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思いつき短編隊

農耕勇者の手紙

作者: みいそやえ

 親愛なるリザへ 

 

 


 ウィズモスもすっかり暑くなってきたがお前はどう過ごしている?

 

 俺はまぁ元気でやってる。


 信じられないだろうが、本当だ。


 この手紙をお前はビックリした顔で見てるだろうな。


 その姿が目に浮かぶようだ。


 気づいてなかっただろうが、お前は驚くと手を口に当てる癖がある。


 今、そうしているだろう。気づいたか?


 なんてな、こんなバカなこと伝える為に俺は手紙をしたためたんじゃない。


 本題はここからだ。 



 知ってるとは思うが、15の時俺は勇者に選ばれ旅に出た。


 俺が出発するまでお前はよく「ウチのお兄ちゃんは勇者に選ばれた」なんて友達に自慢していたな。


 お前が俺のことを誇りに……は言いすぎだとしても、一人前の男として見てくれているのは嬉しかった。


 その期待に応えられなかったのは残念でならない。


 本当にすまなかった。


 勇者の家族には国から毎月補助金が出る。


 それが先月断ち切られたのは俺が勇者じゃなくなったからだ。


 

 ごめんな。


 ひょっとしたらお前は今まで「俺が勇者を辞めた」、なんて信じてくれていなかったかもしれない。

 

 何かの手違いだと、信じてくれていたかもしれない。


 自惚れかもしれないから、間違っていたら蔑んで笑ってやってくれ。


 そうじゃなかったら……許してくれとは言わない。



 俺が勇者を辞めたのは……いや、辞めざるを得なくなったのは魔王に負けたからだ。


 それもただ負けただけじゃない……。


 これからの話はショックだと思うが、読んでくれ。


 お前は事情を知りたがっていると思う。


 俺はいわゆる「タイムアタック」に挑戦していた。


 いや、語弊がある。

 

 挑戦させられていた。


 俺を導くプレイヤ神によってだ。


 

 勇者は神々の加護を得て、その冒険を達成できるようになっている。

 

 全滅しても教会で蘇ったり、自分を好きな名前に変えたり……信じられないだろうが、本当だ。


 俺は一度「ああああ」と皆に呼ばれていたことがある。誰も不思議に思わないのだ。


 パーティーの皆に名前を呼ばれるたび、奇声が聞こえるのに耐えられなくなり、金を払って戻してもらったけどな。


 ほんの思いつきだったのに、まさか罰金まであるとは思わなかったよ。


 ちなみに卑猥な言葉は試していないから、安心して欲しい。


 お兄ちゃんは、健全な男だ。



 バカなことを書き過ぎた。話を元に戻す。



 とにかく俺は神の声に導かれ、冒険していた。


 その声に従っていくと、全てが上手くいった。


 そう、全てだ。


 例えば洞窟に分かれ道があるとする。すると必ず声が方角を教えてくれる。


 その通りに進むと行き止まりに合うことなく、ボスに会える。


 しかしそう急いで旅をすると弊害もある。


 戦っていくうちに、俺は自分には基礎的な戦闘経験が足りないと何度も実感した。


 なんせボスと戦うとき以外は、全てスコタラ逃げていたからな。


 しかし、神の言う道具や、戦術を駆使すると面白いくらいことが上手く運んだ。


 いつしか俺はこのまま進めばすぐに冒険を終えられ、お前の元へ帰れるんじゃないかと喜んで受け入れるようになったよ。



 さっきも書いた通り、上手くいかなかったけどな。



 そう、最後の最後でしくじった。俺は魔王に勝てなかった。


 そして……魔王は激怒した。


 今でも夢に見るよ。言葉も一語一句間違ってないはずだ。



「なんだそのふざけた戦術とレベルは!わしにレベル5キルはきかないぞ!!」


 ああ、書いてなかったが対ボス専用の俺の戦術を教える。


1 一定時間俺が無敵になる、ヤバイ薬を飲む(副作用があり連続使用は不可能。クソ不味い)


2 敵のレベルを上げる、これまたヤバイ薬を何度も敵にぶっかける(自分には効かない。試そうとも思わない臭いと色だ)


3 神が頃合を教えてくれるので、そのタイミングで群青魔法「レベル5キル」を発動する(これはレベルが5の倍数の敵に効く、即死魔法だ)



 しかしこの戦法はヤツに効かなかった。


 ボスは皆これで倒せたんだが……魔王という存在は特別らしい。

  

 俺が2の薬をヤツにぶっかけている時の正気を疑うような目はトラウマだ。



 で、まあ負けたんだが、話はここで終わらなかった。



「よくもまあこんな戦術でここまで来たな!貴様には永遠に苦しむ呪いをかけてやろう!

 神の摂理も知ったことか!ここまで馬鹿にされて、わしがおとなしく再挑戦を待つなんて嫌だわい!」


 そう。呪いだ。


 俺は今最弱の状態だ。たぶん冒険を始めた時の状態に戻ってるんだ。


 そして……ここからがもっと最悪だ。


 俺は強くなれない。


 魔王の言う、「永遠に」だ。


 試しに最も弱いとされる敵を200体ほど狩った。

 

 今までのように、急に成長を実感できる瞬間は何度狩っても訪れなかった。



 これが呪いだ。


 俺は国から勇者の称号を剥奪された。




 しかし、冒頭でも書いたが、今俺は元気だ。


 いよいよその理由に触れる。長くなってすまない。もう終わる。

 

 俺は今、とある村の厄介になっているんだが……村の住民から農耕を学んでいるんだ。


 何を耕すか……ひょっとしたら聡明なお前には既に見当が付いているかも知れないな。


 そう「筋力モリモリの種」だ。


 俺はこういうアイテムをとっておくタイプなんだ。各種揃っているんだぜ。


 今俺は本当に充実しているよ。なぜだかわかるか?


 初めて自分の意思で勇者として動いているからさ。


 神の声はもう聞こえなくなった。


 こんな時間のかかることに、付き合いきれなくなったのかもな。


 どれだけかかるかわからないが、この種でステータスを上げてまた魔王に挑戦してやる。


 俺がヤツを倒すその日まで待っていて欲しい……とは書けないな。


 どれくらい先になるかわからないからだ。


 だから、いい人がいれば迷わず一緒になれ。俺のことは気にするな。


 俺は魔王討伐のために戦う。お前はお前の幸せのために戦え。



 これで俺の手紙は終わりだ。


 最後まで読んでくれたならこれに勝る喜びはない。


 



 いつか故郷に錦を飾れる日を夢見て……       農耕勇者 ぺぺぺぺ

畑が魔物に食い荒らされた!


魔物にも利くのかやたらムキムキになってるぞ!!


くそーめげないからなー!!よっつぁん!例のヤバイ薬を持ってきてくれー!

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