6話 2人組の男
主人公でないゲルムの過去編ですが、そろそろクライマックスです。主人公出してあげないと…
私は涙を拭いだ。
太ももが悲鳴をあげている。疲れ切っていた重たい脚を一歩、二歩と前に進ませた。
(博士…無事でいて…)
これ以上何かを失うのは嫌だった。最愛の両親を失った私はこれ以上何も失いたく無かった。
何も…
ゲルムが家を出た時には、既に"2人組"は博士の研究所に着こうとしていた。
「彼処に見える物騒な建物か…」
「そうですぜぇ兄貴。案外早く見つかりやしたねぇ…」
「喜ぶのはまだ早い」
2人組は博士の研究所に辿り着いた。
「ここか…」
弟と思われる男の方がドアノブを回しドアを押した。だが開かない。
何度が試みるが一向にドアは動かない。
「兄貴…開きやせん…鍵を落としてますぜぇ」
弟は悔しそうな顔で此方を見る。呆れたやつだ。
ドアには大きな字で【引く】と記載されている。
「その字をよく見ろ」
文字に指をさす。
弟は指先を見て、何かにハッと気付きドアに手を掛けた。だが開かない。
此奴は大馬鹿だ。ドアノブを押している。
「俺が馬鹿だった」
ドアノブを回し引くと、ドアが開いた。鍵は掛かっていなかったらしい。
「最初から兄貴が開けてくだせぇいよ」
呑気な奴だ。
ドアの付近には、物が散らかっている。床が顔を出していない。
「汚い部屋ですぜぇ…」弟はそこらのガラクタを手に取った。
「むやみに、触るな。罠だったらどうする」
「兄貴は用心深いですぜぇ…なんかあれば俺がぶっ壊すのみ」
此奴は大馬鹿だが、力では右に出る者がいない。そこだけは認めている。
弟は、ガラクタを放り投げた。 ガラクタは宙を舞い、何かにぶつかった。
「ほら何も無かったですぜぇ」
「お前はそこで静かにしておけ」
小さな音だが、ガラクタを投げつけた方から何か聞こえる。
チッチッチッ…
(爆弾だ)
ここで爆発すれば、無事では済まない。音は次第に大きくなる。
「伏せろ」
俺は弟の頭を床に押し付け、姿勢を低くした。
音は静まった。
≪爆発音≫
は無かった。
頭を床に押し付けた時に気を失った弟に一瞬目をやり、俺は"何か"に近づいた。
そこには、'美少女アニメのキャラクターの目覚まし時計'が、転がっていた。
少女は此方を見て、
「朝だよぉぉおおお、昼だよぉぉぉぉおお、夜だよぉぉぉおおお」
と繰り返し踊りながら鳴っている。
俺は舌打ちをし、'ガラクタ'を踏み潰そうとした。
「そこで何をしている」
そこには、汚い白衣を身につけた老人が立っていた。
俺はガラクタを蹴飛ばし、老人に目をやった。
「あんたが、博士か」
老人は時計に目をやる。少女は声を失っていた。
「そうだが…君は電化製品の修理を頼みに来たというわけではなさそうだな…」
その頃、ゲルムは博士の家に辿り着いた。
足は断末魔の声を上げている。汗も次々と流れ出る。髪の毛も怒りで逆立っている。
「博士… 」
私は博士の家から持ち出した"片耳のカチューシャ"を強く握り締めた。