2.気になるモノ
「……まだ……終わってなかったんだ……」
佐藤の声が震える。
無理もないだろう、あんな目にあって死ぬとも言われて、ホオズキに対する気持ちは少なくとも俺より強いはずだ。
「佐藤、大丈夫だから」
すかさず佐久間がフォローする。
「……ぅん……」
「一先ずクラスに急ごう。あと五分で予鈴だ」
「!!」
柊の一言に時計塔を見る。
門には入っているがクラスまで行くとなるとギリギリになってしまうだろう。
「急ごう!」
一足先に走り出す宮本を追いかけるように全員で走り出した。
***
ヴーヴー。
低い音を上げて携帯が震える。
先生には……気付かれなかったようだ。よかった。
メールを開き宛名を確認する。
………………宮本?
斜め前の方にいる宮本をチラ見すると丁度目が合った。
≪他に見たホオズキの未来予知ある?≫
メールの本文にはこの一言。
佐藤と佐久間が転けるのを見ていたのは言った方がいいか。
≪俺はない≫
柊からの返信。
どうやら全員に一斉送信していたらしい。
≪見てないよ(´・ω・`)≫ ≪見てない≫
続いて佐藤、佐久間からの返信も届いた。
≪千君は?≫
返信の催促が宮本から出される。
≪佐藤が佐久間と転ける前、佐藤が転ける姿を見た≫
≪じゃあ海上が一番初めに体験したんだな≫
≪他にどんな未来が見せられるのか……ちょっと怖いね≫
≪その予知で見たこと、どんな内容でも全員に話す。これを条件にすれば大丈夫なんじゃないかな?≫
≪どんな条件でも?≫
≪そうしたら、みんなで共有できるし不安も半減するんじゃないかな≫
≪うん、そうだね!(*´▽`*)≫
さすが、宮本。
佐藤の不安も軽減されたであろう。
≪海上、携帯隠せ≫
…………?
いきなりの俺宛のメール。
「こーらっ、海上君!」
それと同時に、急に視界が暗くなり自分の名前を呼ばれる。
右手に持っていた携帯が取り上げられた。
何事かと思いきや、担任の平山先生が俺の携帯を持って目の前に立っていた。
しまった……。
「……すみませんでした……」
≪柊、一足遅かったぞ。もう取られた≫
≪……そうか≫
こんなメールが続いていると知ったのは、授業の後だった。
***
「あはは、千君!携帯に集中し過ぎだよ!」
「……誰の所為だと……」
「うんうん、わたしの所為だ!」
結局、手元に携帯が返ってきたのは放課後。
あの後も俺以外でメールのやり取りは続いていたらしく、返ってきた携帯のメール受信箱には四人分のメールがたっぷり溜まっていた。
「もう少し早く映像が見えていたら、早く伝えられたんだけどな」
「……柊は、悪くないよ」
「そうなのか?」
「直接言おうと思ったんだけどね、わたしと透君もさっき予知見たよ! ね?」
佐藤の声かけに佐久間が頷く。
「……内容は、宮本が“なにかを言っている”というものだった」
「わたしが、なにかを……?」
「うん。黒い靄みたいのなのが邪魔で表情とかは分からなかったけど……」
「黒い、靄?」
「映像に黒のペンキをところどころにぶちまけたような、そんな感じの」
佐藤と同じその映像を見た佐久間が言葉を繋げる。
「今まで見た中で黒い靄が入るなんてなかったけどなぁ……それに話すことなんて……」
少しだけ考えるポーズを取ってから宮本が口にした言葉は、
「心配事って言ったらテストかな? 予知でテストの解答用紙でも映らないかなぁって」
「勉強しろ」
「もうっ! 優秀者きーびーしーいー!」
「勉強見てやるから自力で頑張れ」
「要人様ありがとうございます……!」
現金なやつ……。
心の中で少し羨まし感もありつつ、そう思う。
俺だって。
俺だって……なんだ……?
その続きを、どう繋げようとしていた……?
「千君もやるでしょ?」
「え?」
「まーた聞いてなかったんでしょ! 部屋での勉強会だよ、要人先生のね!」
「先生ってほどでもないけど……分かりやすく説明できるよう努力する」
「……参加する」
「じゃあ早速、明日から勉強会スタートだっ!」
***
「せんせぇ……ギブアップゥゥゥゥゥ」
昨日の勢いはどこへやら。
開始十分で机の上にぐったりと身体を預ける宮本。
「おーーい」
宮本に活を入れる柊の服の裾を佐藤が軽く引っ張る。
「か、要人! ……ここの問題なんだけど」
「お前はよく頑張るな」
「だって、成績悪いんだもん。わたし……頑張らなきゃ」
否が応でも成績に反映するテスト。
一番進級に反映してしまうのは進級試験という一月に行うテストだが、他のテストの成績でも進級には関係してくる。
テストを頑張るか怠るかで進級した時のクラスがガラリと変わる。
一組から二組に属する生徒は進学組。三組以降は普通組。
進学組・普通組別のクラス内は成績が平等になるよう考えられている。
しかし、テストの結果により進学組の人が普通組に落とされることも、その逆が起きる可能性もある。
「香穂の成績が悪いのってテストだけじゃなくてよく学校お休みしてたのもあると思うんだよね」
「…………歩夢?」
いつの間にか復活した宮本が会話に入ってくる。
「よく知ってるね。わたしが学校休みがちだったって」
「知ってるよ~。香穂には温かい言葉ですっごく助けてもらったからね!」
「…………助けた……? わたしが?」
「……覚えてないっか!」
いつものように笑う。笑う。
少しだけ眉を下げて。
「気にしなくてもいいよ! さあ、勉強会再開しようか」
この顔の宮本は、凄く気になる。
それでも、言葉にすることを許されないのは何故だろう。