハッチを封鎖さした。

「おい!ミオが出たぞ!!あいつハッチを破壊していきやがった!」

ウィンロッドは叫びながらセツカに説明する。

「なんですって!?」

「クッ!ミオの奴無茶苦茶だ・・・たくっ」

ウィンロッドは頭を掻きながらため息を吐いた。

「セツカさん!ポイントに到達しました」

リンスからの通信がセツカに入った。

「もう、ミオの事は後で何とかしましょう・・・リンス?じゃぁ今からラグナレクの破壊を開始して!」

「セツカさん!敵機を数十機確認しました!こちらに向かって来ています!」

ユウキはディスプレイに映る敵機を発見し、叫ぶ。

「やっぱり、来るようね・・・リンス急いで!」

「敵機体照合・・・これはラーズグリーズです!」

「ラーズグリーズが数十機か・・・・少しきついわね」


ヨルズはラグナレクの装甲に向かって粒子を撃つ。だが、その装甲が厚く直ぐには破壊出来る代物ではなかった。

「まったく、なんて物を造ったのよ!!私は!!」

リンスは自分にいらつきながらもヨルズの粒子砲を放った。

敵機ラーズグリーズはもう眼の前迄来ようとしていた・・・


ミオはノートのスピードを上げある場所に向かっていた。

「この辺りね……この違和感の根源は」

ミオは回りを見渡す。そして何かに気付きライフルを放った。

ライフルの粒子は何かに弾かれ消える。

「ほぅ、私の存在に気付くとは・・・」

突然漆黒の宇宙から黄金の翼、装甲を持つHEAが現れた。

そのHEAはミュトスのような形をしていた。

「貴方ね?この違和感は……」

ミオはライフルを構える。

「まったく、驚かせてばかりだな?そのような事までもが分かるのか?」

若い男の声がミオに問う。

「……確かに、以前の私には分からなかったでしょうね。でも先刻の怪我のお陰で私の“止まっていた時間”が再び動き出し以前の力を取り戻したわ」

ノートはライフルを放つ。だが、黄金のミュトスはマニピュレーターで防いだ。

「止まっていた時間?・・・ふふふ、ハハハッそうか・・君は過去の産物“アーティファクター”か?」

黄金のミュトスのマニピュレータから黄金の粒子の刃が現れた。

「・・・ならば君には消えてもらわなければ!君はすでに必要無い存在だ!」

黄金の刃がノートに襲い掛かる。

「……貴方もよッ!!」

ノートはサーベルに持ち替え黄金の刃と鍔ぜり合いをする。

 * * *


オーディンとヘイムダルは鍔ぜり合う。

すでにヘイムダルはライトアームを失い残りのレフトアームでサーベルを握りオーディンと戦っていた。

「ハハハッ!!愉しいよなァ!!小僧!!人はやはり戦っている今こそ充実した時間を送っているんだァ!!」

オーディンはグングニルを振りヘイムダルは弾き飛ばされた。

ヘイムダルは直ぐに体制を立て直す。その瞬間オーディンはグングニルでヘイムダルを突く。「・・・ッ!」

ヘイムダルはそれを避けようと回避行動を取るが間に合わず左腰部を掠めた。左腰部の装甲は剥がれ落ち内部があらわになりそこからスパークが走った。

「さぁ、もっと俺を愉しませて見せろよ!!」

オーディンはグングニルを振り下ろした。

「俺は貴様とは違うんだ!!」

ヘイムダルはシールドを構えたがグングニルの刃が食い込み、スパークを放ちながら熔解し、切られた。

「・・・クゥッ!」

ヘイムダルはサーベルでオーディンに切り掛かる。

「一緒じゃねぇか!!俺もテメェも変わらねぇんだよ!!好きじゃ無ければテメェは戦場にはいねぇんだよ!!」

オーディンはそれを右に避けその後グングニルがヘイムダルの頭部を左部分を掠めた。ヘイムダルの頭部は左部分、装甲が剥がれレフトアイは割れ鈍く紅い光りを放つ。

「確かに・・・だが、やらなければならなかったんだ!」

ヘイムダルはラグナレクシステムを発動し機体全体をユグドラシルの光りで包み込んだ。

「俺は戦いが怖い!だが戦いからでしか俺の答えが導き出せなかったんだ!!」ヘイムダルは紅い刃のサーベルを振り下ろした。

それはオーディンの右腕を切り落とした。

「戦いが怖いだぁ?今更何を言ってやがる!!テメェも俺と同じで人を沢山殺してるじゃぁねぇか!今更何をほざくッ!」

オーディンはグングニルを構えヘイムダルに向かって付いた。

だがヘイムダルは避けオーディンのレフトショルダーアーマーを貫き破壊した。

「俺もお前も同じ人殺しなんだよッ!」

オーディンは脚の粒子の刃でヘイムダルの胸部を切り裂く。

バチチッとスパークを起こしながらもヘイムダルは切り掛かる。

「俺には目的がある!だがお前にはそれがない!!!だから・・・俺はお前とは違うんだァ!!」

ヘイムダルはオーディンの頭部をサーベルで貫いた。オーディンの頭部は粒子の刃で貫かれ爆発した。

「戦いにそんなモノは必要じゃぁねぇんだよォ!!」

オーディンのグングニルがヘイムダルの胸部を貫いた。

バチチッとヘイムダルがスパークする。

「俺は・・・俺は負けない!!」

ヘイムダルはサーベルでオーディンの胸部を刺す。

「な、なにぃぃぃ!!」

ヘイムダルはその後爆発し、オーディンもそれに続き爆発した・・・



 * * *

「ヨルズ敵を一掃完了・・・」

ヨルズはラーズグリーズ全機を破壊した。が、ヨルズ自体もダメージが深くすでに両脚が失っていた。

「リンス!!その状態じゃ無理よ!一端帰還・・・」

セツカはヨルズに通信を入れるが。

「もう、時間がありません・・・すでにラグナレクのチャージが開始されています!このまま行きます」

ヨルズは戦闘中に開けたラグナレクの装甲を見る。

「無茶よ!今のヨルズじゃぁ自ら放つ余波で崩壊するわ!」

「でも、私がしなければ・・・私の性で関係の無い人達が死ぬのは嫌なんです・・・セツカ、離れといて!」

リンスはそう言った後ラグナレクの破壊した装甲から内部に侵入した。

「セツカ・・・後はリンスに任せよう・・・」

ジンは振り向き言う。

「そうですセツカさん。後はリンスちゃんがやってくれます」

ユウキもディスプレイを見るのをやめ言った。

「ヴォルヴァ後退する」

そう言いジンはラグナレクからヴォルヴァを後退させた。



「戦っていたヘイムダルがシグナルをロストした?・・・ヘイトさん」

リンスは唇を噛み締めヨルズを進ませる。

ヨルズはスピードを上げラグナレクの中心部に到達した。

そこには大きなユグドラシル鉱石が孔雀石の光りを放っていた。

「ユグドラシルはちょっとの攻撃では破壊出来ない・・・」

ヨルズは全ての粒子砲を展開させる。

「・・・ヨルズフルバースト!!」

ヨルズの五つの閃光がユグドラシル鉱石に命中した。

バチチッとヨルズの粒子とユグドラシルは反発し合った。そしてヨルズの肩部、腰部の装甲が余波で剥がれていく。だがユグドラシルの方も変化が起こった。ユグドラシルが少しずつひび割れてきたのだ。

「・・・クッ、頑張ってヨルズ・・・」

ヨルズの装甲は突然、孔雀石の光りに包まれた。

「・・・クッ!」

だが装甲の破壊は進んでいく・・・

ユグドラシル鉱石はひび割れていき砕けていく。

そして遂にヨルズの粒子がユグドラシル鉱石を破壊した。

それと共に爆発を起こし閃光はヨルズを包み込んだ・・・



「ラグナレク破壊を確認しました!」

「よっしゃ!!リンス、やりやがっか!」

ジンは振り返り叫んだ。

「ですが・・・ヨルズのシグナルをロスト・・・」

ユウキはディスプレイに映っていたヨルズの反応が消えたのを確認した。

そしてヘイムダルのシグナルもロストしている事も確認していた。

「お願い!!ヨルズの捜索を!リンスを・・・」

セツカはジンに叫ぶ。

「分かった・・・」

ジンは操縦舵を握りヴォルヴァを発進させた・・・



 * * *


ノートと黄金のミュトスは鍔ぜり合いを繰り返していた。

「・・・クッ、ラグナレクが破壊されたか」

ミュトスはマニピュレーターから粒子を放つ。

「……そう、リンスはやってくれたようね」

ミオはホッと溜息を漏らしながら迫り来る粒子を紙一重で避けていく。

「…どうやら失敗のようね?」

ノートはサーベルを抜きミュトスに切り掛かる。

「いや、まだだ・・・多少の誤差は起こったが世界は私の思う形に進んでいる」

ミュトスはマニピュレーターから刃を出現させノートと鍔ぜり合いを行う。

「……どういう事?」

ノートは左脚でミュトスの腰部を蹴った。

だがそれはミュトスのマニピュレーターに受け止められた。

「君が知るべき事ではないよ」

マニピュレーターから粒子が現れノートの左脚を破壊した。

「……クッ!」

ノートは後退し間合いを離れライフルを放つ。

「そろそろ終わりにしようか・・・」

ミュトスはそれを避けバックパックの黄金の翼を広げた。

「舞え・・・我が不死鳥よ」

黄金の翼から合計10枚の羽が飛びノートの回りを飛ぶ。

そしてそれは粒子を放ちノートを襲った。

「……遠隔兵器!?」

ノートは粒子の間を避けその羽にライフルを撃つ。

だが羽は避けさらにノートに攻撃を行う。

「……クッ」

ノートのライトショルダーアーマーに命中し、ショルダーアーマが破壊される。

「さぁ、幕引きだ・・・」

ミュトスは粒子の刃を出しノートに切り掛かる。

ノートはそれをサーベルで受け止め鍔ぜり合う。

「フッ、これで君は逃れなれない・・・」

「………クッ!!」

ノートの回りを羽が囲んだ。

そして羽は上、下、左、右からノートに向かい粒子の雨を降らした。

ノートの機体全てに命中し、ノートはスパークし爆発した・・・

「フッ、彼女もこの世界の犠牲者だが仕方あるまい・・・彼女の存在が私の計画を歪めるのだから・・・」

黄金のミュトスのパイロットはノートの破壊を確認し、あるところに通信を入れる。

「・・・ゼニウス最高司令官、レンブラム特佐に繋いで下さい。・・・あぁ、“L”と言えば分かると思いますよ?・・・あぁ、レンブラムさんですか?今、ラグナレクの破壊を確認しました。それと同時にリベレイターのHEAも全機沈黙しました・・・・・・えぇ、リベレイターは滅んだと考えて良いでしょう。・・・それでは自分はもう戻りますね?・・・ハイ、ミュトスも確認されたモノは破壊されました・・・」

パイロットの男は通信を切る。

「えぇ、ヘイムダル、ヨルズ、ノート、そしてオーディンは破壊されましたよ?レンブラムさん、ですがミュトスは他にもあるのですよ?」

男は笑みを零しヘルメットを脱ぐ。ヘルメットの下からは漆黒の長髪が現れた。

そして男は、黄金のミュトスを翔け漆黒の宇宙へと消えてしまった・・・


BH17年。十年に渡る長きにわたる戦争が終結を迎えた・・・

ラグナレクの崩壊と同時にリベレイターのHEAは全て機能を停止し、地球圏はようやく平和の時を取り戻す事に成功したのだ・・・


−エピローグ−


BH19年。


一人の狐の形をした仮面を着けた男が廊下を歩いていた。

男は屋敷の扉を開け、前で待っていた少年を見て驚く。

「・・・よう!遅かったな!“アキラ”!」

少年のバイオレット色の髪が風で靡く。

「リオウ・・・」

アキラと呼ばれた男、少年は溜息を吐く。

「なんだよ!そのリアクションは!?折角港まで送ってやろうと思ったの・・・てっ!?勝手に俺の愛車にのるなぁ!!」

アキラはリオウの言葉を無視しリオウの愛車、白のロードスターに乗り込む。

「送るんだろ?なら、急げよ?」

アキラは顎を使い言う。

「・・・テメェ、殺すぞ?」

リオウは眉をピクピクと動かしアキラを睨む。

「早く出せよ?」

「・・・そんな事言われても怒らないのが紳士ってもんだよな」

リオウはブツブツ呟きながら車に乗り込みハンドルを握り走らせた。


車は海岸線を走り波風が二人にかかる。

「で?どういう事なんだ?」

リオウはアキラに問う。

「折角拾った命、またお前は散らすのか?」

「さぁな・・・だが、俺にはこの平穏が合わないだけなのかもしれない・・・」

アキラの髪が波風に靡く。

「まだ、引きずってんのか?2年前の事を・・・」

「分からない・・・だが誰かが、何かが俺を呼んでいる・・・そんな気がするんだ・・・」

仮面の下の瞳は虚ろげに水平線を見つめていた。

リオウは溜息を吐きハンドルをきり、カーブを曲がる。

「ミオちゃんの事か?」

リオウの頭の中に長い銀髪を持つ少女の姿が通りすぎた。

「彼女だけだよな?生死がはっきりしていないのは・・・」

リオウは一応知っていた。

あの2年前の戦いでヨルズのパイロット、リンスは生き延びヘイムダルのパイロット、ヘイト・ディスターは表上の記録では戦死を確認されている。だが、ノートのパイロット、ミオはその機体ごと、行方をくらましていた。あの戦いを生き延びたのか・・・それとも発見されず宇宙を漂流しているのか・・・誰も知る術は持っていな今では分からない事だった。

「ミオは・・・もう良いんだ・・・もう吹っ切ったから」

アキラは以前顔を向けず水平線を見つめていた。

「フッ、ロリコンのくせに・・・カッコつけんなよ?」

リオウは馬鹿笑いをしながらアキラに言った。

「お前はマニアックだからな?この幼女フェチ・・・ブヘッ!!」

アキラは問答無用でリオウを殴った。

当然リオウの車は蛇がくねるような走り方をした。

「うおい!危ないだろ!俺の神がかった運転テクが無ければ事故ってたぞ!」

リオウは叫びながらもハンドルを握り車の体制を立て直した。

「彼女、24だぞ・・・」

アキラは小さく呟く。

「はぁ?」

リオウはアキラの言葉にクェッションマークを頭に浮かべ聞き返した。

「ミオの歳・・・」

「へぇ、ミオちゃんって24歳なんだ・・・・・・・・・・・・・・・ナニィィィィィ〜〜〜〜〜!!!!!!」

リオウの声が車から漏れる。

「アキラ!ふざけるのもいい加減にしろ!!あれのどこが24歳の身体なんだ!?色気の“い”すら感じられないぞ!?あの上から下までツルペッタン〜な身体が24歳ィィィ!?有り得ない有り得ない・・・ブヘッ!?」

アキラはまたしてもリオウを殴った。リオウの鼻からは鼻血が噴き出す。

そしてやっぱり必然的に車は蛇行運転・・・

「ア、アキラ・・・何故殴った?」

リオウは左手で鼻を押さえ右手でハンドルを握る。

「俺のミオをけなすな・・・」

「なに?あの娘は君の所有物ですか!?」

「いや、保護者だ・・・」

リオウはその言葉を聞きコケッと体制が傾いた。

「・・・もういいよ・・・お前と構っているの疲れたわ・・・」

リオウは少し猫背気味な体制で車を走らせた。

それ以降車の中で彼等が言葉を交わす事はなかった・・・



 * * *


フューチャー社のHEA製造施設のさらに下にウィンロッドの姿があった。

ウィンロッドはあるHEAの前に座り込み機体の整備を行っていた。

「世界が平和になってもやはりこいつらは必要なのか?」

「仕方ありませんよ?平和は維持するのも大変なのですから」

HEAのコクピットからリンスは顔を出し答える。

「そうですよ?父上・・・ヘイトさん達が命を懸けて手に入れた平和です。無くしては行けません」

ユウキは工具をウィンロッドに渡しながら言う。

「分かっているさ・・・だから“こいつら”が必要なんだろ?」

ウィンロッドは額の汗を腕で拭いそのHEAの頭部を見つめた。

「ミュトス・ヘルか・・・まったくスズカ嬢はこんなもん何処から持ってきたんだか・・・」

ウィンロッドはため息を吐きながら作業再開した。

新たなミュトスはその時を待つかのように眠っていた・・・



 * * *


「さぁ、着いたぞ?アキラ・・・」

リオウは車から降りた。

アキラもその後降りる。

港にはすでに空母が一隻停まっていた。

地球国家の空母だった。アキラは空母の前に立っていた男に近づく。

「ライング・トレイター特尉ですね?お待ちしてました。どうぞこちらへ・・・」

男は歩きだしアキラを案内する。今のアキラはライング・トレイターと名乗っていた。ヘイト・ディスターはすでに死んでいる事になっていたから彼には新たな名前が必要だったからだ。

「アキラ!」

リオウは歩きだそうとしたアキラを引き止める。

「また、会おうな?」

リオウはアキラに握手を求める。

「・・・そうだな、生きていたらな・・・」

アキラはリオウの手を握る。

「じゃぁ、行ってくる・・・」

「あぁ、行ってこい」

二人はお互いに背を向き歩きだす。




「こちらの部屋で待機していて下さい」

男はアキラを会議室のような所に待機するよう命じた。その部屋はアキラ以外誰もいなく、アキラは近くの椅子に座った。

「・・・地球国家か」

地球国家は1年前に出来た政府の組織である。目的は先刻のような争いを2度と起こさないようにするための組織らしい。

「そんな所からまさかスカウトがくるとはな・・・」

アキラは苦笑する。元犯罪者が今度は犯罪者達と戦う自分の人生の可笑しさに・・・

アキラが苦笑していると、扉が開き誰かが部屋に入って来た。

「・・・なっ!」

アキラは入って来た“少女”を見て驚きを隠せなかった。

「あら?此処にいたの?」

少女はクスッと笑い長い銀髪を靡かす。

「・・・!」

アキラは驚きにより言葉が出なかった。目の前に懐かしの彼女の姿が彼の瞳に映る・・・

「貴方からじゃ、はじめましてじゃないけど私からは、はじめましてなの・・・それじゃ、改めて“はじめまして”ニオよ」

そこにはミオと同じ容姿をした、少女がいた。

少女はアキラの顔を見てニコッと笑った・・・

運命の輪舞曲ロンドが今動き出したのだった・・・




……END【HIGH-END-ARM】

予定通り完結出来ました。一応前編という感じで終わらせていただきました。後編はまだわかりませんが投稿が出来次第投稿します。HEA御愛読ありがとうございました。  −紅雫−

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