M−9:『……弱音…吐かない…』
リオウは半壊したゲリをHEAデッキに収容する。
あれからリベレイターはヘイムダル達が宇宙に上がったのを確認し、撤退行動をとりこの中域を離れた。
「・・・」
リオウはハッチを開けリフターを使い地面に降りる。
「リオウ・・・」
リオウの前にレンカは立っていた。
リオウはそれを確認し、立ち止まる。そして・・・
「アッシュは戦死した・・・」
と、レンカの耳元で消え入りそうな声で呟きその場を後にした。
レンカはリオウの姿が消えた後地面にしゃがみ込みただ想う彼の名を叫んだ。
* * *
宇宙、漆黒の闇の中一つの蒼い戦艦はある場所を目指していた。
「じゃぁ、作戦を説明するわ・・・まず、ヘイムダルとノートで敵機を艦に近づけないようにして」
セツカは作戦を全員に説明する。
「そしてヨルズはヴォルヴァと共にラグナレクに向かうわ・・・そしてラグナレクの装甲を破壊し、ヨルズは内部に侵入・・・内部からラグナレクを破壊。戦力は少ないけど皆頑張って」
「あぁ・・・」
「……ん………」
「はい」
ヘイト、ミオ、リンスはそれぞれに答えた。
「じゃぁ、作戦開始は20分後よ・・・死なないでねみんな一緒に帰りましょう・・・」
セツカはそう言った後部屋を出て行った。
「それじゃぁ、行きますか?」
リンスは笑いながら明るく言う。
「……ん………」
「・・・あぁ」
ヘイトとミオはリンスの後を追い部屋を出た。
「おい!ヘイト待て」
突然ウィンロッドがヘイトを引き止める。
「ウィンさん?」
ヘイトは立ち止まりミオに先に行くよう言いウィンロッドを見る。
「どうしたんですか?いきなり・・・」
ウィンロッドはヘイトを見て笑みを零すしながら
「変わったな・・・お前も」
「何が、です?」
「少しだが明るくなったって所だ・・・お前さんは何時も仏教面していたからな?」
「・・・何もないなら行きますよ?ミオが待ってますから」
ヘイトは若干ふて腐れた顔をしながら言う。
「まぁ、待て。良いかヘイト・・・恐らくこの戦いで全てが決まると思っていい・・・世界の、人類の命はお前に懸かっているんだ!」
ウィンロッドはヘイトの両肩を掴み瞳を見つめる。
「分かってますよ・・・そんな事は前から」
ヘイトもウィンロッドを見る。
「・・・そうか、なら良いんだ」
ウィンロッドはヘイトを離しその場を立ち去る。
「あぁ、そうだった・・・ヘイムダルのラグナレクシステム。あれの使用は極力避けておけよ?」
ウィンロッドは背中を向けたまま言った。
「だが、あれは必要な力だ・・・恐らくこの戦いでも必要となる」
ヘイトは天井を見ながら答える。
「だろうな・・・だからヘイムダルには追加装甲を付けた・・・今までは機体がユグドラシルのエネルギーに耐え切れなかった。だから追加装甲を付け耐久力を上げた」
ウィンロッドはそう言い歩き出した。
「・・・ウィンさん」
「言っとくが気休めだぞ?あんまりあてにはするな」
そう言いウィンロッドは歩いて行ってしまった。
「・・・最期の戦うか」
そう呟きヘイトはミオ達の後を追った。
「ミュトス・ノートシステムオールグリーンです。カタパルトデッキに移動します」
ノートは左にスライドしカタパルトデッキに移動する。
「……………」
「カタパルト接続を確認しました!発進タイミングをノートに移行します」
ノートのレッグがカタパルトに接続した。それと同時にハッチが開放していく。
「……了解……ノート、行きます……」
ランプがレッドからブルーに変わりノートのカタパルトはスライドし、ノートは宇宙空間に飛び出した。
「ヘイムダル発進シークエンスを開始します」
ユウキはヘイムダルのシステムを確認して言う。
「了解した・・・ヘイムダル、システムオールグリーン」
ヘイムダルは左にスライドし、カタパルトデッキに移行する。
「カタパルト接続を確認!システムオールグリーンです!ヘイトさん発進どうぞ!」
「ヘイト・ディスター・・・ヘイムダル・ラグナレク発進する!」
ヘイトはグリップを前にスライドさせヘイムダルを宇宙空間に飛び出させた。
漆黒の闇の中一つの銀色の装甲を持つヘイムダルが飛び出す。
「ヨルズはヴォルヴァの上で待機していて下さい」
ユウキの通信がヨルズのコクピットに入る。
「分かったわ」
ヨルズはカタパルトに配送されず後部デッキから現れヴォルヴァの上に立ち待機した。
「ミオ・・・」
ヘイトはノートに通信を入れる。
「……ん……?」
ミオは首を傾げながら不思議そうにディスプレイに小さく映るヘイトの顔を見る。
「これが最期の戦いだ・・・生きろよ」
「……ん………」
ヘイトはその声を聞き通信をきる。
(そうだ・・・生きるんだ・・・そして帰ろう。俺達の、居場所に)
ヘイムダルはスピードを上げノートの前に出る。
(……生きる……前までは否定してたな…そんな事は…でも今は違う…帰る場所があるから……)
ミオはノートを戦闘機からHEA形態に変形させる。
そしてそれと同時に先の方で未確認物体の確認が捕れた。
「・・・ミオ!」
「………ん……」
それと共に数十機のHEAが確認されヘイムダル、ノートは武器を構えた。
「はぁぁぁぁ!!」
ヘイムダルは新たに装備された腕部の装甲にマウントされていた粒子サーベルを抜き向かって行き先攻するゲルを切り伏せた。
バチバチと機体はスパークし、ゲルは爆発する。
「…………」
ノートは粒子マシンガンを放ち向かってくるゲルを破壊する。
すると突然ノートのコクピット内に警報音が鳴り響く。
「……分かってる……」
ミオは呟き腰部に装備されている粒子サーベルを抜き逆手に持ち後ろに突き刺す。
背後にはサーベルで切り掛かろうとしていたラーズグリーズがいた。ラーズグリーズは胸部が貫かれスパークを放ち爆発する。
「……分かるから……」
ミオはサーベルを腰部に戻しマシンガンを構え直しゲルを撃ち抜いていく。
「ユウキ!敵機を取り付かせないようにして!」
セツカは叫びユウキに命令する。
「はい!粒子圧縮ミサイル発射します!」
ヴォルヴァに装備されたミサイルが敵機を捕らえ命中して破壊していく。
「ヴォルヴァ!このまま突き進む!!」
ジンは舵をにぎりしめヴォルヴァを前進させる。
「ヘイムダル達が今敵機と交戦しているからこのC07のルートが手薄よ」
セツカはディスプレイを確認し状況把握を続ける。
「へぇ、中々やるじゃないセツカさん・・・よっと!」
リンスは近づいてくるラーズグリーズをスナイパーライフルを構え撃ち抜いた。
ラーズグリーズはいきなりの攻撃で対応できず胸部を撃たれ爆発する。
「敵がいないから楽に狙い撃てるわ・・・案外楽ね」
今のヨルズの装備は元々の装備に変更されていた。
敵機の射程外で敵を葬ればこちらの被害が抑えられるからである。戦力の少ない事を考えでの作戦だった。
ヨルズはこの後、装備を何時もの装備に変えラグナレクを破壊する。
つまりヘイムダル達を囮に使い本命の火力に長けたヨルズで目標を破壊する。それが今回の作戦である。
「ミオ!右を・・・!」
ヘイムダルはライフルを放ちラーズグリーズに命中させる。だがラーズグリーズは翼でそれを受け止めた。
「…………」
ノートはシールドの粒子ソードを出しラーズグリーズを胸部から腰部にかけて斜めに切り捨てた。
ラーズグリーズは切り口からスパークを放ち爆発する。
「やっぱりつらいな・・・次々に出て来る・・・」
ヘイムダルは腰部のサーベルを抜き近付くゲルを串刺しにする。
「……弱音……吐かない……」
ノートはシールドの粒子砲を放ちゲルを破壊する。
「わかっている・・・だがこの数はッ!!」
ヘイムダルはライフルを乱発し、回りのゲル達を破壊した。
だが、突然ヘイムダルのコクピットに振動が襲った。
「ぐぁぁぁぁッ!!」
ヘイムダルはバックパックに攻撃を受け怯んだ。
「……ヘイト!!……」
ノートはさらに追撃が来る粒子攻撃からヘイムダルをシールドで護りながらヘイムダルを引っ張り攻撃を避ける。
「くっ!この攻撃は!?」
ヘイムダルも体制を立て直し攻撃をシールドで防ぎながらライフルを放ち迎撃する。
「クククッ!さぁ見せてみろよ!貴様の実力を!!」
漆黒の機体はヘイムダルに突っ込み槍を奮う。
「くっ、貴様は・・・カルマ、カルマ・カーニッグ!!」
ヘイムダルはシールドを構えそれを受け止める。が、シールドは粒子の熱量に耐え切れず熔解し真っ二つに裂かれた。
「クッ!」
ヘイムダルはシールドを捨て腕部にマウントされた粒子サーベルを抜いた。
「……オーディン……装備が…」
ミオはオーディンを見て驚いた。漆黒のボディは変わらないが頭部は6本のブレードアンテナが額から突き出し、ツインアイカメラは消え四つの眼に変わりその頭部だけでも禍禍しい雰囲気を漂わせている。そして腕部の装甲、肩の装甲は鋭い刃が突き出していた。
「…この男……危険…」
ノートはサーベルを抜き切り掛かろうとしたが、ラーズグリーズの攻撃により阻まれた。
ラーズグリーズのサーベルとノートのサーベルが鍔ぜり合いを演じる。
「……くっ………」
ノートはラーズグリーズを膝蹴りし、怯んだところをシールドの粒子ソードで真っ二つに切り捨てた。
「……ヘイト………」
ノートはオーディンと交戦するヘイムダルに近付こうとする。
だが又しても数十機のゲルに囲まれてしまった。
「……邪魔…………」
ノートのシールド粒子ソードの出力が上がった。
「ハハハッ!!テメェを思い出したぜ!?十年前のガキかぁ!!!」
オーディンは槍を奮いヘイムダルを追い詰める。
「クッ!前とはパワーが・・・」
ヘイムダルは槍を受け止め切れず吹き飛ばされる。
「俺が憎いだろぅ!?殺したいだろぅ!?」
オーディンの槍の嵐が続く。
「憎しみはいいぜ!?憎悪があればそいつは強くなる!!憎む心が人を!!人間を強くするんだ!!」
ヘイムダルのサーベルは遂に耐え切れずスパークを放ち粒子のサーベルが形状を失った。
「クソッ!」
ヘイムダルは使えないサーベルを捨て新たに腰部に装備されたサーベルを抜きオーディンの槍を受け止める。
「ククク!!オレァ嬉しいんだぜ?ちっぽけなお前が俺を憎み此処まで強くなった事をなぁ!!!」
オーディンはマニピュレーター砲を放ちヘイムダルの肩部装甲に命中させた。
装甲の外部が剥がれ今までの内部の装甲があらわになった。
「まだだ!!」
ヘイトはヘイムダルのラグナレクシステムを発動させた。
ヘイムダルの装甲の回りにユグドラシルの光りが包み込んだ。
「さぁ!来いよ!!殺してやるからよッ!!!!!」
オーディンは爪先部、膝部、甲部から粒子の刃を出現させた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
ヘイムダルは接近し、オーディンに切り掛かる。
ヘイムダルの紅い粒子の刃はオーディンのグングニルによって防がれる。
「ハハハッ!!その程度か?」
オーディンは膝部の刃でヘイムダルを突き刺すように蹴る。
「クソッ!」
ヘイムダルは一瞬で後退し背後に回り込みライフルを放った。
「あめぇんだよ!!」
オーディンはマニピュレーターを掲げライフルを防いだ。
「なに!?」
「じゃぁな!!」
オーディンはヘイムダルに向かってグングニルを投げる。
「うあああ!!」
ヘイムダルの右腕はグングニルの刃に持って行かれた。
グングニルはその後オーディンの元へと戻る。
「終わりだ・・・」
オーディンはヘイムダルに接近し、ヘイムダルに槍の刃を振り落とす。
「……駄目……」
バチチッ!とスパーク音が鳴り響く。
ヘイムダルの前にノートが現れ、ノートはヘイムダルを庇った。
グングニルはノートの右胸部を切り裂いた。
「……クゥゥ………!」
ノートのディスプレイは割れその破片がミオの額に突き刺さる。
「ミオッ!!!貴様ッ!!」
ヘイムダルはサーベルでオーディンに切り掛かる。
オーディンはそれをマニピュレーターで受け止める。
マニピュレーターとサーベルの刃がスパークを起こした。
「チッ!邪魔が入ったか・・・」
オーディンは一端後退しグングニルを構えた、が突然の背後からの攻撃で体制を崩した。
「くっ!?後ろだと?」
オーディンは振り返り攻撃の来た方向を向く。そこにはヨルズの姿があった。
ヨルズさらにスナイパーライフルでオーディンを狙撃する。
「チイィィッ!・・・新手か・・・少し遊びすぎたか?」
「貴様ぁ!!」
ヘイムダルがいつの間にか間合いを詰めオーディンのレフトアーマーを切り裂いた。
「クッ!さっきのでバーニアがやられたか・・・部が悪いな・・・仕方ない」
オーディンはグングニルを腕の甲部に収納し撤退した。
そしてヘイムダルの粒子も装甲からは消えていった。
「・・・ミオッ!!」
ヘイトは叫びヘイムダルはノートを抱えヴォルヴァへと戻った。
「ミオちゃん・・・」
リンスもこの区域に敵機の反応を探り何もないのを確認しヴォルヴァへと帰還した。
「……ッ………」
ミオの額からは血が流れそれは頬の下を辿っていた。
『機体説明』
リベレイター・ミュトス
『ミュトス・オーディンK』
型式番号 RM−L0K
頭頂高 20.3m
本体重量 6.8t
全備重量 8.3t
ジェネレーター出力
30000kw
スラスター総推力
ユグドラシルにより必要としない。
センサー有効半径
10000m
武装
粒子槍『グングニル・ツヴァイ』×1
粒子刃×6(マニピュレーターの甲、爪先部、膝部に二つずつ装備されている)
マニピュレーター粒子拡散砲×2
先刻の戦いで半壊したオーディンが改修され強化された姿。以前のような騎士の姿は保っておらず禍禍しい姿をしている。
以前は2本のブレードアンテナが6本に変わり額を左右対称に突き抜けている痛々しい形をしている。そしてツインアイは無くなり四つのカメラアイが×を造る感じに並べられている。
主武装のグングニル・ツヴァイは出力が上がり刃を造る粒子は紅い粒子になっている。それ以外は変更されていない。
そして、変更された武装はマニピュレーター粒子拡散砲である。これは射撃時は粒子が集束し発射され、防御姿勢時は粒子が拡散し、相手の攻撃を防ぐ事が可能になった。
機体カラーは以前と変更されずブラック。
名称の後の『K』は『カルマ(Karma)』、(業)という意味である。パイロットのカルマ・カーニッグが齎した負の遺産である。
……人々の心からは争いの灯は決して消えない……だから私達は…………………『最終話……“改めてはじめまして”』伝説は伝説に滅ぼされる………