第七話「行商人」
ここ数日のカナデの朝は早い。
人間界にいた頃は家に引きこもり、見るも無残な自堕落としか言いようのない生活を送っていたカナデだったが、ここ数日はまだ空が薄暗いうちにベッドから跳ね起き、顔を洗って城の外に出ると、広大な中庭でランニングをしていた。
「ほほ、お早うございます。カナデ殿。今朝もランニングですか。精が出ますな」
「ああ、お早うございます、オズワルドさん。今朝もお仕事、ご苦労様っす」
ランニングをしているとオズワルドに出会う。
最近のカナデはあまりにも朝が早いため、今やカナデより朝早く活動を始めているのはアスモデウス城の執事であるオズワルドくらいであった。
と、いうよりオズワルドはいつ見かけても常に何かしらの仕事を優雅にこなしているので、本当に寝ているのかどうかわからないのだが。
「ほほ、それではそろそろ、今朝もやりますかな」
「__ええ、そろそろ身体も温まってきたんで、今朝もよろしくお願いします、オズワルドさん」
カナデはそう言うとランニングを切り上げ、オズワルドの前に立つ。いつもは気の締まらない顔をしているカナデだが、不意に顔が真剣な顔つきに変わる。
対するオズワルドはいつもの通り何の構えもせず、ただそこに立ってカナデの動きをじっと見ているだけだ。カナデにはその老執事の余裕の姿を見て、自分とその老執事との間にある大きな差を見せつけられているようで苦笑する。
次の瞬間、カナデは一気に老執事との距離を詰め、右手を伸ばしオズワルドの身体に触れようとする。が、躱されてしまい、オズワルドにかすることすら出来ない。
それでもカナデは諦めずに二度、三度と両手を懸命に使い、必死にオズワルドに触れようとする。二度三度とトライする度、カナデの動きは徐々に研ぎ澄まされ、カナデの攻撃の全てがオズワルドに当たりそうになる。しかし、オズワルドはそれを全てひらり、と優雅に直前で躱し、微笑みながらカナデの次の攻撃に備えていた。
「……ハァ、ハァ……オ、オズワルドさん、ほんとに毎朝毎朝容赦ないっすね……」
「ほっほ。カナデ殿の動きは日を追うごとに洗練されていっているようですな。この分では、この老僕の動きなど容易に捉えられてしまいますのも、時間の問題でしょうな」
肩で息をし、膝に手をつきながらオズワルドを見上げるカナデに、老執事は称賛の声を上げる。ただ躱されているカナデの方からすると、毎朝しているこの訓練をする度、オズワルドの強さを深く思い知らされるのであるが。
カナデがランニングやこの訓練を初めたのは、先日のエクソシスト襲撃の事件の際のトラウマとも呼べる経験がきっかけである。
ペティとの楽しい初デートのハズが、気がつけばエクソシストの襲撃を受け、戦うペティの助けにもなれず、死神族の親子も満足に守れなかった上、ペルの母親を助けることもできなかった。
某漫画風に言うならば『俺は、弱い!』と、自分の無力さをカナデはあの事件で噛み締めたのであった。
無論、プロのデーモンハンターであるエクソシストと、悪魔の王であるペティとの戦いに、なんの知識も無く訓練もしていないただの人間であるカナデが何か助けになれることなど何もなかったのだが、もう二度と悲惨な結果を見たくなかったカナデは自分の努力で救える命は救おうと、身体を鍛えることに決めた。
そうしてカナデはとりあえず早朝ランニングを始めたのだが、ある朝それを見ていたオズワルドがカナデに、自分の身体にタッチすることが一回でも出来れば稽古をつけてくれると言った。
かつて悪魔の中でも暴君と呼ばれ恐れられたオズワルドにそう言われ、願ってもない幸運だと思ったカナデはすぐにオズワルドの身体に触れようと必死になったが、未だ一回もオズワルドにタッチできずにいたのであった。
「ハァ……オズワルドさん、なんでそんなに早く動けるんですか……ハァ、いくらなんでも、人間の動きじゃないっすよ……って、人間じゃなくて悪魔なのか、はは」
「ほっほ。確かに私は人間ではなく悪魔ですが……本来、悪魔と人間の間にそこまで大きな肉体的な差があるわけではありませんよ。」
数十回に及ぶ攻撃により、疲労がピークになったカナデはその場に大の字になり倒れ込む。そんなカナデを見たオズワルドが口を開いた。
「__そうですな、では、カナデ殿にちょっとしたヒントを与えましょう。我々悪魔と人間の最大の違いは、その体に宿す魔力の総量です。人間に比べて我々悪魔は、その魔力の絶対量が圧倒的に多い」
「カナデ殿が先日戦ったエクソシスト達のような人間は、その圧倒的な魔力の差を悪魔と契約したり、祝福と呼ばれる能力で補ったりすることで、魔力によって肉体の強化された我々悪魔と渡り合うことが出来ているのですが……」
「見たところカナデ殿には、魔力や祝福と言ったものはどちらもなく、アスモデウス様との契約も、魔力を自在に引き出せるような契約ではないようですな、ほっほっほ」
そこまで言って、オズワルドはいじらしく子供のように笑うと、それっきり黙ってしまった。
「いや……オズワルドさん、そこまで言って黙られちゃうと、ただの悪口みたいになっちゃうんですが……」
__あくまで自分の頭で考えてなんとかしろ、ということか。と、老執事の挑戦的な笑みを見ながらカナデは苦笑した。
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早朝の訓練を終え、城に戻り朝食のパンを食べていたカナデのもとに、眠そうな目をしたペルがやってきた。
「あ、お兄ちゃん、おはよ……。今日もあさ、はやいね!ペルも朝ごはんたべたいな」
そう言って、ペルはちょこん、とカナデの隣の席に座った。しばらくして、ペルの分の朝食をサラが運んできた。
自分の分のパンを食べながら、ペルはカナデの方を向き、
「今日はねー、ペルは町のみんなとたき木を集めに森にいくんだー!なんかね、きゃんぷ?をするのに必要なんだってー」
と、えらいでしょ、と言うように胸を張って言った。恐らく焚き木とは、町が半壊したことで住むところが無くなってしまった悪魔が、仮住居ということでテントのような物を張り、キャンプをしながら自分の次の住居を探しているため、そういった仮住居の集まる集落のためにするボランティアのようなものの一環であろう。
「__そっか、エライなペルは。ちゃんと焚き木を集めてくれば、きっとみんな喜ぶぞ」
「うん、頑張るー!」
そう言ってペルはにこにことしながらパンを食べると、ごちそうさまと挨拶をして城の外へ出かけていった。
「……ペルはほんとにエライな。俺なんて、結局ゴエティアに来ても引きこもってないだけで、何にも働かないのは同じだな!無駄にアクティブなニートが誕生しただけだ」
ここ数日は訓練やトレーニングのため、町の復興の手伝いをあまりしていないカナデ。そう言ってカナデが高らかに笑うと、
「……カナデ様。少しは働く気があるのでしたら、たまには城の掃除などを手伝って頂いても構いませんのですよ?」
と、サラがカナデのカップにコーヒーを注ぎながら言った。
「あー、確かに。サラとかオズワルドさんがいたから、あんま気にしてなかったけど、たまには城の手伝いとかをするのも悪くないかもな。ペティと契約しているとは言っても、タダで住まわせてもらってるわけだし」
「え、まさか本当に手伝うんですか、やめて下さい、カナデ様。中途半端な仕事をされて余計に私達の仕事が増えるのが目に浮かびます」
そんなカナデの申し出に、サラは露骨に嫌そうな顔をする。そんなサラに、
「なんでだよ!その顔!手伝えって言ったのお前じゃんか!」
と、カナデは至極もっともな反論をしたのだった。
__その後、朝食を食べ終わったカナデは、うへえ、という顔をするサラから無理矢理仕事を奪い、風呂掃除をするためアスモデウス城の浴室へ向かった。
「__さて、風呂場に来たのはいいけど、コレって一人で掃除するにはあまりに広すぎだろ……」
ブラシを片手に風呂掃除を始めるカナデだったが、アスモデウス城の浴室はあまりに広い。浴室の真ん中にある浴槽だけでちょっとした教室くらいの大きさはある。
「……さすがは、お城の風呂場って感じか。そもそも、こんな広くてどうすんだ?いっぺんに大勢で入るわけ……ないよな。泳いだりすんのか?」
そう言いながらごしごし、とブラシで浴槽をこすっていると、ガッ、と何かに引っかかってブラシが止まった。
「……ん?なんだこれ?」
と、カナデは呟いてブラシの先端を見ると、何やら無色透明のぶよぶよしたスライム状の物がある。さすがに素手で触りたくなかったカナデは、ブラシとシャワーを駆使し、少しずつその謎のスライム状の物体をお湯をかけて溶かしていった。
「……さて、謎のスライム状の物体、処理完了っと。……一体何だったんだ、アレ」
何か見てはいけない物を見てしまったような気がし、カナデは何も見なかったと自分に言い聞かせ、掃除を再開した。
するとしばらくして、
「カナデ様、アスモデウス様がお呼びです。浴室の掃除は後は私がやっておきますので、カナデ様は着替えて客室へ。お客様がおいでです」
と、サラが浴室にやってきてカナデに言ったのであった。
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「ペティが俺を客室に呼び出すなんて……どう考えても俺を客に会わせたいってことだよな」
「ま、まさか……!実はその客人はペティのお父様で、この人彼氏なのって早くも家族に紹介したいんじゃ……!?そ、そんなのは早すぎる。落ち着け、落ち着け俺」
着替えを終え客室までの道すがら、カナデは様々な想像をしつつ、実際にお父様がいたらどうしよう、なんて挨拶をすればいいんだ、と緊張で手を湿らす。
しばらく客室の前で悩んだ後、カナデは意を決してコンコン、とドアをノックした。
「はーい!カナデ、入って入って!」
すると、中からペティの声が入室を促して来たので、カナデはドアを開け、客室に入った。
するとそこには、傍らに巨大な袋を抱えた栗色の髪の男性と話しているペティがいた。
「あらぁ?このコが、ペティちゃんの言ってた契約者様?__結構、いい男じゃないの」
「そうそう、カナデ、この人はマルーン・ランプータン。この城によく行商に来る商人で、私のお友達。いわゆる『アーツ』って呼ばれてる魔法道具を専門にしてるの」
「よろしくね~カナデくぅん?」
と、マルーンと紹介された男は立ち上がり、手を差し出す。カナデは反射的に手を差し出し、初対面の二人は握手を交わした。
「アラ?意外と逞しい手してるじゃないの……ペティちゃん、アンタ、いい男捕まえたわね」
「えっ……そ、そうかな……えへへ」
と、恥じらうペティ。普段ならばそういったペティの素振りに釘付けになるカナデだったが、カナデは耐えきれず、無意識に口を開いて、
「オ、オカマ……オカマだ……」
と、口にする。すると、
「アラ?初対面の悪魔に向かってオカマだなんて……失礼ね、このコ」
そう言ってマルーンは指を伸ばしカナデの乳首をピンポイントで突っついた。
「や、やめてくれ……マルーン……さん!?っていうかなんでピンポイントで俺の乳首の位置がわかんの!?なにその中学生の男子に与えたら喜びそうな特殊能力!」
カナデは中学生の頃、休み時間に男友達と乳首あてゲームなるものをやって遊んだことを思い出した。服の上から乳首の位置を当てるという単純なゲームだったが、あの頃のカナデ達にマルーンの能力を与えれば手放しで喜び、存分に友人の乳首を当てて喜んだことだろう。
「あ、そうだカナデ。実はカナデに来てもらったのは、今ちょっとマルーンの持ってきてくれた『アーツ』、どれを買おうか迷ってて。ホントは全部欲しいんだけど、サラがあんまり無駄遣いしちゃダメっていうから……カナデに選んでほしいと思って」
ふと、ペティにそう言われテーブルを見回すと、そこには恐らくマルーンが持ってきたものだろうと思われる様々な魔法道具が並んでいた。
そのうちの一つ、何やらティッシュペーパーの箱のような物を手に取り、
「アーツ……ねぇ。__マルーンさん、このティッシュは何なんだ?まさか、ただのティッシュってわけじゃなさそうだけど」
と、マルーンにカナデは尋ねた。
「マルーンでいいわよ。カナデくん?……なかなか良いところに目をつけるわね。そのティッシュはその名も『激強アナシラズくん』!どんな強さで鼻をかんでも、絶対に破れない魔力が込められたティッシュよ」
「そのティッシュを手に入れたのはゴエティア南部のとある島でね。その島の悪魔はほぼ全員が花粉症に苦しんでいて、そのティッシュがあるかないかっていうのは死活問題だったの。そんな彼らからそのティッシュを入手するのは、凄く骨が折れたわ……」
「いや、別に強奪しなくても普通に譲ってもらえばいいんじゃ……」
凄さがイマイチ伝わってこない謎のティッシュをテーブルに戻し、カナデはその横のマグカップを手に取る。
「ウフフ、カナデくん、なんだかんだでアタシの商品に興味シンシンって感じじゃないの。カワイイわ!__そのマグカップはね、名付けて『のみごろマンマくん』!そのマグカップに注いだ飲み物は、ずーっと同じ温度をキープするっていうスグレモノよ」
「おっ、なにそれいいじゃん!コレは有用そうだな!」
「……でもね、飲めないほど熱いものはずーっと冷めないからいつまで経っても飲めないっていう欠点があるんだけどネ」
「……」
「ちなみにそのマグカップを手に入れたのは……」
「いやもう良いから!そのびっくりアイテムを手に入れた時の話!毎回やんのそれ!?」
と、カナデは叫ぶ。そんなカナデにペティが、
「まぁまぁ、カナデ。マルーンの持ってくるアーツはすっごく役に立つ良いものもあるんだよ!私はこの『ネリマザドッグスくん』か『靴ずれなっしんぐちゃん』のどっちかが良いと思うんだけど」
そう言って右手に犬のような鼻と耳がついている鼻めがねを、左手には物凄いデザインの靴を持っているペティは、満面の笑みでカナデに問いかける。
「ちなみに……その二つはどんな商品なんだ?」
「『ネリマザドッグスくん』は、このめがねをかけると犬になりきれちゃうの!鼻が良くなったり、耳を触ると気持ちいいんだよ!『靴ずれなっしんぐちゃん』は、絶対に靴ずれしないっていう靴!どっちも画期的だよね~、どっちも買っちゃおうかな……ねえ、カナデはどっちのが良いと思う?」
と、ペティはカナデに問いかける。その彼女の真っ直ぐな視線に負け、カナデは答えた。
「…………、『ネリマザドッグス』くん?」
「やっぱり!実は私もどっちかっていうとこっちかなって思ってたんだー!」
そう言ってペティはマルーンに代金を払い、犬のカタチの鼻めがねをかけて喜んでいた。
「__すげえ……どうでも良い……」
急激な疲労感に襲われ、カナデは客室を出ると、バタリ、と後ろ手で客室のドアを締め、カナデはその場を後にした。
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__その日の夜。
ペルが日が落ちても町から帰ってこないとの知らせをサラから受けたカナデは、町までペルを迎えに向かっていた。
「全く__ペルのやつ、普通はお子様は夕飯の前に帰ってくるもんだろうが」
そう言って悪態をつきながらカナデが町につくと、町の集落が何やらざわついている。
「なんだ?どうしたんだ皆」
「あっ……カナデ様!実は……」
集落の中にいた悪魔の一人によると、どうやらボランティアで焚き木を集めに行った子供達が夜になっても帰ってこない、とのことだった。
「焚き木を集めに行った子供達って……ペル達じゃねえか!」
「……って、何してんだよ、町の大人たちは!早く探しに行かなきゃマズイじゃねえか」
「いや、それが、先程から大人たちを三人一組で捜索に向かわせているのですが……子供達を見つけるどころか探しに行った大人たちも帰ってこなくて……」
「え……?大人たちが、帰って……こない?」
そんな馬鹿な。この町の近くにある森はカナデも町の復興の手伝いをする際に何度も木材等の資材を手に入れるために立ち入っている。いわゆるファンタジー作品によくある魔獣の蔓延る森、などとは間違っても言えない至って普通の森であり、危険などはないはずだ。事実、何度も立ち入っているカナデでさえも一回も危険な目にあったことはない。
「その探しに行った大人たちってのは……一人も帰ってきてないのか?」
「ええ、ですから現場は混乱していて……カナデ様に来ていただいてよかった、ぜひ、こちらへ」
と、その悪魔はカナデを仮住居のテントが多数張ってある集落へ連れていった。
「おお、カナデ様だ!」
「カナデ様が来てくださったぞ!」
「ああ、皆久しぶりだな。とりあえず事情は聞かせてもらったけど、大人たちが帰ってこないからって捜索を中断するわけにはいかねえ。__かと言って今まで通りに何の策も打たないで森に入るのは恐らく自殺行為だ」
そう言ってカナデは顎に手を当て少し考えると、
「……よし、じゃあこうしよう。今度は五人で森に入って、進みながら森に目印を付けながら歩くんだ。そうすれば最悪の場合森の中から帰ってこなくても、どの辺りまで探したのかはわかるだろ。何者かに連れ去られてるんだとしても、大の大人五人だ。そこまで遠くには連れていけないハズだろ?目印が途絶えた辺りを探せば見つかる可能性も高い」
と、集落の悪魔たちに提案した。すると、集落の中の悪魔の一人が次は自分が森に入ると、捜索隊に志願する。
「ああ、ありがとな。勿論俺も一緒に森に入る。皆、サクッと子供達を見つけて、どこにいるんだか知らねーが、森で寝てる大人たちも連れて帰ってこようぜ!」
カナデの号令と共に混乱していた場がまとまり、しばらくするとカナデを含み捜索隊が五人集まった。
「いやぁ……流石カナデ様だ。あれだけ混乱していた集落を一つにまとめてくださるなんて」
「いや全くだ。人間であるのにカナデ様は本当に素晴らしいお方だ」
と、森のなかに入り、木の幹に白い布を巻きつけながら進む、カナデ達捜索隊の悪魔たちが言う。人間界にいた頃から普段あまり褒められることに慣れていないカナデは、そういった悪魔たちの言葉にいいようのない気恥ずかしさを覚える。
「はは、褒めてくれんのは嬉しいけど森の中は何があるかわかんねえからな、皆油断しないようにしていこうぜ」
照れ隠しのようにそう言うカナデだったが、その言葉によりどこか気の抜けていた悪魔たちの背筋が伸び、目つきが真剣なものになる。
実際、森の中は真っ暗であり、カナデ達の持っているランタンが無ければ一メートル先も見えなくなってしまうだろう。普段から入り慣れている森と違って油断は禁物だ。そうでなくても、今は子供達と探しにきた大人たちが行方不明なのだ。用心するに越したことはない。
「あ、そうだ、この目印に使ってる白い布だけどさ、足りなくなったら俺も何枚か持ってきてるから言ってくれよな」
と、カナデは最後尾で白い布を木の幹に巻きつけている悪魔の一人に声をかける。
「……アレ?聞こえてるか?」
ふぅ、と溜息をつき、カナデは後ろに戻り、最後尾にいるはずの悪魔を探す。しかし、どこにもいない。__まさか。と思った次の瞬間、カナデは視線の端に木の幹にくくりつけられた布を捉えた。
暗闇でも目立つようにと白い色の布を目印として巻きつけていた筈だ。なのに、なぜ__
「__赤い……布?」
そこに巻きつけられていたのは、白ではなく赤に染まった布だった。
カナデは、恐る恐る木の幹に近づくと__
「う、うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ぬちゃり、と手に纏わり付く嫌な感触。木の幹に何者かの赤黒い血液が付着している。
そこにあったのは、首のあたりを何かに齧り取られたような跡の残る__悪魔の、死体だった。
オカマ口調でFPSをやるとイライラせずに出来るのでオススメです。やってみて下さい。