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ブランシェの世界は部屋の中だけだ。
窓から見えるすべてはブランシェの父親のものだという。あの綺麗な庭園も、花も、山も、美しい城も。すべてが父親のもの。
しかし、ブランシェは父親とは顔を合わせたことはない。
ブランシェが知っている人間は、身の回りの世話をする二人の侍女だけ。
そんなある日、一人の男がブランシェの部屋を訪ねてきた。
ブランシェと同じ黒い巻き毛の男は窓の外に見かける男と同じようなきらびやかな服を着ているが、それよりも気になったのは滲み出るような何か。
その何かは甘ったるいような、立ちくらみを起こしそうな気分を起こさせる。
「ブランシェ姫でいらっしゃいますね」
断言したその口調にブランシェはすぐに頷けなかった。
自分の侍女たちの姿がないか目で探す。
「私はブランシェ姫の御母上の血縁に繋がる者です」
ブランシェに母親の記憶はない。母親はブランシェを産んだ時に亡くなったからだ。
母親の命を奪ったブランシェを父親は見たくなかったのだろう。
すぐにこの部屋に乳母と今の侍女二人とともに追いやられた。と、昨年、亡くなった乳母は言っていた。
だが、ブランシェには男の言うことが本当のことだとわかっていた。
ブランシェも男と同様に黒い巻き毛をしているから。憂鬱そうな目をしているから。
「お母様に繋がる者が何の用?」
「お母上の父君が、姫と若君の現状を聞き、引き取りたいと私たちを派遣いたしました。こちらに関しては、御父上にも御了承頂いております」
現状を聞いた母方の祖父が引き取るということにブランシェは首を傾げた。
思い出すのは乳母の言っていた「正妃様がお産みになった王女様にこのような仕打ちをして、あのボンクラ国王が!」との独り言。
「引き取る? どうして、私を? 待って。若君というのは誰?」
「若君は姫君の双子の片割れにございます」
「私の片割れ? 私は双子だったの?」
母親を死なせたからこの部屋に閉じ込められていると思っていたブランシェは、自分が双子だったことを初めて知った。
「はい。姫は閉じ込められましたが、若君は御父上の長男。御父上の現在の正妃様がご養育をなさっておられます」
「その、私の兄か弟の待遇も悪いの?」
男はブランシェの質問に黙って頷いた。
子細はブランシェにはわからないが、幽閉されて育ったブランシェよりも御父上の現在の正妃様が育てた兄弟のほうが待遇が悪いことはわかった。
「わかったわ。私の侍女たちは無事?」
「はい。彼女たちは既に侍女の任を解かれました。あとは姫がここをお出になるだけでございます」
周りが既に父親の意向で動いているなら仕方がない。
ブランシェは男に従うしかない。
「わかりました。あなたに付いていきます」