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双子の祖父である某国の王視点:
「ハルスタッドの血を引く王女を欲しがる国はいくらでもいるというのに、愚かな男だ。せっかく、親が女で道を踏み誤らないように用意した結婚に意地を張った挙句、危惧通りに道を誤るとは先代国王もあの世で胸を掻きむしっていよう」
フェイトとアスバルの主はそう言うと、人の悪い笑顔を浮かべた。腐った部分をそぎ落とし、旨味のある部分をごっそりと手に入れる手段を思いついたのだ。
ハルスタッド一族のような魅了の力を持つ妃を宛がうことで、悪女に誑かされて国や王家がなくならないように各王家は躍起になっている。本人が女を操縦できるとわかっていれば、そうでもないが、そうはいかないのが世の習い。
正妃を含む複数の女たちを競い、争わせ、バランスとれるだけの才覚があったとしても、政務や人徳がなければどうしようもない。絶対的な権力で反乱を抑え込めない限り、まずは政務ができるか、できる内政や外交の部下を見出して信頼を得なければいけない。と、なると女の戦いは後回しにできるように、とハルスタッドの血を引く王女との婚姻を済ませ、無駄は火種を娶らないようにするとなる。
だが、ハルスタッド一族の血は混血すれば大抵、3代目にはその能力も特徴も失くしてしまう。王子と王女は祖母がハルスタッド一族で、次代にはその特徴を伝えない。
王女はハルスタッド一族の特徴が出る最後とは言え、ハルスタッドの血を引く王女だ。
この国以外の王女でハルスタッドの血を引く王女がほとんどいない中では貴重な存在。それすらも手放さなければいけないことが、どれほど内政にガタが来ている証拠なのか、自らの幸運も親の願いもあの若造には理解できていないらしい。
理解できている者があの国に残っていれば、王女の引き渡しなど行わせなかっただろうに。
ハルスタッドの血を引く王女を欲しがる国との交渉に使えるということがどれほど重要なのか。
我が国以外でそれが行えるのが、どれほどのものを齎すのか。
既に他国との関係など考えていないあの国にとっては、外交上の切り札となる王女の婚姻など吹けば飛ぶような価値しかないのだろう。
王子に対する扱いを見ても、我が国に対する非礼になるとは考えてもいないように、あの女は世界には自分の国しかないと思っている。
流石は、身分の低い女の考えることだ。外交までは頭が回らないとは、らしいと言えばらしい。
どの国も自国の利益が一番。次に共通した意識を持つ国と手を組んで、数の多数決を乗り切るのだ。
批難されないように、誰が見ても正しいことに笑顔で賛成したり、な。
そんなこともわからない自己中心的な女の言いなりの国は緩やかに死んでいく。人も物も金も、豊かなところへと流れて行くことも知らない女の言いなりの玩具の王国。
さて、子どもに危ない玩具を与えていては、火遊びで多くの者が火傷する。どうにかしなければな。
例えば、王子の外祖父が王子とその妹王女に対する待遇を責めても、諸侯も、諸外国も反対すまいて。