3.宮本とホオズキ
「今日も勉強会するべ~!」
宮本がそう叫んだのと、予知が起きたのはほぼ同時刻だった。
――――――…………。
「なに……これ……」
「今の見た人、手上げて」
宮本の言葉に手を上げる。
今回は全員見たようだ。
「今の、どう思う?」
「校舎が……崩れてた……?」
「見た目から言うとそのまんまだな」
校舎の壁が崩れる様子。
しかし、問題点が一つある。
「こんな壁の校舎、あったっけ……?」
現象で見た校舎は外階段があり、二階までしかない。
そんな校舎、桜ヶ丘高校にはないと思うが……。
「手分けしてこんな校舎がないか探してみよう」
「歩夢……?」
「ホオズキの仕掛けだから崩れないかもしれないけど、崩れたら大変だよ。もし人がいたら……」
顔が青ざめる。
もし崩れた校舎の下なんかにいたら……。
「探そう」
急いで探してみよう。
学校内で怪我人なんて出たらもうすぐ訪れる学園祭にも影響が出る。
「気を付けてねみんな!」
***
外に出て手分けして探し回る。
四階まであるうちの学校に、二階の校舎なんてあるのだろうか。
「……千君が?」
曲がろうと思ったその先で声が聞こえる。
千なんて名前そうそういない。
もしかしたら自分のことだろうか?
自分のことだと思うと内容も気になってしまうのが人間のというもので。
こっそりと声が聞こえる方を覗いてみる。
『外にみんなを出させたのだって、僕と話す時間を稼ぐためだろう?』
「分かってたんだ」
『もちろん、君のことだからね。そうじゃなかったら僕と話したがってた君に、話すチャンスなんて与えないよ』
「じゃあ単刀直入に言う。……違うよね。この映像の景色は、この世界のものじゃない」
『わあ鋭いね。パチパチパチ~』
「ふざけないで」
『ふざけてなんてないよ? 歩夢に懐かしい思いをしてもらいたくって。見覚えある校舎ではあるだろ? それに、』
『……ただ、どんな顔をするかなって』
「顔……? 誰が……?」
『さっきも言っただろう? 海上千だよ』
「千君は……っ」
『分からない? じゃあ本人に聞いてみようよ。ね、いるんだろ?』
俺がいると確信しているホオズキに肩が飛び上がる。
バレていた。見つかっていた。
冷や汗をかきながら一歩前へ、曲がり角の向こうへ進む。
「千君なんで?!」と宮本は驚いている。
『ねえ、海上千? 君、表情が分からないんだろ?』
『僕たちは表情がないようになってるけど、君はそうじゃない。でも、似たようなものだよね』
聞きたくないのに、自然と頭に入ってくる。
頭の中で消化しきれないホオズキの言葉が流れ続ける。
『分からないのと、初めっからないの。ねえ』
『僕たちって似た者同士だよね』
そうだろ?、と続けるホオズキの前に宮本が言葉を挟む。
「止めてっ! 千君はあなたたちなんかとは違う! 全然違う!」
「……宮本」
「ね、走れる?」
質問に答える間もなく宮本が走り出す。
手を引かれているため、一緒に走り出すことを余儀なくされた。
***
「ごめんね、千君。巻き込んじゃって」
「いや、盗み聞きしてたのはこっちで……」
しばらく走り続け、ホオズキのいた地点からかなり距離を置いたところで手が離される。
息が絶え絶えになってしまったので、深呼吸をして息を整えた。
そして気になるは、宮本とホオズキが話していた内容。
「宮本は、なにを話してたんだ?」
「……ぇーっと……」
少し濁って声をモゴモゴしながら。
「……千君には、まだ関係ないこと」
そう、はっきりと宮本は呟いた。
「……まだ?」
「うん、まだ」
「いつかは、話せるってことか?」
「いつか……その時が来たら……そう、だね。うん、きっと」
簡単に言いくるまれてしまった。
そこまで気にすることではないのだろう。
胸のざわつきを抑えながら解釈する。
「千君のところはあんな校舎あった?」
「……ないよ」
「そっかぁ! わたしのところもだよ!」
――この映像の景色は、この世界のものじゃない……。
宮本は、初めから知っていた……?
「他はどうなんだろうね」
それでも誤魔化そうとする。
この世界のものじゃないと知っていたのなら何故外へ出た?
――外にみんなを出させたのだって、僕と話す時間を稼ぐためだろう?
ホオズキと、話すため……?
宮本とホオズキは密接な関係がある?
ならば友達になろうと言ったあの言葉も。
いつも明るかったあの笑顔も。
全て、偽物……?
宮本を目の前にして不穏に胸が高鳴る。
そうだ、騙されたのなら騙されたでいい。
いつか本当を教えてくれるまで、知らない振りして騙されよう。
その方が性に合っている。
「そろそろ合流してみようか」
宮本の前をゆっくりと歩き出す。
「………………ありがと、ね」
「どうした?」
聞こえない振りして聞き返す。
きっとなんでもない、と言うのだろう。
そのお礼は、なにに対しての――――?
結局、校舎の映像は実際の起こることなく今日、明日と一日一日が無事に終わった。
「あれだな、多分……映像を見せても、絶対に起きるとは限らないということだ」
柊が今回の予知においての分析をしてくれたらしい。
「起きない場合もあるってこと……?」
「実際に、校舎の件は起きなかった。ニュースを見ても、どこかの校舎が崩れたなんてのはないから」
「……そっか」
「でも、実際に起きなさそうなことでも見たら絶対報告! ね!」
「分かってるよ」
報告することを宮本は主張している。
俺もそれには賛成だ。
どんなものを見せられるのかなんて分からないけど、未来が見れるだけ。
そんな簡単な枠に当てはまるような気がしない。