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未来予知  作者: 李人
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5.声まね

 待ちに待っていなかったテスト当日。

 二日間によって行われるテストの一日目は数学・社会・理科だ。

 テスト寸前の追い込み時間、教室には最後まで教科書を手に取ってる人や諦めてる人、それから……。

「ドラ●もん! 俺に暗記パンをおくれぇぇ!」

 ド●えもんを呼び出そうとしてる人がいた。

「橋本……」

「前回のテストでは読みが外れて大失敗だったんだよなぁ……でも今度はちゃんと勉強したぜ! ドラえ●んは神頼みみたいなもんさ!」

 ならもう少し声を押さえてほしい、そう思うが言えず。

 いつものことだ。

 俺は俺で最後の追い込みに取り掛かる。


 しかし、教科書に目を移したのも数分。

 先生が入って来てしまった。

「はーい! じゃ、数学始めるわよ!」

 先生の号令と共に周りの声が止む。

 用紙を配られ、開始のチャイムが鳴る。

   ***

 テスト一日目終了。

 帰って二日目の勉強をしなければ。でも一日目が終わった解放感からなかなか机から離れられず前席の橋本とテストの感想を話し合う。

「あー、数学難しかったな!」

「……俺は社会の方が壊滅的かも。明日の英語も不安」

「英語は難しいからねぇ」

 座っている自分たちの上から響く鈴の音の声。

 橋本の顔がどんどん赤面してきた。

「み、宮本さん!!」

「宮本……」

「やっほー、千君、橋本君」

「おっ……ぉぉお俺の名前、覚えて……」

「クラスメイトだからね、当たり前だよ~」

「……それより、どうしたんだ?」

「おお、そうそう。千君のこと、平山先生が呼んでたんだ! それを伝えようと思って!」

「……俺を? 分かった行くよ。橋本、宮本、また明日テスト頑張ろうな」

「ほいほーい」

 橋本、宮本に別れを言い、教室のドアを開けて職員室へ向かう。

 なにか呼び出されるようなことしただろうか?

 携帯? いやあれはとっくに怒られ済みだ。

 熱? あれは微熱ですらなかったんだから……。

 普通に頼みごととかだったら楽でいいんだが。

「千君!」

 パタパタと上履きが廊下を蹴る音がする。

 その正体は、聞こえてきた声で振り向かずとも知ることができた。

「どうした?」

「嘘だよ……!」

「なにが?」

「平山先生に呼ばれたっていうの、嘘なんだ」

「嘘?」

「千君がずっと橋本君といるから……その、話しようと……」

「それでわざわざ? 教室で話せばいいのに」

「ホオズキのことだから」

 “ホオズキ”の一言で身体に緊張感が走る。

 同時に次はなにの映像が見えたのか恐怖も感じる。

「また……見たのか?」

「見てない見てないっ! みんな集めて作戦会議しなきゃと思って呼んだの!」

「作戦、会議……」

 明日は苦手な英語のテスト。

 テスト特有の午前帰りを利用して勉強しようと思っていたのだが……。

「いいよ、しようか」

 みんなが出る作戦会議なら、俺一人出ないわけにはいかない。

 鍵部屋行こうかという宮本の後ろをついて行った。

   ***

 鍵部屋のドアを開き、「お先にどうぞ」と先に中へ通される。

 いつものように中へ入ると後ろから宮本が付いてくる。

 中を見渡すもいるのは俺と宮本のみ、まだ来ていないのか?

「柊たちは?」

『来ないよ』

 ガチャリと内側から鍵の締まる音がと共に聞こえた声。

「――――ッ!」

 背筋から冷えていく。

 勢いよく後ろを振り向く。


 ここに着くまで普通だったはずの宮本の瞳が、ホオズキによって光を失った色になっている。

 目が合った状態で、足元が凍りついた気がした。

「ホオズキ……いつの間に……」

『上手い声真似だったろ?』

「いつから?」

『“英語は難しいからねぇ”からだよ』

 始めから――――っ。

 全く気付かなかった。

 近くにいるのに分からない、それすらも恐怖に変わる。

『大丈夫、みんなの声真似なんてできないよ。後疲れるから、今回しか使わないよ』

「そこまでして、俺を呼び出したわけは……?」

『ちょっとお手伝いをしてほしくて』

「ホオズキの手伝い?」

『お礼は丁重にするよ。君の感情を引き出してあげる』

 感情を引き出してあげる。

 とても魅力的な言葉だと思える。表に出ることを拒み続ける感情を元に戻したい。

 笑いたい。怒りたい。泣きたい。でも。

「……いらないよ」


 ――お前は、無表情なんかじゃないよ。

「俺は、無表情なんかじゃないから」

『ほーぅ……』

「……なんだよ」

『いんやぁ? ただ、思った以上の反抗感のある言葉だと思ってね?』

「……受け売りだよ」

『そう? まあやる気がないならいいや』

 あっさりと諦めたらしく、宮本の身体から黒い正気のようなものが出る。

 傾き出す宮本を支えるが、支えきれず一緒になって尻もちをついてしまった。

 自分の胸の辺りに宮本の顔があり、距離はかなり近い。

 横にずらして顔でもぶつけさせてしまったら一大事だ、しかしこのままでは起き上がることもできずどうしようかと思っていたら、宮本がその重たい瞳を開けた。

「……んー…………せ、千君!」

「気が付いたのか、宮本」

「えっ、千君の上?! ごめんね、痛くない? どこ打ったの? てか重いよね、退くね!」

 近距離で俺の心配をしていると思ったら、焦って急いで俺の上から飛び退く。

 動きの速さにこちらが言葉を発するのを忘れそうだ。

「平気だよ」

「そ、そう……?」

「宮本こそ、少し赤くないか? ホオズキになにかされたんじゃ……」

「!!」

 宮本の頬に触れようとすると顔の赤みがより一層赤くなる。

 瞳が丸くなり、二度目の飛び退きが起きた。

「き、気のせいだよ、千君の」

「ならいいけど。じゃあ悪いけど、テストの追い込みしたいから帰るよ。また明日」

「うん、テスト頑張ろうね」

   ***

 千君が出て行って数十分。

 一人で鍵部屋の椅子に三角座りする。千君はもう外に出ただろうか。

 空気をいっぱい吸い込み吐き出す。

 そのまま深呼吸を二回。


「あああああぁぁああぁっっ!!」

 深呼吸でも顔の熱は冷めず思わず叫ぶ。

 千君と二人きりだった鍵部屋、それだけならまだしも。

 ホオズキの所為だとしても、あの近距離はダメだって。

 赤くなるな赤くなるな。

 熱引いて! だめだめだめだめ!

 こんな顔、誰にも見せらんない。

 顔が火照る。絶対だめ。

『なにがダメなの?』

「…………わざとでしょ」

 全身から今の今まであったはずの熱が消える。

 むしろ一瞬で心が冷えた。

 ああ、今出てきてくれたのは有難い……かな。

『人聞き悪いなぁ~』

 それに比べて、相手はいつも通り接してくる。

「なんでこんなことしたの?」

『嬉しくないのかい?』

「嬉しいわけないでしょ」

『そっ。ならまた現象送っちゃおっかな♪ 誰だったっけ、テストの邪魔はしないでって言ってきたのは』

「……テストの邪魔は、しないでよ……」

『あれはダメ、これはダメ。注文が多すぎるんじゃないのかい?』

「あなたに言われたくない」

『釣れないこと言うなよ』


『僕たちは、一風変わった友人だ』

「……………………あなたなんかになにが分かるの」

『嘘吐き偽善者なんかに言われたくはないよ』

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