3話 留置所
こんなに暗い所は初めてだ。この世界に来てから。
「無い」
大柄な男は何かを探している。この何も無い留置所の中で。
(此奴は何を探しているのだろうか?)
男は立ち上がり辺りを探している。私よりも身長は高く筋肉質で年も私よりも4,5歳上だろうか?
私は彼の事を知らないし、私自身も"ある男"を求めて返討ちに会ってここにいる。私の力を使えばどんな所でも抜け出す事ができる。
そうそう私の名前は ゲルム。 犬耳のカチューシャがトレンドマークで、犬耳の力を使えばどんな事でもやってのける。 けれど、その装飾品も今ここには無い。やはり何処かに置き忘れたのだろう。あれが無いと人間と契約を結ぶ事ができない。大変大切な物である。
(ここから逃げ出さなきゃ)
師匠から聞いた事がある。 人間は多くの決まり事がありそれを保ちながら生きていると。
師匠は既に亡くなっている。
これはまだ真相は明らかになってはいないが、恐らく人間に殺された。
そいつの手掛かりを掴めるのでは無いかとこの人間界にやって来た。
私は食料が欲しかった為匂いを辿り、あの青年に近づいた。 だがどう話せば良いのか分からず、取り敢えず尾行していたらこのざまだ。 あれから何も飲んでいない。勿論何も食べていない。あの水さえ持参出来たら良かったが…
前の巨体の男はまだ探している。俺もすぐにでも探しに行きたいのは山々だ。男は私よりも先にここにいた。
何をやらかしたのか知らないが、特に追求はしない。
「お前。俺のカチューシャを知らないか」
男は俺に、話し掛けてきた。
「知らない。奇遇ね。私もカチューシャを探してい…」
私は男に尋ねた。
「カチューシャって頭に付ける装飾品ですよね?」
私は何を聞いている。かなり失礼なんじゃないか。この男がカチューシャを付けるはずが無いだろう。
似合わなさすぎる。多分違う物だ。バイクに乗る時とかに付けるのとか。それはヘルメットだ。この男がカチューシャを付けている姿を想像すれば地獄絵だろう。
「そうだ。猫耳だ」
私はこの場にお茶があれば、お茶を噴き出していただろう。猫耳って。流石に付けるとしたら犬耳だろう。
飲んだ水が反芻してはき出しそうなのを堪えた。この世界に人間が普段から猫耳を付けているとは考えにくい。普段から…
私は確認したかった。私にも時間が無い。こうしている間にも体が消えかかっている。人間界では人間と契約しなければ私自身の存在が亡くなってしまう。
「貴方も生命悪魔なんですか?」
生命悪魔とは私の事を指す。読み方は『ライフデーモン』私は自らの種族をこう呼ぶ。
だが私達の住む世界には猫耳は無い。犬耳が主流で、犬耳にも種類がある。私はドーベルマン系統の種族である。
「生命悪魔?それは何だ。俺は知らない」
俺の勘違いだったか、この男は好きで付けていたのだろう。この時間を返してくれ。
だがこの男は何処か懐かしい感じがする。何処か…
「違うなら問題無い。忘れてくれ。それに名前はまだでしたね。私の名前はゲルム。ここで会ったのも縁だろう。よろしく」段々と手先の感覚が薄れてきた。消えるのもそう長くは無さそうだ。
男は口を動かした。
「俺の名前は、ダスク」
私はその名前を知っていた。 嘗ての師が人間界で最初に契約した…
男の名だ。