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ブランシェを迎えに来た男・フェイトに連れてこられた場所には、同じ血族の男・アスバルに連れてこられた黒髪の少年がいた。髪の巻き毛はここにいる誰よりもきつく、その髪はパサついて艶もない。
「はじめまして、ブランシェ」
長い睫毛に隠された目はガラス玉のように感情のない。挨拶する少年の雰囲気にブランシェは飲まれてうまく言葉が出なかった。
「、は、はじめまして」
少年の名前も聞いていなかったことに思い当たったが、それよりもフェイトに急かされ、4人は城を出て行った。
少年はリュミエールという名で、初めは幽閉されたブランシェを引き取りたいと母方の祖父はブランシェの父親に交渉したらしい。
だが、腐ってもブランシェは王女だった。
そう簡単に城から出されることはない。
交渉を続けるうちに、祖父はリュミエールの噂も手に入れた。
正妃の周辺では秘密裏にしようとしていたが、ブランシェを引き取りたい祖父の密偵はリュミエールの置かれている環境も探り当ててきた。
いくら王の寵愛を一身に受ける女性とは言え、ブランシェとリュミエールは前正妃の忘れ形見。今の正妃は前正妃が死ぬ前は王が望んでも正妃にはなれぬ身分の低さから、第二妃と呼ばれていた女だ。
王の愛する女性とは言っても、王太子にあたるリュミエールに対する非礼の数々は処刑されても仕方がないものだった。
王が正妃を咎めなくても、王太子の祖父からすれば処罰しなければ気がすまない。
そこでブランシェの祖父は孫娘だけでなく、孫息子も引き取ることにした。
ブランシェの祖父の使者からブランシェだけでなく、リュミエールの状況を突き付けられた王は二人を引き渡すことに了承するしかなかった。その代償は最愛の妃の命だったから。
こうして、ブランシェとリュミエールは母親の血縁の男たちフェイトとアスバルに連れられて、祖父の下に向かうことになった。
子どもたちとその兄弟と思わしき男たちの4人連れの旅で、ブランシェは見知らぬ場所でのストレスから心寂しくなり、何度も泣いた。その度に、フェイトとアスバルはブランシェとリュミエールを抱き締めてくれた。
だが、リュミエールはブランシェのように彼らに抱き締められるのを好まず、暴れた。
初めはブランシェと一緒でも嫌がっていた。
ブランシェが触れようとするのさえ、振り払う始末だった。
ブランシェにはそれが悲しかったが、フェイトとアスバルは二人とも悪くないんだと言い、二人を抱き締めてくれた。それはまるで、父親と母親が与えてくれなかった温もりを少しでも与えようとしているかのようだった。
旅が終わりになる頃、リュミエールはブランシェが触れることも嫌がらないようになり、フェイトとアスバルに大人しく抱き締められるようになった。