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第3章ー1

トローチ SPトローチ トローチ0.25 明治

 

3 タイガー・イェンとその孫との出会い


「意外と近いのですね……」

 フロストバイトから人狼族の村ボーンバインターは峠をひとつ越えた、わずか半日移動しただけの場所にあった。テレコが手綱を握った馬車に揺られ寝てる間に到着した。

 真夏だというのにひんやりとした風が吹く高地にある村だ。近くの山の山頂付近にはまだ雪が残っている。その山々を背景に、急勾配な巨大な屋根の合掌造りが多数連なる風景はこの地方独特なものであった。

「タイガー・イェンが……」

魔王はつぶやいた。そのつぶやきにブリトラが「ええ、生きています。あの伝説の――」と勝手に語り始めるが魔王には上の空だった。


獣人でありながら勇者と共に魔王を討った人狼族の英雄。

 すらりと伸びた背手足、端正な顔つきに長く美しい黒髪。巨大な黒い狼に変身し、その牙は敵を切り裂き、時に勇者を乗せ千里を駆けたアルマスの無二の友。その男こそタイガー・イェン。



――魔王は戦闘七日目最後のシーンを思い出していた。

 ロイエの間の床に勢いよく転がる魔王の頭。

 斬れない筈の魔王の首が勇者の剣によって切り離されたのだ。

「身体などすぐに復活します。しかし、これは許されないことですよ勇者アルマス。七度も私を同じ目にあわせたのですから。お仕置きはしっかりと受けてもらいます」

 頭だけの魔王が勇者を睨み叫ぶ。首を刎ねては復活する魔王。これで七度目だった。

「今だタイガぁああああ!」

 勇者が巨大な狼に叫んだ。黒い影が魔王の頭をさらった。

 頭だけになっても余裕の魔王だったが、流石に狼に頭を咥えられ慌て始める魔王。

「犬○(ピー音)! なんという! なんでこの私が! 離しなさい! 身体が戻るまで待ちなさい! 誰のおかげでお前たちが――」

 骨が砕ける音が響き渡った。タイガーは魔王の頭を噛み砕いて食べてしまった。

 魔王の魂は闇へと堕ちたのだった。プッツリと視覚も意思すらも遮断されあとは真っ暗な無だった。



「あのタイガー・イェン……」

 思い出し何度も頭を振る魔王。

「やっぱり緊張するわよねえ~ってちょっとアレ見てよ? 誰かワタシ達を待ってるわよ?」

 テレコが大きな身体を震わせ指したその先にひとりの女性が立っていた。

 ダークブルーのシンプルなロングスリーブのワンピースが時折激しく風に揺れていた。

 ボーンバイター村の無骨な石を積み上げただけの門の前に立つその女性。見るからに背が高く十頭身以上あろうかといえるプロポーションの持ち主だった。長い黒髪を束ね涼しげな目元口元にスラリと長い手足の先にはピンとした背筋。いかにも只者ではないオーラをかもし出していた。

「あれはジンジャー様だわ!」

 ブリトラが馬車から身を乗り出した。

「ほらほら! 伝説の大女優ジンジャー・イェンちゃんじゃないっ!? もうコーフンしちゃう!」

 テレコは手綱を握りながら感動に目を潤ませた。

「ジンジャー・イェン……ですか?」

 魔王は目を細めてジンジャーを見た。その容姿を見てタイガーの血族なのは明らかだった。

「アンタ、ジンジャーちゃんを知らないのっ!? モデルで大女優よっ! しかも、大陸中の劇団に呼ばれるほどの大女優ときてるのよぉ! もう、シビレちゃうぅう!」

「ええ、知りません。誰ですか?」

「もう! あの英雄タイガー・イェンのお孫さんよぉ!」

「孫ですか? なるほど確かにそうかもしれませんね」

 ジンジャーと呼ばれる娘に若き日のタイガーの面影を見た魔王。

「そうです。お孫さんです。もう百二十歳になろうというのにあの美貌。ワタシが幼い時に会ったそのままの姿を今もしている不思議な御方です。そして、とてもとても御優しいのです」

「ウソかマコトか百二十歳なのよぉ~ナニからナニまでビックリよねえ! あれで相当なババアなのよ! ババア!」

「テレコさんそのババアってのやめてください! 失礼です!」

 ブリトラがテレコを睨んだ。

「なによ!? 別にアンタに言ってるんじゃないわよ!」と、テレコは言うと横を向きつぶやいた。「ま、ブリトラちゃんも充分ババアだけど……」

「はあ!? 今、何て言ったか聞こえましたよ!」

 ブリトラは顔を赤くしてテレコに食って掛かった。

「ブリトラ落ち着きなさい」と、魔王はため息をついた。「確か人狼族の寿命は六、七十年位ではありませんでしたか? いつの間に長生きにな種族になったのですか?」

「す、すみません下らない事でした……えー、長生きなのはタイガー様とジンジャー様だけです。他の人狼は平均的な寿命です」

「タイガーのじじいなんて二百歳オーバーよ! 信じられる!? これは奇跡よ! 奇跡!」

「とにかく油断しないように」

「はい勇者様」


 ゴチャゴチャと三人が話してる間にジンジャーは馬車に近づいてきていた。

「よぉうこそぉおぃでくださぃましたぁ勇者様ぁ……祖父がぁお待ちですぅ」

 これはこれは……魔王は拍子抜けした。スラリとした長い手足でクールなモデル体型といったその姿とは裏腹に、その声は体に合わず『カワイイ』そして『間抜け』そのものだったのだ。

 随分な声ではありませんか。百二十歳? 私にしてみれば赤子も同然です。フフフ。と、思うが顔は無表情を保っていた。

 テレコはその声に噴出し笑うのを我慢している様子だった。

「ジンジャー様お久しぶりです! お元気そうでなによりです!」

 元気よくブリトラがジンジャーに手を振った。その声に関してブリトラは別段気にする様子もなかった。

「ブリぃトぉラぁちゃぁん大きくなったなねぇえ」

 両手を振るジンジャー。

「アタシが純白のテレコ」と、テレコは言うと目を細めてジンジャーを見つめている魔王を指差した。「で、この貧相な小男が勇者ちゃんよ」

 ジンジャーは右手を胸に左手を後ろに回し軽く会釈をしたが、その美しくも洗練された動きに三人は声を失った。

 近くで見るとジンジャーは余計に高く見えたが実際に身長は一八八センチあった。そして、その優雅な身のこなしで「こちらぁえぇ」と、間の抜けた声をさせ馬車を案内する。歩くだけでサマになるのはさすが伝説の女優というだけはある。が、声だけはどこか置いてけぼりの感は否めなかった。

 その後姿(うしろすがた)をじっと見ながら顔はいささか地味ですが、ちょっとした所作に得も言われぬ気品が漂います。さすがはタイガーの孫です。と、魔王は感じいっていた。

 フロストバイトの石畳と違いボーンバイターは小石を敷き詰めただけの砂利道だった。その左右に合掌造の家が並ぶ。一行は門から一直線に伸びた道の奥の前で立ち止まった。そこはひときわ大きな合掌造の家というよりは館であり、他とは明らかに雰囲気が違っていた。

「馬車わぁあちらへぇ」

 ジンジャーが納屋を指差しテレコに指示をする。

「アレで女優がつとまるのですか?」

 魔王はブリトラの耳元でささやいた。

「ジンジャー様は舞台に上がると別人になるんです。役が乗り移るんです」

「役……ですか」

 神妙な面持ちになる魔王。

「さぁさぁこちらぇ……」と、三人はジンジャーに導かれ広いエントランスを抜け奥の部屋に入った。古い檜の香りと(すす)の匂いが漂う薄暗い部屋だった。春先以降は火の消えた暖炉の前に重厚な椅子に座った大きな体の老人が座っていた。黒光りするオーク材の手すりを無骨な手が力強く握っていた。

 ブリトラ、いや、あのジンジャーでさえこの老人の前では息をするのも困難なほど緊張してしまっていた。それは顔をも覆う長い白髪のその隙間から覗く鋭い眼光を見たから? いや、違う。その存在そのものが威厳に満ちていたからだ。そう、彼は魔王を倒した六人の英雄の一人『タイガー・イェン』なのだから。

「お、お久しぶりですタイガー様……」

 恐る恐るブリトラが会釈をすると、タイガーはブリトラを一瞥すると無言で頷いた。

 テレコはというと「ナニよただのデカイジジイじゃない」と、魔王の耳元でささやいた。

「で、誰が勇者じゃ?」

 タイガーが口を開くと重々しくもよく通る声が部屋に響いた。

「そのぉおじぃさまぁそれはですねぇ」

 あわあわと両手を振るジンジャー。

「誰が勇者じゃと聞いておるっ!」

「ひぃい!」

 ブリトラが悲鳴を上げた。

「このデブじゃあない」と、タイガーはテレコをギロリと睨み付けた。

「ちょっとアンタ失礼ね! アタシは純白のテレコよ! デブとはナニよデブとは! オカマをナメんじゃないわよ!」

 デブと言われテレコがキレはじめた。どうなってんのよとブリトラを責めた。ブリトラはただただ慌てるだけだった。

「なんじゃただのオカマか」

 タイガーは首を振った。

「随分と耄碌(もうろく)しましたねタイガー・イェン。それでは(はえ)も殺せないのは? 今の勇者は私ですよ」

 魔王の言葉に震えるジンジャー、ブリトラを尻目に臆することなく魔王が言い放った。あのテレコでさえ「ちょっと、それ、言いすぎだわよ」と困った顔をしていた。

「ふえぇぇえ」

 その言葉にジンジャーが大きな体を縮込ませ慌てながら魔王とタイガーを交互に見た。

 タイガーが魔王を睨んでいた。

 ブリトラも驚いたが驚きすぎて1ミリたりとも思考も身動きも出来なかった。タイガーの眼光は冗談抜きで息をも止めてしまうほどの迫力があったのだ。

「んんっ? こんな小さいのが勇者と呼べるのか? まだデブのほうがマシだわい」

 タイガーはマジマジと魔王を見て、いかにも小さいし弱すぎると思っているのだろう首を横に振った。テレコはタイガーに「ちょっと! アタシはデブじゃなくてオカマよ!」と、叫んでいたが見向きもされなかった。

「私も同感です」

 魔王はわずかに口角を上げうなずいた。

「あ、あのぉおじぃさまぁそのぉ……」

 ジンジャーがタイガーの顔をうかがった。

「オマエは黙っておれ!」と、ジンジャーを一喝しギロリと魔王を睨み付けた。

「なんと言おうと今は私が勇者です」

「貴様みたいなひよっこが勇者を名乗るなぞ百年早いわ!」

 髪の毛を逆立てタイガーが咆えた。部屋の空気が震えた。テレコでさえ目を丸くして背筋をピンと張って立ち尽くした。

 が、魔王は平然としていた。その表情は無表情でじっとタイガーを直視していた。

「フン、ワシを目の前に全く怖がる様子もないか。ただのひよっこではないようじゃのぉ」

「いえいえ、怖いですよ」と、言い魔王はゆっくりとタイガーの目の前に立ち、なんと大胆にも彼の顔に近づき、そして耳元でささやいた。「また、頭を食べられてしまうと思ったら……怖いです。また、暗闇に逆戻り……」

「なっ!?」

途端タイガーが驚き目を見開いた。

 三人はただただその成り行きを固唾を呑んで見守るしかなかった。

「き、貴様、何者じゃ?」

「勇者ですよタイガー」

「ま、まさか……」

「さあ、どうでしょう」

「しかも、男ではないかっ!?」

「ええ、私は正真正銘の男ですよ」

「なんと!? い、いったい何をたくらんでおる!?」

「魔王を倒します」

「魔王をなんじゃと? 今、何と言ったんじゃ!?」

「魔王を倒します」

「ま、魔王を倒すじゃとぉお!?」

 タイガーが勢いよく椅子から立ち上がった。

「はい。私は勇者ですから」

「これは、なんと、本気で魔王を倒すと? まお……いや、貴様が魔王を?」

「はい、倒しますとも」と、魔王はうなずいた。「勇者の五人の仲間と共に。だから行きますよタイガー」

「ワシもか?」

「当然でしょう。勇者と約束をしたのでしょう?」

「なんという話しじゃ。長生きはしてみるものじゃのぉ。これは愉快じゃ! グワッアハハハハハ!」

「笑い事ではありませんよタイガー。私は本気です」

「いやいや、一五〇年ぶりに笑ったわ!」

「……初めてぉじぃさまが笑ったのぉ見ましたぁ」

 余程嬉しかったのか両手を口に当てクスクスとジンジャーは笑っていた。

「アナタのおじいさまおっかないわよ。アタシ痩せちゃいそう」

 テレコがジンジャーに小声でささやいた。

「ごめぇんなさぃ」

 ジンジャーは笑うのを止めペコリとお辞儀をした。

「いいのよいいのよ。ホント、アンタ良い子ね」

 テレコはジンジャーにウィンクをした。

「勇者よ。ワシは行けんのじゃ」

「仕方ないですね」

「いいのか?」

「行けないものを無理に来いとは言えないでしょう」

「意外じゃ。意外じゃが助かる」

「それよりもタイガー、ひとつ聞きたいことがあるのですが」

「なんじゃ?」

「アルマスの件は本当ですか?」

「突然アルマスじゃと? 何で貴様が気にする? もう、過ぎた話じゃ」

 上機嫌のタイガーは椅子に座りパイプを取り出して草タバコを詰めた。

「話を聞けば聞くほど彼の死には不審な点が多いのです。もしや黒幕がいるのでは?」

「黒幕? 誰がじゃ?」

「あなたではないですかタイガー・イェン」

「ひぃぇええ!?」

 ジンジャーが驚き二歩後ずさった。

「ちょっまっ! いきなりは失礼ですよ勇者さまっ!」

 魔王にブリトラが勇者の前に踊りだそうとしたが、それを魔王は「どきなさい」と、振り払った。

「ほほう、いったい何が不審な点なんじゃ?」

「一五〇年前の事件で六人の英雄のうち三人を失ったのでしょう? そして、その場にいたあなただけが生き残った。何故ヘクターはあなただけ生かしたのでしょうか? そして、その後のアスラムナイン家の後見人をあなたがし続けているのは何故なのでしょう?」

「フム、やはりおかしいかのぉ?」

「不自然です」

 魔王がキッパリと言い切った。

「だとさブリトラよ。クククッ」

 タイガーがブリトラを見た。

「へ!?」

 何のことかわからずキョトンとするブリトラ。

「今のブリトラに言っても仕方のないことじゃがのぉ。このストーリーを考えたのは三代目ブリトラとヘクター……」

「え?」

 タイガーはパイプに火をつけ大きく息を吸い込み煙を吐き出した。そして、じっとブリトラを見つめた。

「そうじゃ、時にブリトラよ。真実を知りたいか? いや、語り部として真実を知っておく必要があるのかもしれんな」

「え!? は、はいもちろんです。本当の真実があるという事ならば知りたいです」

 ブリトラが真剣な眼差しでうなずいた。

「あの出来事はアルマスはアルマスによって殺された。と、でも言うんじゃろうな。ワシはモトリーみたいに言葉を巧みに操れんがな」

「タイガー様それはどういう意味ですか?」

「そうじゃのぉつまりは闇に堕ちたというべきかのぉ」

「闇? いきなり確信に迫る台詞ですね」

 魔王は右手でないハズのメガネを触った。が、もちろんあるハズもなく舌打ちをした。

「勇者様が闇? そ、そんな話を伝え聞いたことは!?」

「今、伝えられている内容は三代目のブリトラ達が作った話じゃからのぉ。下手な作り話よ」

「え? えええ? 三代目様が!? しかし、闇とはいったい……」

 そう言いながらブリトラはノートとペンを取り出した。

「それを語るにはヘクター・アスラムナインの話をせねばなるまい」


 ヘクター

 ヘクター 

 ヘクター

 黒いカラスが連れて来る 

 ペストマスクの残酷卿

 今宵も漆黒纏(まと)いて

 苦もなく子供の(くび)()ねる

 晒す(こうべ)は月に照らされ

 死の眠りを(たまわ)ろう


 大陸全土で行儀の悪い子に対して「悪い子は残酷(ヘク)(ター)がさらっていくぞ」という脅し文句が流行っていた。効果は覿面(てきめん)でやんちゃな子供たちはブルブル震えて大人しくなるのだった。それほど“ヘクター”という名前は泣く子も黙る極悪人の代名詞になっていた。

 血も涙もないヘクターは情け容赦なく勇者とその仲間たちを、そして多くの罪のない人々を殺していった。王様をも操るヘクター・アスラムナイン残酷卿とは……


「ヘクターとは何者ですか? 興味があります」

 魔王は首をかしげた。

「ヘクターか……」と、タイガーは苦笑いをした。「ブリトラよヘクターの母を誰だか?」

「いいえ、それが不思議なんです残酷卿の母親に関しての記述、言い伝えが全くないのです。一体誰なんですかタイガー様?」

「アルマスの一人娘オーロラじゃよ」

 タイガーはあっさりと答えた。

「なんと。ヘクターはモトリーとアルマスの孫ですか」

 魔王は無表情だったが内心は楽しくてしょうがなかった。

「そんな話は聞いたことありません……」

 ブリトラは頭を抱えた。

「このじーさんがボケで戯言を言っているのでないなら、これは激ヤバなコトよ」

 テレコがジンジャーに耳打ちをした。ジンジャーは即座に口に手を当て「ぉじぃさまはぁボケてまぁせんっ」とつぶやいた。

「では、残酷卿は祖父を? 身内を殺したという事ですか!?」

 ブリトラは顔をゆがめた。祖父殺しとなれば話は更に複雑になってくる。

「それは違う」

 間髪いれずにタイガーは答えた。

「では、勇者は誰が?」

 ブリトラはタイガーにたずねた。

「ワシじゃ」

「へ!?」

 ブリトラは目を丸くした。

「ぉおぉおじぃさまぁ!?」

 ジンジャーが慌てる。

「冗談じゃ冗談! グハハハハッ!」

 タイガーが大笑いする。

「ちょっ! やっぱこのじーさんボケてるわ。それかあのパイプの草があやしいわ。ヤバイ草なんじゃないの?」

 テレコは首を振った。

「タイガー様、冗談を言ってる場合じゃないです。早く真実を教えて下さい」

 ブリトラはノートにタイガーの言葉を記していたのだ。最後の英雄からの真実の言葉を後世に残す為にペンを走らせていた。

「あながち嘘ではないでしょう。タイガー以外に誰が勇者に勝てるというのです。いやはや、これは面白い展開になってきましたね……」

「まぉ、いや、勇者よビター・スィート・シンフォニーという杖は知ってるじゃろ?」

「闇を吸収するモトリーの杖ですね?」

「えっ!?」

 何故、勇者がそんな事を知っているのか驚く三人。

「うむ。それがモトリーの死後に形見としてアルマスの元に渡ったんじゃが……何かの拍子で封印していた闇が解かれ年老いたアルマスを操った……」

「あのアルマスが……なんということです」

「ブリトラ、モトリーが病で亡くなった後は生気を失ってそりゃ酷いもんじゃったよ」

「闇に付け込まれましたか。情けない」

「はあ……タイガー様、結局はどういう事なのですか? ワタシには何がなんだか……」

 ブリトラはまったくもって頭の上にひよこが飛び回っている感じだった。

「実を言うとな、そのぉ、なんじゃ、アライも剣聖もアルマスに殺されたんじゃ。あの場にいたみんながアルマスによって殺された」

 タイガーがそう答えると四人は目を見開き驚きの表情をした。時が止まったかのように誰一人として身動きをせず口も開かなかった。それはそうだろう。いきなりそんな事を言われても戸惑うだけだ。あの勇者が乱心などありえない事だ。歴史上最も偉大な英雄であるあの勇者アルマスが乱心など嘘でもあってはならない事だった。

「……それが本当であれば闇に堕ちたアルマスを止められる者はいないでしょう。唯一無二の防御力に闇の力が加われば天下無双。対抗できるのは魔王を食べてその力を得た人狼くらいでしょうね」

「勇者よ、果たしてそんな人狼が世の中に存在するかのぉ?」

「さあ、私にはわかりません」

「えーっと、タイガーさまつまり真相は?」

「ゴチャゴチャと説明するのはワシは得意じゃあない。ブリトラよワシの目を見るんじゃ」

 そう言うとタイガーの目が真っ赤になった。それは魔王から奪った能力だった。それをブリトラは不安げに見つめた。他の三人もその妖しげに光る目を見つめた。途端に意識を持っていかれたのだった。


トローチ トローチ トローチ

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