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第2章ー1

いつの間にかこんなの書いていた。

2 魔法少年ブリトラの子孫


 谷を抜けるとそこにブリトラのいる街があった。

 真っ白な壁が美しい街並みのフロストバイトである。

 その街の中央に巨大な岩があり、そこに勇者アルマスの聖剣が突き刺さっていた。その岩の周りが広場になっており多くの人々が集まっていた。みんな勇者を目指す若者か、その勇者を一目みたいと集まる見物人であった。

 この街は北の観光スポットとして発展させてきたのである。

 遠目から魔王はブリトラを確認した。岩に突き刺さる聖剣の横に立つのは可憐なという表現が似合うブリトラだった。ドット柄のパーカーにストライプパンツ。頭には大きなキャスケットをかぶっていた。

 魔王は馬車から飛び降り人垣を掻き分けた。

 背後から「魔王ちゃん! ちょっとアンタ待ちなさいよ!」と叫ぶテレコの声。

 人垣を掻き分け魔王は進む。

 魔王はブリトラの前に立った。それを見たブリトラが叫ぶ。

「さあ、勇者候補よ! その剣を抜いて見せなさい!」

 魔王は無意識に聖剣に手をかける。力をかけることなくアッサリと聖剣を抜くと、それを思いっきり空に放り投げた。その聖剣を後から追いかけてきたテレコがキャッチする。

「ウソウソ! アタシもしかして勇者になっちゃうの!?」

 聖剣を手にして大はしゃぎのテレコ。

 何が起きたかわからず立ち尽くすブリトラ。そのブリトラを前に魔王が立ち指差した。

「久しぶりですねブリトラ。ええ、会いたかったですよ」

 何千人、いやもしかしたら何万人もの屈強な男たちがここ百五十年間挑んで誰一人として抜けなかった聖剣を意図も簡単に抜いてしまったのだ。

 観衆がどよめいた。

 あの若者は何者だ? いや、聖剣を抜いたのはあの大男だろ? 男か? 女か?

 ざわつきは増す一方だった。それもそうだ。貧相な男だか女だかわからない若者が赤ワンピースを着ているのだから。

 ポカーンと驚き立ち尽くすブリトラ。抜いた後の台詞は全く考えていなかったのだろう。

「どうしたのですかブリトラ? あなたのそんな顔を見るとは思いもしませんでしたよ?」

「えっと……」

 困惑するブリトラの横でテレコが剣を勇ましく天に突き上げる。

「アタシが勇者よ! 勇者純白のテレコ! どうしようかしらっ!」

 聖剣を見つめながらテレコが興奮を抑えられないでいた。

「でも、どうしましょ! アタシ暴力苦手なのよね~血もダメ! ゼッタイダメ! あ~どうしましょ!?」

「そうダメです。あなたは勇者として不適格ですよテレコ」と、はしゃぐテレコを制する魔王。「勇者とはアルマスの事を指す言葉なのです」

「はぁあ!? なによいきなり! そりゃ聖剣を抜いたのは魔王ちゃんだけど! 今、聖剣を持っているのはア・タ・シなのよ?」

 聖剣に抱きつくテレコ。魔王を(にら)む。

「いいですか勇者という者はですね――」

魔王がテレコを指差した。そこでブリトラがハッとして叫んだ。

「み、みなさん新たな勇者の誕生です!」

 台詞をやっと思い出したのか、それまでピクリとも動かなかったブリトラが急に動き始めた。

「アタシかしら!?」

 テレコが無駄にドギマギする。

「この方こそ新たな勇者様です!」と、ブリトラは魔王の腕を取り高らかに宣言すると、突としてテレコを睨み付けた。「そこのあなた勇者様に聖剣を渡しなさい」

 ブリトラに睨まれたテレコは大きな体を縮ませ魔王にしぶしぶ聖剣を渡した。

「なによ、もう、ケチ!」

「永きに渡り空白だった勇者の席! 今日、ついに現れました! 聖剣が! 勇者アルマス様の意思が新たな勇者を選んだのです!」

 ブリトラは魔王を見て、何故この弱そうな人なのかしら? しかもこの人は男? 女? ワンピースを着ているから女? と、思わずにはいられなかったが、アルマスが選んだ勇者なので納得する他なかった。

「もうしょうがないわね! 魔王ちゃん! あなた今から勇者ちゃんよ! 勇者ちゃんだわよっ!」

テレコが魔王に抱きつき嫌がる魔王の頬に熱いキスをした。

 観衆の歓喜が爆発する。もみくちゃになる三人。ブリトラが叫んだ「みなさん神様に感謝して祈りましょう! 祈りましょう! さあ、祈りましょう!」

観衆はその声を聞いて、それぞれがその場で祈り始めた。ブリトラが魔王の手を取りその場から離れた。

「勇者様ワタシの家へ……」

 路地を通り、大通りを抜け町外れの大きな館に二人は案内された。

 白壁の美しい大きな館だった。

 広々としたエントランスには肖像画が飾ってあった。初代から現在に至るまでの代々のブリトラの肖像画だった。

 夏真っ盛りだというのにブリトラの館は涼しかった。二人は金木犀の香りが漂よう広い客間に通された。

 魔王は椅子に座り腕を組み足を組んだ。

「私は勇者にはなれない」

 いきなり魔王はブリトラに言い放った。

「じゃあ、アタシがなるわ」

 テレコが言うとブリトラがにらんだ。

「貴方はダメです」

「なによっ! ケチ!」

「いいですか? あなたが聖剣を抜いたんですよ? こちらのテレコさんではないのは確かです。それにこれは勇者アルマス様の御意思なのです。あなたはもう勇者様以外の何者ではないのです。そう、運命なのです」

 ブリトラが一気にまくしたてた。ついに現れた勇者に語り部として全てを捧げるつもりだった。

「いいえ、違うのです。そもそも勇者という者は体が大きくて、声も大きくて、常に仲間のことを思っていて、とてつもなく強くて頑丈で、何よりも勇気があり決してくじけないしあきらめない者なのです。つまりは勇者アルマスこそが本当の勇者であって、別の誰かが勇者でなんてとんでもない事。ましてこんな貧弱な身体ではとても勇者とは呼べない……」

 そう、仮の姿がこんな貧相な勇者など勇者とは呼べなかった。そもそもが魔王なのである。

「勇者様……」

「だからダメです。私には勇者の資格なんてこれっぽっちもありませんから」

「そんなに勇者のことを思っているなんて。本当に勇者が好きなんですね!」

 この人は勇者を理解している。やはりこの人しかいない。と、目をキラキラさせるブリトラ。

「なにを言ってるのですかブリトラ。私が勇者を好き? そんな冗談を言うものではありませんよ……」

 目をつぶり勇者アルマスを思い出す魔王。




――二百年前の戦闘三日目の朝。

「イテテ、ねーちゃん! 随分とかましてくれるぜ!」

 ボコボコにされながらもなおも立ち上がる勇者アルマス。

 勇者の後ろで杖に(つか)まりやっとのことで立っているモトリーがいた。その横では剣聖ジョニーと人狼タイガーがイビキをかいて寝ていた。

「彼らのように寝ていればいいものを……勇者よ。アナタはもう三日以上寝てないのでは?」

 魔王はメガネの縁を指で艶かしく撫でた。

「そりゃぁあ~寝てるヤツを狙わないのはフェアなのかもしれねーがよぉ。オイラは寝るワケにはいかねーの!」

「あらあら、いさましいこと」

 魔王は勇者の背後に視線を向けた。戦闘のはるか後方ではアライ・ジ・サムライスウォードが食事中だった。勇者もそちらを振り向いた。

「ああ、確かに料理中も食事中も攻撃しないってのはエライぜ。フツーじゃあできることじゃねーわな」

「勇者に褒めてもらえるなんて光栄です」

「褒めてるってゆーかそういうんじゃねーんだけど――」

その時だ。勇者の背後からふいに無数の氷の刃が魔王に向かって放たれた。それは真っ直ぐ魔王を貫いた。

「やったぁああ!」

 魔法少年ブリトラが飛び上がった。

「よっしゃあああああ!」

 勇者も両手を上げ叫んだ。

「や、やったのか!?」

 モトリーが杖にしがみつきながら声を振り絞った。

「多分……帽子しかないけど」

 そこには魔王の壊れたエナン帽だけが床に落ちているだけだった。

「確かに当たったハズだよ! 死体は!? 死体はドコ!?」

 ブリトラがその帽子を見て、周りを見回した。

「私は生きてますよブリトラ」

「ウソ……」

 そこには金髪を振り乱した真っ赤な目をギラギラさせた魔王が今にも飛びつきそうな格好で立っていた。

「許しませんよブリトラ。よくも私のお気に入りの帽子を……あなた、死にましたよ」

 ブリトラが今にも泣き出しそうに体を震わせていた。「そ、そんな……」

「まあ、落ち着けよぉ。ブリトラには指一本触れさせねーからよ」

 勇者がブリトラの前に立った。そして、ブリトラに振り向き微笑んだ。


「また、あなたですか勇者アルマス……あなたという人はつくづく私の邪魔をしてくれますね。憎たらしい人です」




 魔王は目を開けた。

「……いえ、好きではありません。ええ、好きなものですか。むしろ嫌いです。大嫌いです」

 憎たらしい人です。いつも邪魔をしますから。と、心の中で付け足し魔王は眉間にしわを寄せた。


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