4話 師との出会い
『生命悪魔』
私達の種。それは、地球に人類が誕生した時にかかる多量のエネルギーによって構築され、生まれたもう一つの生命。 人類と瓜二つの生命体。だが、人類は私達生命をあの世の魔物の使い魔として忌み嫌った。
私達種族は何百年。何千年と時を重ね、人間の何百倍、何千倍の知識と力を手に入れ、地球に似た異空間を作り上げ、そこで植物を育てたり、家畜を飼育したり、都市を作り上げたり、家族を持ち、そしてそこで平和に暮らしていた。
だが、当たり前の空間はそう長くは続かなかった…
"戦争だ"
平和な世界を望んで人間界から後を去った私達が争いを始めた。
それが一部の過激な種族による人間への反感から始まったのだ。 だが、それは大昔の事であって、人間界で私達の存在を知る者は年を重ねる度に少なくなった。
そして人間界への出入りを禁ずる掟が成立された。 勿論反感する者も現れた。
段々と街や村が荒れ果て、私達生命が生きる環境は失われ、毎日誰かが死ぬ日々を過ごしていた。
まだ当時子供だった私もいつ殺されるか分からなかった。水も中々手に入らない程廃れてしまった村で、井戸の水を引きに行くのが私の仕事でもあった。
井戸の前に男がいた。
男は消化器に似た様な物を背負い、頭には導線が沢山付いていてピカピカと点滅しているヘルメットを装着し、黒ずんでいる白衣を着ており、両手には、小さなクレーンの様な物を両手に握りしめていた。年齢は50から60ぐらいだろうか?
(この人は一体何をしているのだろう)
当然の疑問だ。朝っぱらからこんな所で油を売っている奴がいるか。目の前にいるのは事実だが…
「何をしているんですか?井戸の水を汲みたいのですが…」
男は私に気づいた。
「いやぁすまない。すまない。井戸の中におでんを落としてしまって困ってたんだよ。私は特に卵が好きでね」
(バカだ)
私は昔から変な奴によく出会う。この前だって、腹の調子が悪く、公衆トイレに駆け寄った時に、数人の男共が民族踊りをしていた。
流石にやばいと思ったが、雰囲気に飲まれて一緒に踊っている内に目的を忘れて漏らした事があった。当然漏らした事は直ぐ周りにばれ、何も無かったかの様にスーッと人気がなくなり、その時から変な奴と絡む事は避けてきた。
だが、今日は1人だ。
(おでんを落とした?そもそも何で井戸の近くでおでん食べてんだよ。それに卵だとそりゃ球体だから落とすかもしれないけど!)
なんてツッコミはできないが。
男は落ち込みながら、
「はんぺんまだ一口も食べてなかったのに…」
「卵じゃないんかいぃぃ!」
私は壮大にツッコんでしまった。こんな筈では無かった。それより、私は男の姿をツッコミたかった。
私は井戸の水を汲み、立ち去ろうとした。
少しだが男は何をしているのか気になったので、尋ねた。
実験をしていたそうだ。私達生命悪魔同士の争いを終わらせ、過激な種族による支配から守る為の実験を。
「私は君達の様な純粋な心はとても素晴らしいものだと思っておる。こんな争いは馬鹿馬鹿しい。争いなど何も生まない。憎しみ、怒り、を軽視してはいけないのは事実だ。だが行き過ぎると却って生むのは後悔だけだ。この街も嘗ては長閑で、住み心地が良かった。私達は悪魔と言われてきたが、私達自身は少しずつ変わってきた。誰しもが、また元の普通の生活に戻れる事が私の夢だ。」
男はポケットから何かを取り出した。 爪楊枝だ。どうやら歯に何か詰まっていたらしい。
(今年で最も残念でしたで賞最優秀賞おめでとうございます)
男は歯に詰まっていたのを処理し、ポケットの使用済の爪楊枝をそっと直した。
「少年名前は?」
「ゲルムだ」
「ゲルム。ほぅ、良い名前だ。私の名前はグレイだ」
私と私の師であるグレイ博士との最初の出会いである。